夢で見たバーチャルガーデニング大全という本がきっかけだった。興味はそそられるが中身のほとんど読めないその粗筋を追って､やむなく自分で創り上げるべく書きなぐってきた下書きである。それも､そろそろ核心に迫ってきたような感がある。
　庭とは何か､その仮の定義が必要なのだ。定義づけをしないということはクラス分けしないということであり､つまり型枠が形成されないので､その詳細をコピーして伝達することも不可能である。早く言えば､商売にならないのだ。商売にならない本など､誰も買わない。

　これまで､バーチャルガーデニング､つまり仮想現実のガーデニング作業を通じて､ガーデニングとは何か､その目的となる庭とは何かを探ってきた。もちろん､もとより定義が目的ではないのだが､ガーデニング行為について､その実行力のある行為について述べる以上､庭についてのクラス分けされた概要は避けて通れない。ガーデニングの目的が庭の創出であるなら､バーチャルガーデニングの目的が何であるかを明るくするためにも、必要なことのように思えてきた。

　これまでの舌足らずな論述で､庭という概念が､もともと極めて曖昧で広いものであることを確認してきた。それは日常の時空のみならず､仮想現実の時空に浮かぶ､非常に個人的な（公共のものであっても）楽園願望のようなものでありながら､その行為自体が意味を持つような具体的な作業でもあること。そしてガーデニング作業というその行為を通じて､外部と､そして自己の内部に同時に形成されていく未到来のイデーのようなもの､つまり目的の成果品を未知の時空に仰ぎ見ての作業だということを確認してきたのである。
　それは自然との出会いを演出し､自分の所属する時とその文化を確認し､中庸の楽園を描き出して､同時に自己を見直して形成していく作業でもあることを見出してきた。
　それらの確認はことごとく､仮想時空における具体的作業､いわばバーチャルガーデニング作業を必要とするガーデニング行為であることを指し示しているように思われる。

　庭を創る　＝　ガーデニング　＝　バーチャルガーデニング行為が基礎＋何か
　こんな図式が浮かんできたのだ。

　ガーデニングの目的であるところの成果品としての庭は、端的に言うと､仮想現実としての自然に手を加え､それを偽装現実としての､新しい自然にまで仕上げてしまうようなメタモルフォーセ（変身物語＝神話）が絡んだ一連の作業であるように思える。
　そのさい､自然というものの定義や捉え方､アプローチの仕方が人によって違うので､庭の定義も個人個人で違ってくる。更に民族間では､当然のように文化的な大きな差異も当然のように生じてくるわけである。この違いのみに目を奪われると､庭園文化史は立派な記述になるが､庭の本質は､ほとんど見えなくなる。それゆえ文化史は、あえて避けて通ってきた。
　そして庭を語るさいには､そこでは必ず「仮想現実としての自然が呼び込まれて形あるものとして形成され､その構想力にも似た力､つまりテンポラルに反復される力によって､庭が庭として成立している」ことを見出したのだった。しかもこの見出された庭の中の自然は､実は日常の普遍的な自然ではないのである。むしろ人工の､私個人の自然､仮想現実、というよりむしろ偽装現実と呼ぶにふさわしいような自然ではなかったのか。

　古今の庭園というものの中で､最も複雑に発展した文化の形として､我々はイギリス式自然風景庭園と､日本式の箱庭風自然庭園を上げることが出来るように思う。これらが語ろうとしているものは､決して仮想の現実や夢ではない。偽装された自然の風景そのものなのである。言わば新しくそのつど定義された自然風土が、そこに､（つまり造園家によって商売用に）インスタンスされて出現しているのである。
　庭とは本来が個人のものなので､造園家の心がそこに創り出されていると言って良い。
　庭とは、個人が身体の外部に創り上げる､自分のクラス化された心なのである。