この映画を観たら彼女をちょっと好きなるかも! アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル(2017)
貧しい家庭で、幼いころから暴力と罵倒の中で育てられたトーニャ・ハーディング。天性の才能と努力でアメリカ人初のトリプルアクセルを成功させ、92年アルベールビル、94年リレハンメルと二度のオリンピック代表選手となった。しかし、彼女の夫だったジェフ・ギルーリーの友人がトーニャのライバルであるナンシー・ケリガンを襲撃したことで、スケート人生は一変。転落が始まる。一度は栄光を掴み、アメリカ中から大きな期待を寄せられていたトーニャ・ハーディングだったが、その後、彼女を待ち受けていたのは、、、、。フィギュアスケート史上最大といわれる衝撃的な事件の意外な真相と、彼女の波乱万丈な半生の物語。転んでもただじゃ起きないスケートの天才が巻き起こすちょっとシニカルなサクセスストーリー!この映画、とりあえずマーゴット・ロビーが魅力的すぎる!トーニャの暴力的な一面も(これは幼少期からくるものだけど)、トリプルアクセルをアメリカ人で初めて成功させたその天賦の才能も、人間的に不器用で粗暴で荒削りなところも全てすごく魅力的に見える。本当に彼女良き。なんか破天荒な人間かもだけど、トーニャ・ハーディングをちょっと好きになっちゃいます笑こういう配役って最高だよ、マジで。お話はトーニャを悪い意味で一躍有名にした、リレハンメルオリンピックのずっと後の時代。もはや既に過去の人となっていたトーニャやその周囲の人々に、あるメディアが当時のことや彼女の過去についてインタビューしている形式で物語は進んでいく。今はもうフィギュアスケートの世界から離れているトーニャが、スケートを始めるきっかけや、自分の荒んだ生い立ち、母親との確執や夫やライバルとの関係などを赤裸々に話し、また、同様に取材を受けている母親や元夫や元コーチもトーニャの人間性を語っていく。やがてナンシー・ケリガン襲撃事件の真相に迫った時、トーニャは何を語り、事件の真実はどこにあるのか、、正直、時代が時代だからトーニャ・ハーディングの名前って、ライバル襲撃事件がアンビリとか仰天ニュースみたいな番組で扱われてて辛うじて知ってるくらい。その時も真相はどこに?的な曖昧な感じだったから、いまいちピンとこなかった。オリンピックで靴紐解けて、審判に見せるシーンがすごく印象に残ってる、くらいかな。でも、この映画を観ていると、確実にわかることが一つある。間違いなくトーニャ・ハーディングには、並外れたフィギュアスケートの才能があったのだということ。彼女は4歳の頃にスケートを始め、すぐに頭角を表す。後々、浅田真央ちゃんでおなじみの、まだ世界でそう成功者がいないトリプルアクセルの先駆者の一人っていうだけで、その技術力の高さが伺えるほど。ただ、トーニャは技術的には間違いなく一流だが、芸術面でなかなか評価されなかった。それは彼女の生い立ちにも関係があるかな。この映画を観てると、そりゃフィギュアに要求される上品さとか優美さとはトーニャは無縁の場所にいるよねって思うのは仕方ないかな笑絵に描いたような貧困家庭に生まれて暴言と暴力で子供を屈服させる絵に描いたような毒母の元、自尊心も自己肯定力も踏みにじられて、荒んだ幼少期を磨ごしたトーニャ。唯一の支えだった優しい父親も母親の悪行に耐えかねて出て行き、愛情に飢えた思春期のトーニャはますます荒れていく。母親から逃げるように恋人と同棲を始めるが、荒んだ生活は終わりを迎えることなく寧ろ暴力の頻度は跳ね上がり、今度は恋人と殴り合いの喧嘩や銃までぶっ放すバイオレンスマックスの新生活に突入する。しかし、トーニャいわく、母親よりはマシだからある意味全然辛くなかったとのこと笑強すぎる。この恋人は後にトーニャと結婚し、ナンシーケリガン襲撃の首謀者と目されたジェフだった。典型的なDV男。激しい暴力を振るうくせにトーニャが出ていくと途端にひよって謝りに来るような男。でもトーニャのことは真剣に好きだったと思うし、彼女を支えたいと純粋に思ってたとは思う。そんな中でもトーニャはフィギュアをやめなかった。彼女が荒んだ生活の中で、一滴の清流のごとく熱意をもって大事にしたのがスケートだった。荒々しい暴力の世界で生きてきた自分をフィギュアで隠すことが出来ないと理解したトーニャは奥の手に出る。それが当時アメリカ人が誰一人飛ぶことができなかったトリプルアクセルへの挑戦だった。トゲトゲしさのある完璧演技のトーニャと、優雅なしなやかさを売りしつつ転んだ選手だったら、審判団の好みは絶対に後者。トーニャはいつまでも優勝出来ない。彼女は誰の目にも自分が優れていると見せつけるためにトリプルアクセルを自分の武器にしようとし、見事に成功する。その名声は瞬く間に広がりアメリカを代表するフィギュアスケーターとなり、トントン拍子にアルベールビル大会への出場権を手にする。