テーマ:幻想的ナ物語ノコトナド(100)
カテゴリ:読書日記
江戸川乱歩
「ハハハ……、おまえたちの手にはおえないよ。相手はインドの魔法使いだからねえ。(略)インド人は今、地面に種をまいたかと思うと、みるみる、それが芽を出し、茎がのび、葉がはえ、花が咲くというようなことは、朝飯前にやってのける人種だからねえ」 なんだ、そんな魔法。インド人もびっくりだよ。 二十面相が謎のインド人に化けて、世の中を恐怖せしめるお話でした。でもって、前作の「怪人二十面相事件」を機会に結成された少年探偵団が大活躍です。それにしてもどうして、二十面相は、よりにもよって少年探偵団の団員の家をターゲットにするんでしょうか。このときには団員はまだ十人しかいないのに、世間が狭すぎます。 ああ、楽しい。むきになっちゃって、かわいいなあ、二十面相。 昭和12年に発表された小説です。今読んでも読みやすいし、おもしろい。大乱歩が、こども相手のものだからって、ちっとも手を抜いていないからだと思うのです。自分の知っているもの書けるものすべて、少年たちを楽しませるために、惜しみなく投げ出している。 二十面相は9日後に宝物を頂戴しますって予告状を出して、次の日には「8」と書いた葉書を送る。その翌日には、電話をかけて「あと6日」、さらに翌日にはお店のショーウインドウに「7」の数字を書きなぐる。 (あ、これは「緋色の研究」と同じじゃないかしらん。) 読みながら、はるか英国の名探偵に思いをはせ、素直にどきどきする。 だって次の日には、もっと近くに数字が近づいてくる。二十面相は、どこにいる? 家内の、誰に、化けている? 二十面相は最初、「黒い魔物」とやらに化けているのですが、これが最高。 月の美しい夜に、あなたの影に化けるのです。 足元に、あなたの影が横たわる。あなたが動いても、影は動かない。あなたは不気味に思って走って逃げる。影はそこに置き去りにされたまま。こわごわ、置き去りの影をみつめると、影がけらけらと笑い声を上げる。真っ黒い顔のなか、白い歯をむきだしにして。 昭和12年。夜は今よりももっと暗く、月は今よりもはるか明るかったのでしょう。 そうしてロマンチストな怪盗と、ダンディな探偵。赤い頬の少年たち。 オレンヂの夢の中、いまだ燦燦、かがやいている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[読書日記] カテゴリの最新記事
|
|