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売場に学ぼう by 太田 伸之

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Nobuyuki Ota

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2019.02.13
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テーラーを開業する前 、オヤジは名古屋の松坂屋本店紳士服部勤務でした。私が生まれたのを機に退職、開業したあとも百貨店のお得意様からご指名があったので百貨店からの注文を手伝い、そうこうするうちに納入業者にもなりました。オヤジの弟子たちが派遣社員として松坂屋の売場に立って注文をとっていましたが、小学生の私には弟子たちが百貨店で勤務という構図がどうにも不思議でした。

大学2年生の夏休み、手が足りなくて私は一度だけ松坂屋本店の売場に立ったことがあります。お客様に声をかけられたらどうしようとハラハラドキドキでした。これまで販売スタッフに店頭のマーチャンダイジングを偉そうに指導してきましたが、私の販売経験は生涯で一度きりです。

我が家の晩御飯、オヤジは百貨店事情を子供たちにも話してくれました。自営のテーラーの代金は当時ツケが当たり前で「あるとき払い」、百貨店は毎月キチンと払ってくれるからありがたいとオヤジはよく言ってました。自分がファッション業界で働くようになって、米国百貨店の支払いは結構デタラメなのに対して、日本はキチンとしているなあと感心したものです。

納品時にトラブルがあると、オヤジはよく百貨店のお客様のところに飛んでいきました。既製服とは違うので、クレームには技術面を熟知したオヤジが行かねばなりません。名古屋本店のほかに大阪松坂屋でも納入業者になり、ほかにも同業他社と協同の店舗も開いたのでオヤジは大忙し、結局働きすぎとストレスが原因で腹膜炎と十二指腸潰瘍で緊急手術、そのときの輸血の血が問題で生涯ずっとC型肝炎で苦しみました。

長男の私を名古屋の南山大学に入れ、学生時代にパタンメーキングを修得させ、夏休みには松坂屋の売場でアルバイトをさせ、大学卒業後ロンドンのサビルローの老舗テーラーに修行に出すつもりでした。が、私はオヤジからどうしても離れたかったのでおじさんの力も借りて説得し上京しました。あのときオヤジの命じるまま南山大学に行っていたら、わが人生は全く別のものになっていたでしょう。

子供の頃から百貨店のことを耳だこ状態で聞いていたからか、私は百貨店なるものが大好きです。流通業界ではいま主役のコンビニの前は量販店に勢いがありましたが、百貨店はその前のビジネスモデル、業態としては古いと言わざるを得ません。それでも、私は百貨店を歩くのが好きなんです。

アメリカ各地にあった百貨店形態の店はどんどん潰れ、いまや全米で百貨店は数社しか存続していません。マンハッタンでも、五番街の老舗ロード&テイラーの閉鎖が発表されましたが、過去に消えてしまったボンウィットテラー、ギンベルズ、B・オルトマン、コルベッツ、オーバック、アレキサンダーズ(私が大学卒業後に渡米した頃はまだ全ての店が営業していた)を入れると現存する店舗の方が消滅店よりも少ない、言い換えれば百貨店業態は斜陽産業であることは間違いありません。それでも、百貨店全てが地上から消滅するとは思っていませんし、業務革新の努力をする企業だけは今後も生き残れる、と信じています。




昨秋の米国西海岸北部視察、サンフランシスコの中心地ユニオンスクエア周辺の百貨店6店はどこも閑古鳥、販売スタッフよりもお客様の数の方が多い店はありませんでした。頼みのコスメ売場にも婦人靴売場にも人影はなかった。しかし、シアトルのノードストローム本店だけは違いました。ここでは楽しそうにショッピングするお客様で賑わっていました。ノードストローム本店にあってサンフランシスコ各店にはなかった違いはなんなのか、それはお客様本位の姿勢がスタッフに身についているか否かです。

ノードストロームは「顧客満足経営」をモットーに営業してきました。最近耳にする機会が少なくなった言葉CS(カスタマーズ・サティスファクション)、そのモデル店舗はなんといってもシアトルにある本店。従業員は常にお客様の目線でお客様と接する、自分が買い物客だったらきっと嫌だろうなと思うことは言わない、やらない。これって言うのは簡単(日本でも多くの百貨店の社是では真っ先に「顧客第一」とうたっている)、その姿勢をお客様に実感していただくには並大抵の努力では無理。CSの実現は簡単なようで非常に難しいことです。

お客様に「顧客満足度の高い店だな」と実感していただけるならば、売場を歩くだけでもワクワク感がたっぷりあれば、いくらネット通販が急成長しようがリアル店舗は継続可能でしょう。もちろん基本完全買取で百貨店社員が販売するノードストロームと、消化仕入れで主にベンダーからの派遣スタッフが販売する日本の百貨店とは条件が違います。前者なら売場のスタッフに徹底しやすく、後者は余程の覚悟と訓練を繰り返さないことには徹底できません。でも、後者は絶対に無理なのでしょうか、甘いかもしれませんがやり方はあると思いますし、それができなければリアル店舗の存在意味はありません。

プラス、売場のワクワク感も大事。新しい生活提案に感動があれば、商品あるいは組み合わせ提案が魅力的に映れば、ネット通販とは違うショッピングの喜びをお客様に感じていただけるかもしれません。せめて売場のVPだけでもカッコ良ければと思うのですが、最近どの館もVPは意味不明で何も感じない、せっかく春の新作を出していても感動は薄いんだよなあ。もっと厳しく言えばグチャグチャで腹が立つ場面が増えてます。百貨店好きな人間としては大いに不満ですね。

今夜、西海岸視察に同行した若者たちと会食、遅まきながら反省会です。サンフランシスコの閑古鳥百貨店と賑わうノードストローム本店を体感した彼ら、今後どのように現場で活かすのか、ネット通販では得られないsomething elseをいかに提供するのか、そのためにどういう準備をしなくてはならないのか、みんなでしっかり議論したいです。






Last updated  2019.02.13 18:17:08

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