現代を先取りした「ホツマ」の宇宙観
『ホツマツタヱ』を記録するヲシテ(ホツマ文字)や、その48文字を並べた「アワのうた」が言語学的に見て、カタカナやひらがなよりも進んでいるという話を書きましたが、文字だけでなく、『ホツマツタヱ』が示す宇宙観もまた、非常に進んでいて驚きますので、今日はこのことを書いてみることにします。宇宙の始まり、天地開闢については『ホツマツタヱ』のあちこちで述べられていますが、数字まで挙げて具体的に宇宙の構造を示しているのが、『ホツマツタヱ』と同じくヲシテ文献の一つである『ミカサフミ』です。その第6章にあたる「たかまなるあや」です。「タカマ」はご存じ高天が原の「タカマ」ですが、もともとは「宇宙」という意味です。この文章から訳しながら紹介していくことにしましょう。(テキストは松本善之助監修・池田満編『校注ミカサフミ・フトマニ』(展望社 1999)参照。) あめつちいまたならざるに あめのみをやのなすいきは きわなくうごくあもとかみ みつにあふらのうかむさま めくるうつほのそのなかに あめつちとヽくみはしらお めくりわかるヽあわうびの あわはきよくてむねをかみ うびはにごりてみなめかみ をはかろきよくあめとなり めはおもりこるくにのたま うをせのむねはひのわなる うめのみなもとつきとなる<この世の初め、まだ天も地もなかった頃のことです。アメノミオヤという神様がふっと息を吹きかけると、それまでこの宇宙の初元の状態(アモトカミ)は、水に油が浮いているような状態で、それが空間を漂っていたのですが、そこに吹きかけられた息によって天まで届く大きな柱が出来、その周りをアモトカミがグルグルと巡り始め、やがてアワとウビという2つのものに分れてきました。アワは清らかなものでこれが「陽」、男の神となり、ウビの方は濁って「陰」、女の神となりました。「陽」は軽いので天となり、「陰」は重いので凝り固まって地球(クニタマ)となりました。更に軽い「陽」の大きなものは太陽となり、重い「陰」の大きなものは月となったのです。>ここで私がまず驚いたのが、天地が出来る時の「地」が単なる大地でなく、地球という球体のものとして認識されているということです。更に、その地球と月とが重たい固体でできているのに対し、太陽は軽い気体で出来ていることも認識されています。これは月がケイ酸塩や鉄、ニッケルの塊で出来ていて、太陽は水素とヘリウムから成るガス球であるという私たち現代人の常識と一致しています。さて、『ミカサフミ』では、天体の大きさを表わすのに「トメヂ」という単位を使っています。1トメヂは地球の円周の365分の1と定義されています。これが地球の大きさを基準に定義されていることは注目すべきことだと思います。何故なら、現代の私たちが普通に使っている「メートル」も地球を基準にしているからです。1メートルは地球の子午線(円周のうち、北極と南極の両方を通る線)の4000万分の1と定義されているのです。従って、地球の円周が4万キロちょうどなのは偶然ではありません。定義からそうなっているだけなのです。同じように、古代の日本人も地球の円周の365分の1を1トメヂと定義したのでした。従って、地球の円周は定義から365トメヂとなります。ここで、地球の直径が114トメヂであることも明記されています。365を円周率πで割ると116になりますから、円周率についてもほぼ正確に知っていたこともわかります。さて、このトメヂという単位を使って、宇宙や天体の記述がなされます。ひのわたり もヽゐそとめぢつきのほど なそとめちうちひのめぐり なかふしのとのあかきみち やよろとめちのつきおさる つきのしらみちよよぢうち くにたまわたりもそよぢの めくりみもむそゐとめぢの つちよりいかきひはとおく つきはなかばにちかきゆえ ならべみるなりもろほしは あめにかヽりてまたらなす<太陽の直径は150トメヂ、月の直径は70トメヂ弱で、太陽が地球を巡る「アカキミチ(明き、赤き道)」はこの地球を去ること80,000トメヂの所にあり、月が通る「シラミチ(白道)」は40,000トメヂ弱の所にあります。また地球の直径は114トメヂでその円周は365トメヂあります。この地球から太陽は遠くにあり、月はその半分位の、より近い所にあるために、太陽と月とはほぼ同じ大きさに見えます。また何百万という星は天空に掛かり、ちりばめられています。>太陽と月とはほぼ同じ大きさに見えるわけですが、実際には太陽の方が月よりも大きく、それは地球からの距離が違うからだという説明は、現代の私たちの常識そのままです。例えばガリレオやコロンブスの時代の人たちに比べて、遙かにその後の天文学が明らかにした事実に近いと言えます。試みに、上の数字で単純な比例計算をすると、月と同じ距離にある場合、月を1とすると太陽は1.07倍の大きさとなりますが、現在私たちが知っている数字、太陽の直径139万2千キロ、地球からの距離1億4,960万キロ、月の直径3,476キロ、距離384,400キロで計算してみると、月1に対し太陽は1.03倍の大きさとなり、これもかなり正確と言えます。そして、その太陽より遠いところに星(恒星)は存在しているというのですが、これもまた更に詳しく次のように述べられます。 そとはたかまのはらまわり もヽよろとめぢほしまては そゐやちとめぢこのそとは なもとこしなえ<この大宇宙の円周は100万トメヂであって、従って地球からそこにある星までの距離は158,000トメヂです。その外側にあるのがその名も「トコシナエ」の国なのです。>これも、100万を円周率で割ってその半径を出すと159,154になりますから、158,000というのは正確な計算と言えるでしょう。興味深いのは、こうして、その地球を中心に月が円軌道を描き、その外側を太陽が円軌道を描き、そしてその更に外側に宇宙の境が球として認識されており、更にその外側にまた別の世界があると想定されていることです。現代の科学は、どうも私たちの宇宙とは別な宇宙が、この宇宙の外側にあるらしいことを明らかにしているようです。それは、地球を中心とする天道説ではありますが、こうした現代の科学、天文学に匹敵する宇宙観であり、私は、古代の日本人が、恐らくは他の民族に先駆けてこのような宇宙観を持っていたことを誇りに思うのです。更に、この宇宙の外側にあるという「トコシナエ」の国。人間の魂はそこからやって来る、というこれまた魅力的な世界観が『ミカサフミ』には伝えられています。が、長くなりましたので、この話はまた別の機会にすることに致しましょう。