怪盗ロビンソン~シラサギを眺めて#5
2019・2・17・Su**「怪盗ロビンソン~シラサギを眺めて」* 主な登場人物* 林 翠霞(はやし すいか)・・・・「太陽は、わかってくれない#1~2」の主人公。 林 翠(はやし すい)・・・・・・翠霞の叔父さん。父の実弟。車が好きで翠霞をよくドライブに誘う。車種は白いフォルクスワーゲンのゴルフガブリオ(ガブリオレ)。水色のルポも持っている。別の学校に小学生の娘がいる。小学2年生。 松実 健太(まつみ けんた:通称 マツケン)・・・・・・6年4組の新聞係。 一色 清美(いっしき きよみ:通称 チンイツ)・・・・・新聞係班長。6年4組。 八木沢 文子(やぎさわ ふみこ:通称 ヤギ)・・・・・・新聞係副班長。6年4組。 沢田 潤一(さわだ じゅんいち:通称 ジュリー)・・・・新聞係。6年4組。* 前書き 初夏、叔父さんと土曜日のドライブに出かけた。いつになく反抗期を叔父さんに指摘されながら、ドライブの都合のいい道のりに、複雑だった。叔父さんは「バナナ熱」は何故起こるのか、調べてほしいと冗談半分で謎解きの話をしてくる。「その作者、自殺しましたか?」「いや、してはいない。でも、作品の主人公は・・勿論自殺したからね。」「その作者は、相当な嘘つきですね。」「小説だからね。」―――翠霞はその謎解きの依頼を受ける。 松実健太は、「土曜日の旅行記」を思い立つが、新聞係とは連絡を取る前に、さっそく出かけてしまう。しかし、一度も行ったことのない道に土地勘の乏しさを痛感する。以前、学級新聞の取材で出会った翠霞に自転車で遠くまで行って戻ってくる知恵を得ようと思いつく。 「ミニベロを悠長に乗りこなしているのなら、何かいいアイディアをくれるかもしれない。」 「土曜日の旅行記」はまず、自転車旅行の準備からと、マツケンは今日を綴るのだった。* #5「バナナフィッシュ通り~その4」(バナナフィッシュストリート#4)* 日曜日の朝、いつになく早く起きた。いつもの目覚まし時計が鳴り出す前に、目覚ましのスイッチをオフにして・・。意外と平日でもそんな事はよくあったが、5分前ぐらいが常で、・・まだ5時だった。 初夏の朝は、諦めが簡単につくぐらい日がすでに高く昇っていた。だからベランダに出たら外の様子は、おおよその見当がついたので、ジッと窓際で夏の朝を眺めていた。 「始まったばかりじゃないか・・。」 6月最初の日曜日の早朝、それも初夏の朝、それとも叔父さんの出したあの謎解きか、・・ただの退屈な日曜日の過ごし方なのか、鬱積した謎に無意識にそんな言葉が出て、呆然と部屋の中で朝から独り言を言う、・・そんな少年に、いい事など起こる気配はなかった。翠霞はパジャマのままで部屋を出ていった。階段の踊り場の採光用の大きなフィクスド窓から射し込む初夏の日の光以外は、辺りは真っ暗だった。・・陽射しが強すぎて、葡萄が描かれているステンドグラス風のシートには気が付かなかった。見飽きてもいた。真っ暗だと言ったのは、部屋を出た2階の廊下ではなく、吹き抜けの階段でもなく、その先、1階の廊下に続く台所のある大きなリビングの事で、防犯用の雨戸が全て閉めてあるから、全てがまだ昨日の夜のままだった。―――それも嫌だった。 翠霞は、おもむろに、何か・・多分ミルクが飲みたいと思っていたから、リビングの灯りをつけて冷蔵庫のドアを開けた。冷蔵庫のオレンジ色の灯りに照らされた食料品を見つめると、本当に自分はミルクが飲みたいのか疑問が湧いた・・だが、事情が冷蔵庫、考える間がない、牛乳の長細い箱を引き抜くと冷蔵庫のドアを閉め、ガラスのタンブラーを探した。その時偶然インスタントコーヒーの瓶が目に入った。家ではめったに見ることもない、インスタントコーヒー。この頃はドリップ式のインスタントコーヒーだから、瓶詰はとても珍しい。ことに母がインスタント類(たぐい)には敏感で、その類のものは、すぐに目に付く所には置かない・・隠すように引き出しに入っているものだから、さらに怪しく、厄介な予感がする。 ―――きっと父だ。なんでも目に付く所にモノを置きたがるから、・・ここは、いつでも二人が何かにつけて言い合いになって、時々、リビングのソファーでのんびりテレビを見ていられることも珍しくはない。もう慣れているから、・・が、そんな自分が嫌だ。鬼の居ぬ間に洗濯とは言うが、きれいになった部分を見たことがない、心は荒(すさ)んでいく一方だ。 多分、これは貰(もら)いモノだ。父は朝、コーヒーメーカーのコーヒーか、昼に1杯、ドリップで飲む程度で、普通は緑茶だ。母はその点は曖昧で・・、よって緑茶でも、またもめる、もっぱら午後、・・夜。 ブレンディの緑色の蓋をつかんで瓶を持ち上げて、・・ラベルの全面が英語だったので、持ち上げたまま瓶を裏返した。黒いラベルに白い文字がハッキリと見えた。「おいしい飲み方」の文字が目に入ったが、その下の説明が文字が小さすぎて読みづらい。翠霞は乱視だったが、家ではめったに眼鏡をかけないので、まして、寝起きに眼鏡をかける習慣は、本人が望んでいなかった。 ・・冷たい水または牛乳。 そこまで読むと瓶をテーブルに置き、タンブラーにミルクを注いだ。そのまま牛乳を冷蔵庫にしまうと、引き出しからマドラーを取り出した。マドラーを待ったままブレンディの緑の蓋を開けると、親指と人差し指で挟んで回した蓋をテーブルに置いた。翠霞は、曖昧だった。つまり、牛乳が本当に飲みたいのか、コーヒーでも牛乳でもない、・・コーヒーと牛乳で作った、―――何か。その場に立ち尽くした少年は屈辱的な皮肉に遭っていた。よりにもよって、ここで、合理性を言い合っている帽子屋のティーパーティーのテーブルで、それも自分の頭の中で朝から・・こんなのは酷すぎる。 結局、ガムシロップ入りのカフェ・オ・レは出来た。一口飲むとマドラーを洗い、キッチンペーパーで水滴をふき取り、引き出しに戻し、そのまま足早にカフェ・オ・レを持って部屋に戻った。* きめの細かいレースのカーテンから優しい陽射しが部屋で翠霞を待っていた。ベランダではエアコンの外部ユニットがすごい音を鳴らしているのだろう。ベランダにあるプランツが気になるが仕方がない。エアコンの下の壁にあるエアプランツは、多分枯れるだろうと思って、その前に買い足していたが、枯れなかったので壁をエアプランツが覆い尽くしている。・・水やりはすべて夜にしているから、朝は何もしなくなった。そうしたら、全然元気じゃないか・・。漠然とそれを見つめて、そのあとまた窓の外が気になり、窓際に歩み寄って、見える限りの地平線を眺めた。 ―――天気が良すぎる。 まず最初に、起きてから、・・それを言っていたら、自分は何をしていただろうか。この頃の悪い癖だ。そんな事を一人で考えられるほど、何もかもが満たない齢(よわい)ではないか。だがもう仕方がない・・飽きたのだ。タンブラーから一口―――カフェ・オ・レが、とても美味かった。