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しかし当の大蛇はアニッタ達を無視し、沈む夕日のようにしずしずと、開け放たれた部屋から逃げ去りつつあった。アニッタは叫んだ。
「違う! 俺が殺そうとしたんではない。自分で舌を噛んだんだ」 「どうせ、雇われ乳母なんぞ生きてはおれんさ。シウの巫女が処女を失うんだからな」 ハラハシュタイが抵抗する女を剥きながら、せせら笑った。 「辱めを受けたら、私も死にます」 「勝手にするさ。だが、お前は死ぬ前に俺の女になるんだ」 足の立たない、か弱い女をハラハシュタイが殴りつる。かみつこうと抵抗する女の口にハラハシュタイが猿ぐつわを噛ませた時、アニッタの犬の意識の奥底で何かが目覚めた。 アニッタは叫んだ。 「もう沢山だ。自殺者が出て、その上こんな幼い女を虐めて、何が楽しいんだ」 ハラハシュタイは、アニッタが臆したと見たらしい。 「心配はいらん。じきに火事が出て、神殿は焼けた岩山になる。神殿の目撃者も、全員焼け死ぬ」 「何だと?」 「犯人も、すでに用意してある。俺たちは消火に駆けつけた優等生になるんだよ」 「いずれ、あんたのものになる神殿だぞ!」 「護衛長官になってしまえば、こんな無謀な遊びもできん。神殿に逃げ込む女を、ものにすることもな」 「何だと! あんたの本当の目的は何だ」 「一度、この女を抱くことさ。犬の面前でな」 「何と! そのために神殿を焼くというのか!」 「そうだ。俺が犯った後は、お前たちで好きに遊んでいいぞ。どうせ全焼の犠牲にして口封じする予定だ」 貴族の子弟達は、若い巫女見習い女たちに狼のごとく殺到した。 クッシャラでの、最後の夜の記憶が鮮明に蘇った。幼い記憶だ。 企まれた宴席の焚き火が、結局、集落を焼き尽くすことになった遠い日の出来事である。・・・ 敵兵に犯され、切り刻まれる姉や妹達の悲鳴が聞こえた。アニッタは無意識に叫んでいた。 「やめろ! もう沢山だ。 俺は、こんなことは許さん!」 「何だと? 本気か?」 「本気だとも。女を放せ」 「おい、裏切りの狂犬が出たぞ! お前達で片づけろ!」 後は無我夢中だった。日頃は疎遠なはずの犬の多くがアニッタの加勢に出たことも、気がつかないくらいだった。 大乱闘のあげく、ハラハシュタイの懐刀を伸した後は、一人の貴族が持っていた短剣を奪い、それで次々と数人に手傷を負わせた。気がつくと当のハラハシュタイも、顔面を押さえてうずくまっていた。満足に歩けないクリムマを背負い、その場から逃げ出していた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年08月11日 12時12分05秒
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