ジ・オルタネイティブ・フォー・ジャパン
We call upon the Government of Japan to proclaim now the unconditional surrender of all the Japanese armed forces, and to provide proper and adequate assurances of their good faith in such action. The alternative for Japan is prompt and utter destruction. * ポツダム宣言の第13条だ。ジ・オルタネイティブ・フォー・ジャパン・イズ・プロンプト・アンド・アッター・ディストラクション。右以外ノ日本国ノ選択ハ迅速且完全ナル壊滅アルノミトス。最後の最後のこればっかりが有名だけど、全体をざっと眺めてみるに、いいねえ。まるで架空請求詐欺の〈最終的通告文〉みたいな感じで。 とても読めたもんではない。歴史家の先生どもは日本政府がこれを黙認したのはどうのこうのと言うが、しかしこんなの黙殺がむしろ当たり前のように感じる。最後の一行までなんか誰もたどり着けはしないし、読んだところで意味不明だ。原爆なしにはこれはハッタリの脅迫状で、1997年・神戸の〈酒鬼薔薇聖斗〉が書いた《さあゲームの始まりです。うんぬんかんぬん》と変わらないものを難しい語句を使ってダラダラと書き連ねただけに過ぎない。 と言うしかねえんじゃねえか。それでも無理に読んでみると、第4条、《無分別ナル打算ニ依リ日本帝国ヲ滅亡ノ淵ニ陥レタル我儘ナル軍国主義的助言者ニ依リ日本国ガ引続キ統御セラルベキカ又は理性ノ経路ヲ日本国ガ覆ムベキカヲ日本国ガ決定スベキ時期ハ到来セリ》と、結構いいこと書いているところもある。たぶんいま君、ここを読み飛ばしたと思うがちょっと戻って読んでみなさい。おれにはこの宣言で、ほんとのほんとに重要なのはこの一文のような気がする。歴史家のたとえば半藤一利だとかはこの条項を読み飛ばしているだろうが。 助言者だからな。 と。さて、これと比べて、グリ森事件の、 * けいさつの あほども え おまえら あほか人数 たくさん おって なにしてるねんプロ やったら わしら つかまえてみハンデー ありすぎ やから ヒント おしえたる 江崎の みうちに ナカマは おらん 西宮けいさつ には ナカマは おらん 水ぼう組あいに ナカマはおらん つこうた 車は グレーや たべもんは ダイエーで こうたまだ おしえて ほしければ 新ぶんで たのめこれだけ おしえて もろて つかまえれん かったらおまえら ぜい金ドロボー や県けいの 本部長でも さらたろか * こっちはもう、本当にいい。なんだか文学の香りすらただよってきはしませんか。「どこが」って、あなたは言うかもしれませんけど、宮沢賢治の詩みたいでしょう。雨にも負けず風にも負けず、そういうものに私はなりたい。おれもこの犯人達のようになりたい。 難しい語句を使わず、簡潔に、己の思うところを述べる。文意は明確で切れ味が良く、リズミカルで調子がいい。それが達人の文章であり、〈かい人21面相〉の手紙は脅迫文文学だ。 おれは真剣にそう思うが、しかしバカにはわかんねえのな。〈酒鬼薔薇聖斗〉とか宮崎勤の手紙なんかを、 「これは天才の文章です! IQ130、いや、それ以上かも!」 と当時の専門家はこぞってわめき立てていた。 この話は前にしたよね。おれは「どこが」と思ってたんだが、グリ森事件のときは、 「犯人どもはこんなものを書いて何がおもしろいと言うのか! まったく気が知れませんね。許せん! 世間をバカにするのも大概にしろとワタシは言いたい!」 なんてなことを言う連中を「バカか」とだけ思って見ていた。 とか言うおれは、もちろんたいして頭のいい人間じゃない。それは自分でよくわかっている。学校の勉強なんかできなかったし、間違った会社の就職面接を受けてしまって訊かれることに何も応えられなかったことがある。 みうらじゅんの大学時代の友人が、このとき何も応えられなかったように。おれならこの子に、 「悪い奴だからだあ~っ!」 と言ってやれる自信がある。