「クレーム」は企業だけでのものではなく、暮らしに密接な場所にも広がっている。学校には「授業の進みが早い、うちの子供に合わせてほしい」。病院には「待ち時間が長い」など自分の権利を主張するクレームが増えている。今やクレームがない場所はないほど「クレーム社会」だ。
企業は、小さなクレームを見逃したために会社の存続に左右しかねない問題に発展する可能性もある危機感から、消費者の声を積極的に経営戦略に生かそうとする動きが出てきている。その中心となるのがお客様相談室だ。増えるクレームにどう対応していくかが企業にとっての課題でもある。お客様相談室の社員がクレームを寄せた消費者の元へ直接出向き、クレームの対象となった原因を分析、それを後のクレーム対応に生かすなど、電話応対だけではない“攻め”のお客様相談室を戦略とする企業も出始めた。一方、クレームを地域の中小企業の活性化に生かす商工会議所がある。全国から苦情をホームページで募り、それを地元企業の商品開発に役立ててもらおうという取り組みだ。
企業戦略の中枢にお客様相談室を据えて、急増するクレームに向き合うお客様相談室の舞台裏と、“苦情は宝の山”と中小企業活性化に奮闘する商工会議所の姿を描く。
“攻める”お客様相談室のクレーム戦略・・・小林製薬
「熱さまシート」「ブルーレット」-。ドラッグストアで一度は目にしたことがある製品。大阪に本社がある小林製薬の商品だ。小林製薬に寄せられる相談件数は年間約5万件。クレームだけでも月に700件ある。最近では、商品の使い方などよりも、商品を想定外の使い方を消費者がしてしまったための苦情が増えている。
消費者の応対には26名の相談員が対応にあたる。小林製薬の相談員は消費生活アドバイザーや薬剤師などの有資格者を配置、お客様の声に即座に対応できるようにした。お客様相談室の中に設けられた「分析チーム」。どんな商品に苦情が多いのか、消費者にどんな対応をすればいいのか、苦情への解決策に取り組んでいる部門だ。今年4月、技術開発部からお客様相談室に異動してきた、三角学さん。三角さんは、苦情を元に商品改善の指導や、クレームなどを寄せた消費者を直接訪問し、クレームの元となった商品の使い方なども視察、具体的な情報収集にも当たる。三角さん自ら研究所に出向き改善の提案を行っている。『一人の小さなクレームを見逃した事で、その後ろにいるかもしれない何千人の消費者のクレームも見逃す事になる』小林製薬のお客様相談室からクレームの現状を見つめながら、いかに潜在的なクレームを見つけ出し、いち早く対応していくか、企業のクレーム対策を描く。
“クレームは宝の山”
・・・福井の経済活性化を狙う福井商工会議所 ほか
『雨が降った時の電車内などで、傘の水滴で服や靴がぬれて困る-。』
こんなクレームをヒントに生まれた、濡れない傘「ヌレンザ」。トヨタの高級車レクサスのブランドアイテムに採用され、横浜高島屋では月に50本も売れるヒット商品。開発したのは、福井県にある中小企業の洋傘メーカー。新開発の「ぬれない傘」の商品化に結びつけたのが、福井商工会議所が始めた「苦情・クレーム博覧会」というホームページだ。登録会員2万名、苦情数は3万件も蓄積されている。商工会議所が中小企業のマーケティングを代行する形をとっているのだ。中心となって動いているのが商工会議所の永田幸也さん。商品化で出来そうな「苦情」を企業に提供するなど中小企業を飛び回っている。苦情を元に新商品開発につながれば、地元企業の活性化につながると考えている。
このホームページに寄せられた苦情をヒントに商品開発を進めるの企業も増えはじめている。越前市の建具メーカーは、『地震などの災害時、両手がふさがっていると扉を開けられない』というホームページに寄せられた苦情から、「防災建具」を開発中だ。これまでの建具の職人技とアイディアを駆使して、苦情に答える商品を生み出そうと奮闘している。住宅の洋風化や既製品などにより建具の発注が減少し続けている現在、『防災建具が一つの打開策になれば』と
考えている。地震列島日本、東海・東南海地震など叫ばれる中、防災建具に商売の商機はあるのか・・・。
苦情・クレームから地元企業の活性化を目指す商工会議所と苦情をヒントに新たな市場を狙う中小企業の取り組みを追う。
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最終更新日
2007.11.14 10:07:12