トカトントン 2.1

2016/03/15(火)01:01

いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう(第9話)

テレビ番組(367)

■女性の部屋に「ただいま」と言って帰ってくる男はそこにいたもうひとりの男に対して一瞬のうちに優越感を持ててしまう。「こんばんわ」や「お邪魔します」ではそうはならない。だからあえて西島君は「ただいま」と言って高良君を見下ろした。 ■彼の計算ではその挨拶に対してやはり一瞬のうちに「おかえりなさい」という言葉が彼女から返ってくるはずだったのだが、有村さんは黙ったままだった。いけない、これでは対決ムードになってしまう。何か喋らなくちゃ。でも、何の話をしたのか思い出せない。 ■いくら数学が得意で計算能力が高くても、恋愛において完璧な正解を導き出すことはできない。高畑さんが言ったようにそれは不公平で、弾けるようなキスができたとしても奇数は弾かれる。決して自分は三枚目だなんて思っていなくても三人目になってしまったら退場すべきなのだ。 ■彼女のことを愛おしいと思って眠れない夜に打つメールの文面。どんな表現が一番適切か推敲する作業に自分もまた同じ行為をしたと感じ入る人は多いと思う。ウザいと思われたら嫌だし、ひとりごとのような片言では物足りないし、自分の気持ちだけ伝えてそれで終わりではその本来の目的は果たされない。 ■言葉にしろ、文章にしろ、形になったそれらの前に随分と時間のかかった書き直しが行われていること。決め手はそれを声に出して読んでみた時に違和感を感じないかどうかだ。きっとこの脚本家もまた毎回そんな作業を繰り返している。 ■物語の締めくくりに登場人物の誰かが不慮の事故にあうというシナリオはずるいと思う。始まったら終わらなければならない連続ドラマの結末は親密になる人たちがいて、疎遠になる人たちがいて、またぞろみんなが日常に戻るという形で決着をつけてくれても全然かまわない。 ■大事な人が急にいなくなる。明日からの予定がまるきり空白になる。思っていた展開が一瞬にして霧散する。たしかにあの日私たちはそんなことが起こるなんて想像もできなかった。そうかドラマの中でそれが起こっても何ら不思議はないということか。ただ普通のドラマはそれを乗り越える主人公を描くのに対し、このドラマの特殊性はそれに飲み込まれるのが主人公であるというところだ。

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