《戦闘員さん、それはボクの質問の答になっていないのでは》という表情をこの子がしても、 「お前、悪い奴にそんなこと聞いてどうするつもりなのだあ~っ!」 と言ってやれる自信があるけど、〈かい人21面相〉は最後の手紙に、 《悪党人生 おもろいで》 と書いてそれきり姿を消した。 「どこが」と言うやつがいてもおれは言う。断固として言う。文学だ。これは脅迫文文学なのだ。ウィキには彼らが丸大ハムを脅迫したとき、 * (略)「わるでもええ かい人21面相のようになってくれたら」と丸大食品のキャッチコピー「わんぱくでもいい たくましく育ってほしい」をもじった言葉を使った(略) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%BB%E6%A3%AE%E6%B0%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6 とあるが、その通りだ。その通りですよ、先生。「先生」と呼ばせてください。おれはあなたのようになりたい。 ライダーショーのプロデューサーだかなんだかは、大学生なら子供に何を訊かれても応えられると思ったのだろう。バイト戦闘員君は〈面接の達人〉となってどこかに就職し、部長くらいに今はなっているのだろう。たぶん、きっと、1984年。グリ森事件当時の、 大阪府警本部長 大阪府警刑事部長 森永製菓物流部長 この人達のように。四方修の顔もいいけど、上坂すみれさんがラジオで、 「わたし、小池都知事の画像をですね、加工するのが大好きなんです。〈小池都知事を盛る〉っていう遊びがわたしは大好きなんですけれども」 だとか前に言ってて、さすが。到底拙者などの力の及ぶところではない。まだまだ修行が足りないと痛感する次第ですが、この一年間、ずっとずっと、小池都知事は、 この画でおれが白く消した顔と同じ顔をしている。「コロナってなんなの? コロナってなんなの? わからない! みんな、あたしが実はなんにもわかってないのに気づいないようだけど、どうしたらいいのよ。なんなのよ〈波〉って。なんによって引き起こされて、起こるとどうなるって言うの? 何も知らないことがバレたらあたしはおしまいじゃないのよお」という顔だ。けれども知事なのだから、それを決して口に出せない。 しかしテレビに映ったときに画面に耳を当ててみれば、骨伝導で心の叫びがはっきり聞こえる。試してみたまえ。それがコロナの〈禍〉の中で日本の首都の知事をやらねばならない者の姿だ。 池上彰なんかに会っても、 「知事はもちろん、〈波〉がなんにより引き起こされ、起こるとどうなるかおわかりですよね?」 と言われるだけだから、 「もももももちろんですとも」 と応えるしかない。助言を乞うため学者を集め、恐る恐る、 「えー、〈波〉がなんにより引き起こされ、起こるとどうなるという件ですが……」 と切り出してみればどういうわけか、学者の全員が眼をそらして黙ってしまう。10秒、20秒、30秒。1分半くらいしてからやっと、ひとりが、 「それについては知事はもちろん、おわかりになっておられますよね?」 と言うのでやっぱり、 「もももももちろんですとも」 と応えるしかない。相手はホッとした顔をして、 「そそそそうですか。感染者が減ったからと言って油断してはいけないのです。その証拠に、検査態勢を2倍に強化したところ、新たな感染者が前日の2倍になりました。実は減ったように見せて拡大させてたのですよ。コロナというのはそれほどまでに油断のならないウイルスなのです。緊急事態宣言を解除しなかったのは賢明でした。それをしなければ間違いなく、迅速かつ完全な壊滅を見ていたでしょう」 と言う。そうなのか。良かった。けれども、何か言うことがおかしな気もする。しかし、それがなんなのかわからない。学者達はみんなウンウンと頷いていて、この助言に従うだけが己にできる選択だから、これを続けるしかないのだけれど、誰もがみんなあたしが見ると眼をそらすのはなんでなのよお。 というのが東京都知事・小池百合子の毎日なのがテレビに映る顔を見て手に取るようにおれにはわかるが、えーとそれから……まあいいか。話はまだまだあるんだけども、今日のところはここまでにしましょう。ほんとは毎回これくらいの長さでやっていきたいねん。