カテゴリ:前立腺がん
◆◆ 期待されるPSMA治療の問題点 ◆◆ 今、世界中の前立腺がんの専門家の注目を集めているのは、 PSMAを応用した、診断と治療 遺伝子検査による個別化医療 最新の学会や医学雑誌では、この2つが話題の中心といっていいでしょう。 それだけ、PSMA治療と遺伝子解析を用いた個別化医療が、進行前立腺がん、去勢抵抗性前立腺がんの治療で期待されているといえます。 <PSMA治療> PSMA治療をみなさんご存じでしょうか? 西郷輝彦さんが、コロナ下、オーストラリアに行って、 ここでも紹介しています。 PSMA (prostate specific membrane antigen;前立腺特異的膜抗原)というタンパク質を標的とした治療法です。 PSMA (前立腺特異的膜抗原)は、良性の前立腺組織に比べて、前立腺がん細胞において発現(細胞表面に出てくる)が著しく上昇することが知られています。 PSMAは前立腺がんにおける発現の亢進、発現量と悪性度の相関が報告されており、 PSMAが前立腺がん細胞で強く発現しているとすれば、体内でのPSMAの存在がわかれば、どこに前立腺がん細胞が存在するかがわかることになります。 つまり、PSMAは診断目的で理想的なターゲットとなります。 また、このPSMAを標的にすることにより、前立腺がん細胞だけを狙う治療も可能です。 PSMA-617が開発されました。 PSMAにくっつくPSMA-617に放射線同位元素をラベルして、 日本では、保険診療できないため、多くの方が、海外でPSMA治療を受けています。 進行前立腺がん、去勢抵抗性前立腺がん、転移性去勢抵抗性前立腺がんの患者さんは、 最終的には、この治療にたどり着き、 たくさんの方が、大金を使って、この治療を受けに、外国に行かれています。 PSMAを応用した画像診断も、盛んに行われています。 進行前立腺がん組織では、 このPSMAにくっつくことを利用したPSMA PET/CTの画像診断、 そして、177Lu-PSMA治療が、世界中で行われています。
<PSMA PET/CTによる画像診断> 前立腺がんが生検などで診断された時、日本では、胸腹部CTと骨シンチが行われます。 施設によっては、生検前後に前立腺MRIも行うと思います。 昨今は、DWIB(ドゥイブス)法という全身MRIも施設によっては利用可能です。 MRI、胸腹部CT、骨シンチを行うことで、前立腺がんの前立腺周囲への拡がり、リンパ節転移の有無、内臓転移の有無、骨転移の有無を評価します。 前立腺がんの診断になれば、前立腺がんが見つかれば、 日本で受けられないPSMA PET/CTですが、 海外では、積極的に診断の道具として用いられてきています。 胸腹部CTや骨シンチ、DWIB(ドゥイブス)でわからなかった、前立腺がんの転移や再発が、PSMA PET/CTでわかる可能性があります。 PSMA PET/CTは、CTなどより、 リンパ節転移があるにもかかわらず、 どうもPSMA PET/CTはより早期に、リンパ節転移を検出できるようです。 例えば、放射線療法や手術前に、PSMA PET/CTで小さなリンパ節転移が見つかれば、 遠い部位の転移であれば、そこに放射線療法を加えることができます。 今までわからなかった、微小転移をPSMA PET/CTで見つければ、 手術や放射線療法の前に、PSMA PET/CTを行うことで、 また、手術や放射線療法後にPSAが徐々に上昇してきた場合に、 PSAが0.4-0.5ぐらいのときに、 その場合、このPSMA PET/CTが有用で、CTやその他の画像診断でわかる前に、見つかる場合があって、 つまり、再発部位が大きくなる前に、 前立腺がんで、内分泌療法や新規抗アンドロゲン剤(イクスタンジやザイティガやアーリーダなど)で落ち着いていた患者さんが、 その場合、どこの再発なのかを、 一部の転移部位のみの再発であれば、 このように、前立腺がん細胞がPSMAを発現することを利用して、 <PSMA PET/CTと177Lu-PSMA治療の有効性と限界> オーストラリアからの報告 対象は、去勢抵抗性前立腺がんの患者さん 50人 です。 すべて、転移性去勢抵抗性前立腺がんであり、様々な全身治療を受けた後です。 治療は6週ごとに実施し、治療前後でPSAへの効果、副作用、画像、進行状況、生存期間を評価しています。 177Lu-PSMA治療は6週間隔で4回までを基準としています。 <PSAの低下> PSMA治療前後でのPSAの変化率です。 治療前のPSAからの治療後の変化をみた図です。 下にいくほど、PSAが低下したことを表しています。 大部分の患者さんでPSAは低下しています。 PSAが治療前に比べて、 50%以上低下したのが(青の部分)、64% 80%以上低下したのが、44% 98%以上低下したのが16%(8人) でした。 素晴らしい効果です。 <画像上の改善>
