2005/10/13(木)18:59
愛しい人
僕は最終便のタラップを降りて、バゲジのエリアを抜けると、きみの足が見える。
それはため息のでるような、数百人のなかから見いだせる美しさで、その足の再会の金曜の夜の、予定された出来事を、妄想とともに、脳裏を駆け巡り、気分のすぐれない東京の週末を放擲して、飛び乗った羽田の憂鬱のかけらも、もはやそこにはなかった。
彼女の運転する彼女の父親のだという国産のロイヤルサルーンの助手席で、郊外の空港を眼下に、高速道路のセンターラインの向こう側に、下弦の黄色い月や、散りばめられた星屑が、見えた。
電源の切れたままの携帯電話を、ダッシュボードにほうり込むと、僕は助手席のシートを倒して、運転席の長い髪の彼女を見た。
当時非常勤の職業を、27歳の若さでしていた。
彼女は地方の財界人を父に持つ、打算をしらない、美術系の仕事をその父親の縁故で行っていた、そのクライアントの上場企業と取引をしていた。
まあ地方財界がどの程度のものかしらないが、彼女の妹の婚約者の担当美容師は、自分の美容室を駅前のPARUCOに御祝いにもらったらしいし、家業の不動産管理会社は100世帯かのマンションを数棟所有していたようだ。まあ資産20億円程度の感じだったが、東京本社の情報によると、負債はその数億円超えたていどあるようだった。
僕はそういった実業に興味はなかったし、彼女の実家の存在は、僕が彼女にあいたいと思う気分と関係はなかった。
まあ そういったふうに、その週末は始まったのだった。