「ブルーレイディスク」と「HD DVD」の主導権争いが続く次世代DVD。2006年秋に両規格の録画・再生機が出揃い、今期の年末商戦は事実上の“初戦”として注目を集めている。ところが蓋を開けてみると、両規格とも映画ソフトの数は乏しく、「勝者なし」となりそうな雲行き。年末年始の休暇に、ハイビジョン対応の大画面テレビで臨場感に富んだ映画鑑賞などを楽しみにしていた層にとって、肩すかしを食わされる格好だ。
ワーナー エンターテイメント ジャパンは12月22日に予定していた「逃亡者」などブルーレイとHDDVD向けのソフト15本の発売を2007年に延期した。このほかにもユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンの「キング・コング」やブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメントの「パール・ハーバー」、パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパンの「ブラック・レイン」など、次世代DVD向けソフトの発売延期が続いている。一部は2007年1~2月に発売日が延期されたが、2006年12月18日の時点で発売日未定のソフトは依然多い。
延期の理由は「米国本社の制作上の都合」(ワーナー)、「制作素材の遅延」(パラマウント)と各社様々だが、その背景には制作の難しさが高まっていることにあるようだ。ある映画ソフト会社関係者は「(次世代DVDソフトの)映像の品質を評価する体制が整っておらず、制作進行が遅れた」と明かす。
一般的に映画ソフト会社が映画をビデオ化する際、発売前に専門部隊が映像の品質を端々まで評価する。映画の元の映像データをDVD用のフォーマットに変換する時などに映像にノイズが入ることがあるからだ。次世代DVDの映像は従来のDVDよりも最大で縦が約2.3倍、横が約2.7倍の解像度で表示されるので、従来のDVDでは問題にならなかった程度のノイズが目立つようになる。このため、従来以上に時間と人員を割いて品質評価を入念に行う必要があるのだという。映像の品質を評価する人員の育成は一朝一夕にはいかないため、次世代DVDの評価体制の構築は各社とも手探りとならざるを得ない。
現状ではマニアしか買わず
ソフトの発売が延期される理由は、それだけではなさそうだ。延期の背景には、「ハードが普及してからソフトを投入したい」と様子見を決め込むソフト各社の思惑も透けて見える。従来のDVDに比べて制作費が高額になるのに、採算に見合う市場がまだ形成されていないというのだ。
次世代DVDは「現時点では一部のマニアしか買わない」(東京都内のある家電量販店店員)のが実情で、対応機種はほとんど普及していない。現行機種は一般ユーザーが手を出しづらいものばかりだからだ。ブルーレイの再生機能を備える「プレイステーション3(PS3)」は品不足で入手困難な状態が続いている。それ以外の対応機種は録画機しかなく、一番安価な機器でも実売価格が18万円もする。
一方のHD DVD陣営は、米マイクロソフトの「Xbox360」が別売りでHD DVDの再生に対応したが、Xbox360自体マニア向けのゲーム機なので牽引力はいま一つ。東芝の一番安価な再生機(実売価格5万4800円)も、同価格帯のHDD(ハードディスク駆動装置)を搭載したDVDレコーダーやPS3の廉価版(同4万9980円)に比べて機能面で割高感が否めない。
次世代DVDは規格争いが過熱する一方、売り場ではお寒い状況が続いている。消費者が冷ややかな視線を送る規格争いは、相次ぐソフト発売延期という形になって勝者不在を改めて印象づけそうな情勢だ。消費者利便を度外視したツケは、両陣営共倒れという結末を招きかねない。