カテゴリ:政治経済
久しぶりに仕事関連の話を。 政府が今日の臨時閣議で2008年度の政府経済見通しを了解、夕刊の新聞各紙に紹介されました。物価変動を調整した実質経済成長率は2.0%、名目経済成長率は2.1%だそうです。 この政府経済見通し、私自身が経済予測の仕事を始めた99年ごろは結構注目されていたと記憶しています。当時も多くの民間シンクタンクが経済見通しを発表していましたが、「政府見通しがいくつになるか」ということを気にするお客さんが少なくありませんでしたし、報道の世界では、政府見通しの数字を早めにつかんで報道する競争もしていたと記憶しています。 しかし、ここ数年は政府見通しへの注目度合いは急速に低下しているような気がします。 一つの理由は政府と民間の見通しがほとんど変わりがないことにあると思います。しかも、民間予測の方が早く発表され、その平均値や分布状況(コンセンサス)も新聞や調査機関などですぐに計算・公表されています。 さらにいえば、そのコンセンサスは政府経済見通しの担当部局である内閣府(旧・経済企画庁)の外郭団体、経済企画協会でも毎月計算、公表されています(ESPフォーキャスト)。成長率見通しの相場観がすでに形成されている中で、「政府見通しだよー」って後だしじゃんけんのように出してきても、「それが何か」(ハケンの品格風に)という反応になることも無理ないでしょうね。 ☆☆☆☆☆☆☆ さらに、私自身は、政府経済見通しを作る目的が果たして残っているか、という根本的な問題が問われ始めているのではないかと思っています。 これは日銀が行っている展望レポート(経済・物価情勢の展望)と比較するとわかりやすいでしょう。展望レポートは未だに注目度が高く、その結果に対し、民間エコノミストも交えた様々な議論が行われています。最近では楽観的過ぎるのではないかという批判も少なくありません(私もそう思ってます)。 このように注目されるのは、展望レポートの背後に、日銀の金融政策があるからです。金融政策は待ったなしなので、日銀内部で継続的に景気の現状判断を行い、見通しを修正する必要もあります。一方、日銀が政策金利をどう設定するかは、私達の身近な預金金利、ローン金利、景気にも影響を与えます。日銀が誤った金融政策をしないように多くのエコノミストがその動向をウオッチしているからこそ、日銀の展望レポートが注目されるのです。 翻って、政府の経済見通しは何のためにあるのでしょうか。昔は、景気が悪化しそうだと思えば、政府は経済対策を組んで実行するという役割がありました。しかし、小泉政権以降、景気に関係なく、公共投資は毎年削減を続けています。さらに、最近は公共投資に代表される財政出動よりも、税制などの制度改革を通じて、経済構造改革を進めることが政府の中心的な政策となっています。極論すれば「景気変動は放って置く」が政府の方針なのです。さらに、最近は、景気変動への対処は金融政策で行うという考え方も主流になっているようです。 ☆☆☆☆☆☆☆ 政府の予算をつくるうえで重要な税収見積もりに必要という理由もあるでしょう。しかし、それも民間平均を使えば済むことではないでしょうか。実際、米国では財政見通しに、民間コンセンサスが使われていると聞いたことがありますし、さらに米国で最も注目されるのは中央銀行であるFRBの景気判断と先行き見通しです。 小泉政権は「民間に出来ることは民間に」を旗印に、デフレで日本が苦しんでいたときも公共事業の大幅削減を続けました。私たちを含めて、多くの民間シンクタンクはせめてデフレから脱却するまで、公共事業の削減の一時凍結をと訴えましたが、無視されました。 結果的に中国経済の高成長を背景とした輸出の大幅増が、公共事業の削減による国内需要の落ち込みを穴埋めし、「いざなぎ越え」と呼ばれる戦後最長の景気拡大が続いてきました。しかし、輸出で潤う企業や地域と、公共事業削減で仕事が減る会社や地域は一緒ではないので、日本全体としては成長格差が生まれているうわけです。 さらに輸出で潤う企業はグローバルに展開しているので、儲けを日本国内に投じる必然性はありません。賃上げすら、「国際競争力の維持」を旗印に抑制を続け、非正規労働の活用を熱心に進めてました。これで多くの国民にとって実感の伴う景気回復が起きるはずがありません。 ☆☆☆☆☆☆☆ こうした経済の現状を生み出した政府なのですから、「民間に出来ることは民間に」をより徹底すべきではないかと私は思います。今後の財政負担を考えれば、政府は必要なことだけを最小限の人員で行うことが大切でしょう。民間でも十分に出来る経済見通しを政府が出し続ける必要はもはやないのでは?、むしろサービス業の分野で特に手薄な、経済の実勢を把握するための統計整備などやるべきことは他に山ほどあると思います(これは残念ながら一民間シンクタンクではできません)。 しかし、今日の別のニュースでは都合の良いところだけ「民間でできるところは民間に」という政府の姿勢が垣間見えました。特殊法人の整理・統合という行政改革には真面目に取り組む姿勢がうかがわれず、参議院の豪華宿舎建設は熱心に取り組む姿勢を崩さない。さらに、年金問題は解決できなくても仕方ないと開き直り、薬害肝炎問題では誰も責任を取らない・・・・ 少々話がそれてしまいましたが、今日の政府経済見通しをみて、改めて、「政府が一体何をすべきで、何をする必要がないのか。もう少し真面目に考えて欲しい」と切に思った次第です。そして、官僚も政治家も真面目に取り組まないのであれば、私達は投票という武器を使って、政治を変えるしかないのではないでしょうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 20, 2007 12:22:26 AM
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