この辺りがトーニャにとっては一番幸せだったのかな、、自分が必要とされて、自分が評価されて、称賛されて期待されて、、子供の頃、特に母親からこの類の感情を一切排除して育てられてきたトーニャにとっては、オリンピアンになって周囲に愛されることが一番の幸せだったんだと思う。だけど、アルベールビルでは結果は振るわず4位。世界で4位ってだけでも凄いけど、現実はとても厳しく、トーニャにスポンサーがつくことはなかった。そのため金銭的に苦しい日々はまだ続き、オリンピック選手にも関わらずウェイトレスのバイトで日銭を稼ぐ日々を送ることとなる。(ジェフとも離婚したしね)奇しくも母親もウエイトレスの仕事をしてて、事あるごとに私が食わせてやってるんだ!って怒鳴り散らす人だったよね、、報われなかった自分をトーニャが自嘲するのも辛い。だが、ここからトーニャは奮起する。かつてのコーチがもう一度チャンスをくれ、死に物狂いで練習を開始。金銭的な苦労を排除するためにジェフともよりを戻して本格的にフィギュアに身を入れ、見事、オリンピック選手候補にまで返り咲くことになる。ここの練習のシーンすごく好き笑ロッキー並みに自分を追い込む過酷な練習をしながら、コーチが「本当にこんなことしたのよ」ってカメラの方を向くのがいちいち面白い。フィギュアって繊細で優美なスポーツに見えるけど、その裏での肉体作りは優雅とは程遠い、すごくシビアで地味なものなんだろうな。スケート靴って普通にばかみたいに重たいし。それで氷上でジャンプするとか並外れた運動神経。それを感じさせないようにしてるのがまたすごい。そしてそんな最中、件のナンシーケリガン事件が起こる。結果から言えば、この襲撃事件はトーニャとジェフは全く預かり知らないことだった。友人のひとりにナンシーに脅迫状を送るようにジェフが提案すると、この友人はあろうことか勝手に計画を変更してナンシーへの暴行を行った、というもの。元はと言えばトーニャに脅迫状が送られてきたのがその発端だが、この脅迫状もこの友人が差し向けたものだった。まじ一体、こいつ何がしたかったんだよ、、作中で一番意味わからん存在だった。妄想癖で周囲を不幸にするタイプ。勿論、自分の演技に集中していたトーニャは計画なんてまるで知らない。ナンシーとは友人で、その友人を襲撃するよう頼むはずがない、と何十年後のトーニャは力説していた。だが、疑惑の目はライバルだったトーニャに必然的に向けられる。ジェフが犯人一味と関わっていたのでトーニャは彼から離れるが、それでもメディアは彼女を面白おかしく追いかける。その上、音信不通だった母親までも報酬に目が眩んでトーニャから証言を聞き出そうとお涙頂戴の演技を打つ始末。周りが敵だらけのトーニャは気が狂いそうになる。全く心が落ち着かないままオリンピックへ、、そして前代未聞の靴の紐切れた?事件、、このシーンは映像で観たことあるけど、普通にあの審判席まで足上がるのすごくね?ってなった。こうして波乱万丈のトーニャのオリンピック人生は8位という結果で終わる。この後、トーニャは結局法的に裁かれてフィギュアには二度と関われなくなった。刑務所に入ってもいいからフィギュアを続けたいと涙ながらに裁判長に訴える姿が、、なんかかわいそうだったな、本当にトーニャにはフィギュアしかなかったんだなって、、そこから華麗にボクサーになるあたりはトーニャのハングリー精神だろうけど笑トーニャは運動神経抜群で何をやっても器用にこなせる人。だけどそんな中でもフィギュアを選んだことが、人生を苦しくも楽しくもしたのかな、とか思ったり。だって普通にボクサーでも成功しそうじゃん?彼女。まあまずは毒親が全ての元凶なのは言うまでもないかな。母親が大人になったトーニャに「子供のことを一番に考えて生きてきた。怒鳴ったり殴ったりしたのもそのため、私だって母親からこんな愛情受けたかったよ」的なことを言ってて、何言ってんだこいつってなったわ。。トーニャが愛情と思わないものは全部暴力と暴言なんだよ。伝わるようにしないと受け取った側は愛情とは思わないんだよ、まじムカついたわ、このシーン。トーニャの言う通り、母親は怪物だった。けど、実際の真実は濁されてるんだよね。この映画自体、「ノンフィクションかも?」みたいな、多方面から批判されても言い訳できるように絶妙な文言から始まってるからずるい笑主役は大好きマーゴット・ロビー。彼女がトーニャじゃなかったら、魅力半減してたんじゃない?ってくらいに素敵だった。トーニャの半生は波乱に満ちていたけど、その哀愁と切なさを感じさせつつ全編シニカルに纏められてて暗すぎず明るすぎずの絶妙なラインが良き。ジェフはセバスチャン・スタンという俳優さん。アベンジャーズに出てるらしいけど、マーベルに関しては無知の無知だから全然わからない。毒親ラヴォナにアリソン・ジャネイ。怪物を怪演した方。憎々しいほど身勝手で暴力的な母親をしっかり演じていて、この方も物語の軸になってたと思う。この役でアカデミー賞助演女優賞受賞。納得。エンドロールでトーニャ本人の当時の演技が流れてた。普通に綺麗で美しく、ちょっと勝気で強気なスケーティングなのがトーニャっぽい。間違いなく優れたフィギュア選手のひとりだと思う。