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カテゴリ:BOOK
角田光代さんの「銀の鍵」を読んだ。 筆者あとがきによると、この物語はアキ・カウリスマキ監督の2002年映画「過去のない男」を観て書いた「感想文」だという。私はこのことを知らないままに本を読んだのであるが、正直あとがきを読むまで、映画を観て書いたということには気付かなかった。角田さんは「オマージュでもない」と書いているが、そう言われると私には、角田さんの「過去のない男」へのオマージュに思えた。 「過去のない男」は素晴らしい映画作品で、私も強く印象に残っている。地味な内容の映画なのであるが、しんみりと心を打つ作品である。主人公の中年男は残酷な悪意で過去の記憶を失う破目になるのが、過去の記憶が無くとも人の「善意」というものの暖かさを理解する部分は失わずにすむらしいと角田さんはホッとしている。私がすごく面白いな(あとがきで)と思ったのは、全く記憶を失ったとしても、善意に触れていると内なるものと共鳴して「善意」を理解する、というようなくだり。角田さんは「性善説ではない」と断わっていて、もっと根源的なものを感じているようである。この感覚には私も非常に共感を覚える。 この映画「過去のない男」は音楽がとても良かった記憶がある。 サウンドトラックCDを調べてみると確かに面白そうだ。 この映画も、もう一度DVDを観てみようかな。 自宅に、木槿(むくげ)の花が咲き始めた。赤と白が咲き始めているが、蕾がたくさんあるので、次々に花がひらいていくだろう。 植物には、何か幸せなことを感じたり、善悪の記憶などは、ありえない。世代の遺伝で環境に適応してきた光合成の物理法則で増殖しているだけと言われればその通り。でも、今を生きるその姿には何か「ひたむき」な意志を感じてしまう。 われわれ人間は言葉や文字、あるいは知恵を形にした道具で、過去の蓄積を自分のものとして恩恵を受けている。しかし、たぶん、それが自分を形作る全てではなく、今の瞬間に反応する個人的・根源的な何かがあるはずだと思う。そう思いたいでしょう。過去のやってきたことや仕事の実績で今の自分の生活が成り立っているのは事実ですが、それだけじゃない今の自分の何かがないはずはない。。。 どんどん伸びて咲く花木をみているとそんなことを考えてしまう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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