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売り場に学ぼう by 太田伸之

売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2025.06.18
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​​​2年ほど前に出会って以来、中国出張セミナーや東京での訪日研修団向けセミナーを企画してくれる中国人コンサルティングの金時光さん(佐吉事業管理コンサルティング)に頼まれ、数日前も杭州市の新興アパレル企業幹部に都内ホテルでセミナーをさせてもらいました。


セミナー後新興アパレル創業者夫妻(私の左右)と

その様子をSNSにアップしたところ、業界の大先輩から「なんでも、お金の中国へ何を教えているんですか?成功とはお金のことだから、金儲けを教えている?」というメッセージをいただきました。SNSで中国セミナーに触れると、この大先輩からは度々同じようなメッセージをいただきます。

今回訪日幹部研修をした新興アパレル企業は創業7年で売上は早くも日本円換算300億円以上と急成長している会社、創業者夫婦は元々ファッションビジネスには関係ない業界にいた方たち、短期間で売上300億円とはいくら消費者人口が多い中国であっても優秀と言えるでしょう。

こういう経営者たちですから「儲け方講座」なんて私は求められていませんし、そもそも私は中国ファッション業界セミナーで儲け方を教えているわけではありません。そういうテーマは専門のビジネスコンサルタントや金融のプロに求められるでしょうが、私の役割は違います。

米国から帰国して以来ずっと私は売り場の歩き方やマーチャンダイジングの基本を指導してきましたから、企業研修などでそういうことも教えます。が、中国経営者に私が主にお伝えしていることは、ファッションブランドにとってブランド世界観あるいはブランドDNAがいかに重要かということ。具体的な儲け方ではなく、ブランドを長く続けるために何をすべきか経営理念を伝えてきました。

自分も長年会社経営を担ってきましたが、売上競争には関心がありません。ファッションブランドの価値は何も売上規模で決まるものではないし、売上が大きい会社が偉いと思ったこともありません。売上とは異なる尺度があって良いと思っています。ずっと社員研修してきた百貨店の若手社員にも「規模が大きいことだけが企業価値ではない。小さくても良いから唯一無二の企業を目指そう」と教えています。

中国経営者セミナーで例に出すユニクロについても、その売上規模が大きいこと、店舗数が多いこと、価格が安いことではなく、パリコレブランドが使っているのと同じレベルの日本製素材をたくさん起用していることに意味があると、これまで生産現場で目にしたことを説明します。

訪日研修団セミナーの最後に私は「ぜひ視察して欲しいお店があります」と南青山スパイラルビル5階にあるミナペルホネンCallの視察を勧めます。


スパイラルビル5階Call

かつてブランド直営店を開く場合、通行人の目に触れやすい表通りの物件、あるいは裏通りでも1階の物件を探したものです。が、ミナペルホネンCallはビルの5階、以前なら敬遠された立地条件。しかしながら、ビルの5階であってもこのお店は開店時間からすぐお客様でいっぱいになります。ネットで情報発信できるいまだからこそ開店可能だと思います。

販売員の数人は世間一般の定年過ぎの高齢者です。ベテラン販売員の接客サービスがお客様に与える安心感、ほかのショップではまず体験できません。

次にCallの扱い商品。ミナペルホネンの服のみならず、リビング雑貨、家具、余ったものも含めてオリジナルの布、有機栽培野菜や安全安心の食料品、心地よいカフェもあります。つまり作り手の生活価値観、ブランドの世界観が詰まった「ミナペルホネン的な暮らし」を体感できるショップなのです。

個性的なオリジナル服をズラリ並べたデザイナーブランド系直営店は青山界隈にたくさんあります。訪日研修団はそれらのショップリストと所在地は持っているでしょうから私がわざわざ説明しなくても興味があれば皆さん立ち寄るでしょう。でも、Callはほかのブランドショップとは趣が異なりますから、「ぜひ視察して欲しい」と勧めます。








Call店内(全て昨年春に撮影)

最近の欧米有力ブランドの動向を見ていると、ブランドDNAがいかに重要かを主張したくなります。企業の社内人事異動のようにデザイナーやクリエイティブディレクターがコロコロ交代、そのたびにブランドの方向性はあっちへ行ったりこっちへ来たり。デザイナー交代時にブランド経営陣と採用されたデザイナーがちゃんと方向性を話し合っていないのではないかと思ってしまうブランド、最近どんどん増える傾向にあります。ブランドビジネスってこんな姿で良いのでしょうかと参加者に問いかけます。

もちろん創業者やファッションブランドとしてのポジションを不動のものにしたデザイナーの世界観をしっかり守っている「ブレないブランド」も中にはあります。例えばシャネルがそうです。

シャネル日本法人社長だったリシャール・コラスさんに教えてもらった話が素晴らしいんです。パリのアトリエで服やバッグなど新作サンプルを作って「もしもこの場にココ・シャネルがいたら、彼女はサンプルを見て何と言うだろうか」とアトリエスタッフは話し合う。「ノーと言うかもしれない」であれば、作ったサンプルはボツ、商品化されることはありません。素敵なバッグであっても、常にバッグの機能性を考えてデザインしてきたココ・シャネルの考えに背くようなデザインであればボツ、とコラスさんから聞きました。

クールで洗練されたグッチの世界観を確立したトム・フォードは果たして可愛いドラえもんニットを作ったでしょうか。

パリのエスプリの代表格だったサンローランは果たして映画「プリティウーマン」の主役ジュリア・ロバーツが着ていた西海岸グランジを認めたでしょうか。

構築的ラインで高くファッションブランドとしても評価されたフィービー・ファイロのセリーヌの服、「フィービーロス」の常連客を満足させるデザインはほとんど見ません。

都会の洗練されたミニマリズムのカルバンクライン、後継デザイナーが映画「ジョーズ」のプリントTシャツを見せるなんて想像できません。結果コレクション発表その後中止になりました。

デザイナーブランドのみならず、売上の大きなアパレルブランドも同じです。上質素材を大量発注することでカッコ良かったGAPやバナナリパブリックのアメカジ服、コストカッター型経営者に代わったらその良さは消えてしまいました。かつて私もたくさん買ったGAPグループの服、もう手が出ません。

ブランドDNAの継承と失敗事例を並べ、ブランドビジネスにとってブランド世界観こそが命、これをどう確立するか、どう守るべきなのか、あるいはそもそもブランドDNAとは何なのか。私はこういうセミナーを中国アパレル経営者たちにたくさんさせてもらいました。

中国経営者は「いいお話ありがとうございます」の握手で終わりません。セミナー後すぐにアクションを起こそうとしますから、セミナー達成感が日本とは大きく違います。日本でもすぐアクション起こす経営者がもっと増えると良いんですが....。​​​





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Last updated  2025.06.18 16:41:29


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