カテゴリ:読書日記
坂木司 東京創元社 いつから「創元クライム・クラブ」はソフトカバーになったのかしらん。次の「円紫さんと私」のシリーズがいきなりソフトカバーになったら、さみしいな。北村薫の本って、ぱさぱさした紙の文庫か、きっちり角のとがったハードカバーか、どっちかのが似合っていると思うんです。まあ、「街の灯」はソフトカバーだけどさ。続編、出ないのかなあ。出て欲しいなあ。っと、脱線。 坂木司には、ソフトカバーのが似合うと思う。やわらかくて、かるい。小説の内容に合います。 ひきこもり探偵・鳥井くんと、彼の心の拠り所・坂木くんの物語。 一部でBLぎりぎりって言われているという、ふたりの友情。この二人、共依存の関係だと二人して自覚して開き直っているので、少々タチが悪いです。 現実を描いている割に、リアリティは薄め。系統としては、北村薫、加納朋子の流れを汲むんでしょうが、同じ牧歌的風景にも坂木司の物語では紗がかかります。 「こんな夢のような話、絶対にない。」 読みながら思ったのが、「少女マンガに似ている。」それも、70年代から80年代にかけての雰囲気。細いかすれた線で密に書き込みされた、けれどトーンを使わない白っぽい画面、ふわふわとしたお話に似ています。夜の空にはいつも三日月。塀の上をネコが歩く。目を合わせて、ふっと笑いあう。かようシンパシー。センシティヴでセンチメンタル。リリカルで、弱い儚い物語。 だから、逆に、鳥井くんと坂木くんの関係が気持ち悪くないんです。少年期、いじめられていた鳥井くん、彼に手を差し伸べた坂木くん。「ぼくだけを、必要として。」かけた呪い。「君だけが、世界の窓。」かけられた、魔法。 もしかしたら、誰もが思春期、すがったことのある依存の糸に、輪をかけて輪をかけて、20代後半まで維持し続けたいびつな関係。 いくらでも歪んだ話になりそうなのに、暗い話ではありません。いい人ばっかり出てきます。 「日常の謎」のお話なのですが、謎が主眼じゃないと思う。ミステリとしては、最新作の「切れない糸」の方が、絶対におもしろい。 でも、なんだか、惹かれるシリーズです。 私が今よりもう少し子供で、もっと繊細だった頃(が、たぶん、私にもあったと思う……)なら、手放せないシリーズになったんじゃないかなあって。新井素子の「星へ行く船」に夢中になった感覚で、浮かされるように読み続けそうです。 離れがたく思うので、今から最終作をかばんに入れて、出勤です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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