骨シンチでの完全緩解率 32% 進行24% Tでの奏効率 56% 進行33% PSMA PET/CTでの奏効率 42% 進行28% 進行した場合によくみられるのは、 次に示す画像は、 赤の部分が転移部位です。 上4つ、下4つある合計8つある各区画は 各8つの区画の中の、 赤で示されたほとんどの転移部位が消失しています。 様々な治療後に増悪した進行前立腺がんの患者さんですから、 副作用で目立ったのは、 画期的な治療のようにみえます。 実際の予後(生存期間)はどうでしょうか? 生存率のグラフをお示しします。 全体の生存曲線です。 最後の治療としてのPSMA治療ですので、 解析時に、50人中43人が亡くなられています。 生存期間の中央値は、13.3ヶ月でした。 PSMA治療後に、PSAが50%以上低下した患者さんでは、 PSAの低下が50%以上だと、生存期間が延び、 最終的には、ほとんどの患者さんで、 50人の患者さんは、 そのような患者さんでも、このPSMA治療は、 PSMA治療後に、PSAが98%以上低下した8人のPSMA PET/CTの結果・画像(上に示した)は、 ただし、PSMA治療の限界も、この論文で示されています。 ほとんどの患者さんで、PSAは再上昇し、 生存期間の中央値は、13.3ヶ月でした。 様々な治療を行った後での進行前立腺がんでのPSMA治療ですので、 すべての患者さんで、この8人のように、 <177Lu-PSMA治療の効果が悪い機序は?> カリフォルニア大学ロサンゼルス校のMasatoshi Hotta博士の報告です。 転移性去勢抵抗性前立腺がんの患者さん301人に対し、177Lu-PSMA治療を行っています。 PSMAと結合する物質に放射線同位元素をラベルして(くっつけて)放射線で、 301人中272人は、PSMA PET/CTで、転移部位が確認できました。 一方、301人中29人で、PSMA PET/CTで十分検出できなかったとのことです。 29人中8人では、PSMAが発現していない転移 29人中21人では、PSMAの発現が低い転移 との結果でした。 前立腺がんは均質な疾患ではありません。 このPSMA発現が低く、PSMA PET/CTで写りが悪かった患者さん29人では、 177Lu-PSMA治療は、 PSMA PET/CTですべての転移部位や再発部位がわかるわけではないことは、知っておく必要があります。 どうも、転移性去勢抵抗性前立腺がんにおいて、 転移性去勢抵抗性前立腺がんで転移部位に関して、 i)転移部位がPSMA陽性 ii)転移部位がPSMA陰性もしくは発現が低い iii)転移部位がPSMA陽性とPSMA陰性/発現が低い部位が混在
そのため、PSMA治療で、PSMA陽性の部分は消失し、PSMA陰性もしくは発現が低い部分は、進行増大した可能性があります。 実際のところはわかりません。あくまで推測です。 珍しいようですが、177Lu/225Ac-PSMA治療後に、 もし、PSMA陰性化すれば、当然PSMA治療の効果は期待できません。 多くの前立腺がん細胞が、PSMAを発現していることはわかっています。 論理的には、PSMAをもっている前立腺がん組織は、177Lu-PSMA治療で、効果が期待できるはずです。 しかし、実際は簡単ではありません。 夢のような治療に思えた177Lu-PSMA治療にも、 限界がある事がわかってきました。 <PSMA抵抗性の新たな機序?> せっかく放射線同位元素をラベルした、PSMA-617が、 PSMAを発現している前立腺がん細胞に、 PSMA-617より、しっかりPSMAに強固にくっつく物質の開発が、 期待される薬剤の臨床試験が、米国を中心に行われています。 今月のまぐまぐの配信では、 面白かった、ためになったという方は、クリックしていただけると嬉しいです。
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個人的にはアポトーシス耐性を解除できる薬剤の登場の方が大事な気がしています。そもそもCRPC自体が放射線に抵抗性ならばPSMAで完全駆逐は難しいでしょうし、薬剤、放射線耐性を解除しながらPSMAなどの薬剤が使えた方が理想的な気がしますね。
(2023年12月17日 22時50分31秒)
個人的にはアポトーシス耐性を解除できる薬剤の登場の方が大事な気がしています。そもそもCRPC自体が放射線に抵抗性ならばPSMAで完全駆逐は難しいでしょうし、薬剤、放射線耐性を解除しながらPSMAなどの薬剤が使えた方が理想的な気がしますね。
(2023年12月17日 22時50分31秒)
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