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カテゴリ:翻訳裁判所
五、訳語は厳密に選択するべきこと。 ここでも、裁判官の失笑を買った。訳語の選択が厳密でなければならないのは当たり前のことで、これまた、プロを戒める条項であるとはとても思えない。 ただ、この五には但し書きがあって、この但し書きの解釈をめぐって翻訳者の意見が対立した。「一般用語」の訳にどの辞書にも載っていない訳語を採用してはならないと書いてある。 A 特に医学全般に共通の用語には、どの辞書にも載っていない訳語を当ててはならない。 B 特に医学用語以外の単語には、どの辞書にも載っていない訳語を当ててはならない。 この「特に」が曲者だった。基本的に医学の専門用語はもとより決まっているもので、辞書にも載っていないものを採用することは本来ありえない。ただ、医学の進歩は日進月歩であるので、それぞれの専門分野では辞書に載っていないものがあるのは仕方がないが、医学全般に共通するもので、医学用語としては一般的なものということであれば、「どの辞書にも載っていない訳語を当ててはならない」という指示は十分にありえる。専門性の高いものや、最新の用語についてはインターネットなどで徹底的に調べろということで、すでに訳語が定着している一般用語は絶対に自分で勝手に決めるなということであれば、「特に」がつく意味も納得できる。 これに対して、十戒を作った鳳王が、ことばをそんなに厳密に捉えているとは思えないという意見が出た。一般用語というのは、日常でごくふつうに使われていることばというくらいの意味で使っているんであって、要するに、鳳王が辞書に過大な信頼を寄せているということである。辞書の絶対性を疑っていない。辞書さえあれば、専門的な分野以外の翻訳は問題なくできると考えているのではないか。 そうだとすれば、大変危険なことだ。 結局、意見の一致がみないまま、その日の審議が打ち切りとなった。 とりあえず、十戒のうち、五までがそろった。 一、時制を正確に訳出するべきこと。 二、構文、品詞を正確に把握し、正確に訳出するべきこと。 三、原則として、やむをえない理由がないかぎり、態(能動態、受動態)を変えてはならない。 四、関係代名詞の制限的用法と非制限的用法とを訳し分けるべきこと。 五、訳語は厳密に選択するべきこと。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.12.07 16:42:53
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