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![]() ブラバン/著:津原泰水【書籍】 津原泰水 最初読んで(あれ?)と思った。国道2号線。流川。耳馴染みのある道と地名。そして、方言。 主人公が振り返る、高校のブラバン部。その高校について、職場の先輩が言っていたのと同じエピソード。 「学校のそばに、葱畑がたくさんあってね。自転車通学していると葱が目に沁みて、ぽろぽろぽろぽろ、涙が出たんだ。」 これ、市内にあるK高校じゃあ? つい本の裏表紙開いて作者紹介確かめたら、案の定、K高校出身でした。ははん、私の職場の先輩もここのブラバン部に所属してたというから、この主人公たちの5学年くらい後輩になるのかな。もっと近い?じかに聞いてみたら、案外、作者と知り合いかもしれません。 と、いうわけで、近い温度にわっとのめりこみました。 私も吹奏楽部だったし。 とはいえ、80年代の話だったから、ちょっと私と世代が違います。 私のブラバン部の先輩たちが、この主人公たちと似た空気を持っていたな、と思いました。 音楽が好きだからって、ちょっとずうずうしいくらい、なんだってやっちゃうの。卒業して何年もたつくせに、頼んでもないのに、ただ好きだからって理由で高校に、合宿に乗り込んできて、自信たっぷりに指導して、クラブを引っ掻き回して去っていった人たち。迷惑じゃなかった。ただにぎやかだった。 こっちのクラブの合宿は、島とか山とかの「青少年 自然の家」みたいな施設を借りてやっていたから、そんな田舎まで、はるばるくるのはご苦労なことだったろうに、あの人たちはいつでも突然現れた。こっちは朝6時に学校に集合してバスで合宿所に向かい、ベッドメイキングや宿泊オリエンテーションなど退屈な儀式の終わる頃、先輩たちは突如登場する。私たちの練習を2時間ばかり指導したあと、じゃあって別れて帰っていく。島へ行ったときは、舟の時間をはかりそこねたのか、そのまま合宿所に泊まりこんで酒盛りをしていた。というか、酒盛りが許されている合宿所にしか、泊まっていかなかった気がする。いや、今思えばの話だけれど。 もちろん、高校生、お酒のご相伴はしませんでしたよ。その辺、先輩がたは厳しくて、たぶん、高校生にお酒を飲ませたら、自分たちが出入り禁止になってしまうから。つきあってウーロン茶でサキイカかじる分にはかまわなくて、夜更かしを多めにみる分、明日の合奏中にあくびひとつでもしたらグーで殴るって、そんな指導。 大人なのか、子供なのかわからなかったあの人たち。自分も卒業したらそうなるのかな、と思ったけれど、私たちの年代の子は、卒業したらその場でぱっときれて、あんなに密に後輩に関わることをしなかった。だから、あの先輩たちの熱は、あの世代の空気なんじゃないかと思う。 自分も所属したブラバン部の話なのに、エピソードのひとつふたつ読んで浮かぶのは先輩たちの忘れかけた顔ばかり。 そうだね、そうだったね。 私たちは、先輩たちより、もう少し無難に無難に時を過ごす癖がついていたけれど、それでもその熱はわかるんだよ。私たちも音楽が好きだったんだよ。 と、空を見上げて思う気持ち。 K高校は、飛行場に近い場所にあるから、葱の沁みる空気の中で、ぴりぴりした目に、まっすぐ伸びる、飛行機雲が見えただろう。 ブラスバンドのパート練習の音たちはばらばらに重なって、いつだって放課後の象徴になる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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