テーマ:本のある暮らし(3285)
カテゴリ:読書日記
川端裕人 早川書房
左が文庫本。この表紙にふと目が止まったのだけれど、単行本の茫洋とした装丁もまた、この物語に似合います。 小学校5年生の男の子が主人公。子どもが主人公なら「児童文学!」なんて単純には思いませんが、これは大人も子どもも読んでいて楽しいお話だと思います。うん、講談社青い鳥文庫なんか、似合いそうだ。ハヤカワってミステリとファンタジーの出版社て印象が私は強いんですけれど、オズシリーズも文庫で出しているし、意外に児童文学にも力を入れているのかも。 小学校のころ、一番おっきな場所から長ーい住所を言い合ったことありませんか? 「宇宙、銀河系、太陽系、第3惑星地球、北半球、アジア、日本、中国地方、広島県、広島市!」 すーっと、空の高みから虫ピンを落としていって、そっと足元に指す。古い小学校の二階のすみっこにある日当たりのいい図書館、その窓際の本棚のそばに立つ私、赤いゴムのついた上靴で立っているこの場所。 ここに、私が、いる。 まだ子どもで、いつか大人になることがまるで信じられないけれど、一年生よりずいぶん大きい自分が、ここにいる。 それが不思議で、タイル張りの床をつま先でとんと蹴ったっけ。 この小説に出てくる少年達はカワガキです。川の子ども。 この子達も自分の住所をでっかいところから言い始めて、日本までたどって立ち止まる。「東京……あれ?」「おかしいだろう、地名からは自然じゃなくて人が作った区別になるんだ。」 そんなら、ずっと自然の名で住所をたどっていこうとすれば? 「川の名前で住所を語ればいいんだ。日本、多摩川流域、多摩川支流の桜川流域。」 そんな話。 自然、というより、地形でしょ?なんて読みながら、つい突っ込んでしまいましたが、頭の中で自分の住所を考える。太田川流域、用水路新川ほとり、なんて。ちょっとわくわくする。足元に流れる川の音、土手を行き吹いてくる風、深夜にスタンドの明かりで読んでいるのに、川の記憶にわっと包まれる。 笹舟を浮かべて、どこまで流れていくか追っかけたっけ。流れのゆるい用水路、速さにではなく退屈さに負けて、いつも見失ったっけ。一艘くらいは海についたかな。それともトンボの休みところになることもなく沈んだのかしら。 4人の少年の冒険、自分探しの物語になるでしょう。 「世界を旅するうちに、自分の居場所を見出したくなった少年」 「世界を知らないから、宇宙に飛び出したくなる少年」 「居場所をはなから掴んでいるために、どこにも行けないでいる少年」 「ただ大人になることに、家族を愛することに、もがいている少年」 それぞれが、ひと夏の共通の体験に、それぞれの答を見出します。気持ちよいです。誰もがカタチのはっきりした冒険に取り組めるわけではないから、君達は運が良かったんだよ。なんて、ぼんやり大人になっちゃった私はひがんじゃったりするけれど。 このところ残業続きで、平日にとても本なんか読めない、家に帰ると10時近くで、読書する時間も体力も残ってないって感じだったのですけれど、昨日は8時に家に帰れて、10時過ぎ、枕を抱えて本を開いた途端、この本の中の世界に連れ去られました。 食欲性欲睡眠欲を飛び越えて、本を読みたいときがある。読まないでいた昨日より、今日の私は元気です。 くたびれたときに、夏に。 読むと、すかっと懐かしい本でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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