映画:「カポーティ」
題名:カポーティ監督:ベネット・ミラー出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、キャサリン・キーナー、クリス・クーパー、クリフトン・コリンズJr.、ブルース・グリーンウッド、ボブ・バラバン、マーク・ペレグリノ他試写会に行ってきた。まーとにかくよく似てること。トルーマン・カポーティに。カポーティは『ティファニーで朝食を』『夜の樹』などを発表して一世を風靡したアメリカの作家。日本ではさほどなじみがないが、アメリカではすごく有名なはずだ。今でいう「セレブ」だな。なぜそんなにもてはやされたのかわからないくらい、当時の社交界では人気者だったようだ。本当は自分は生きてるトルーマン・カポーティを見たことなんてないのだから(マリリン・モンローとダンスしている写真をよく覚えているくらい)、そんな判断を下すのもどうかと思うのだがそれでも「そっくり」と思ってしまったフィリップ・シーモア・ホフマン。仕草、表情、喋り方、よほど研究したらしく、ホフマン本人の色合いは微塵もない。すごい。あらすじは、「社交界の頂点にいた作家トルーマン・カポーティは、ある死刑囚と出会い、現代文学最高の小説『冷血』を書いた。しかしその後、彼は一冊の本も完成させることはなかった……」というもの。カンザスシティで一家惨殺事件が起こり、カポーティがそれに興味を抱いて調査を始め、犯人と語り合う傍ら自らの執筆を進めていく様子が描かれている。一言で言って、「深い」映画。そして俳優がみんないい。ちなみに私はずっと前にカポーティの短編集を読んでいるはずなのだが、にゃにも覚えていない。(それともあれはカポーティではなかったのか??)だめねー。以下、ネタバレの感あり(内容に全く触れないで語るのは、この作品では難しい)。カポーティと死刑囚ペリーの間柄は、きわめてトリッキーな感じで、見ている側もかなり混乱するのではないかと思う(私ゃ混乱しました)。相手のうちに、自分と同じ孤独を見るときは友人として誠意をもって対し、でも同時に取引材料として扱ったりもする。カポーティは自分の新作を書くためにペリーからの情報が必要だし、ペリーはカポーティが著作中に自分の裁判に有利なことを書いてくれないかと思っている節がある。カポーティはペリーに何度も嘘をつくが、それがまるで善意からの嘘としか見えないようなこともある。しかし少なくとも半分は、やはり相手を利用しようとして、自己保身のためにつく嘘だ。関係が錯綜としてきて、そのうちにカポーティはペリーが早く死刑になればいいと思う。何しろ彼が死刑にならないと、新作の結末が書けない。小説が書き終わらなければ、文学の新たな地平を開こうという野望も煙のように消えてしまう。その一方で、ペリーが死んだら寂しいだろうと思うのも、本当の気持ちだ。最後に、ペリーの死刑執行のあとでカポーティは「もう立ち直れない」と言う。「彼を救うことができなかった」と泣く彼に、友人であり作家でもあるネル・ハーパー・リーは「そうね。救いたくなかったのよ」と言う。In fact, you didn't want to.と言っていたように思う。それは真実なんだろうけど、そのあとの彼の壊れていきっぷりを考えると(彼は60歳くらいまで生きるが最後はアル中で死ぬ)、本当にそれだけかなとも思う。最後のほう、死刑の直前にカポーティがペリーに会いに行くところのあたり、カメラワークがまるで酔っ払いの視線のようで、それがものすごく「自然」で(何しろその前からカポーティは現実から逃げるかのように強い酒を飲んでばかりいるのだ)、自分も酔っ払ったような不思議さがあった。いろいろあったけど、その酔っ払いのような、きりっと定まることのない場面が一番印象的だったかもしれない。