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売場に学ぼう by 太田 伸之

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Nobuyuki Ota

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2019.06.11
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​​社長時代、一人おもしい部下がおりました。Hくん、ある日社長室に来て「実は、ヘッドハンティング経由である外資ブランドからVMDの責任者の声がかかりました。どう思われますか」、と。そのブランドは当時まだ勢いはありましたが、私は「もっといいブランドなら賛成するけど、ここはやめておけ」と引き留めました。

1年後、Hくんはまた相談にやって来ました。別の外資ブランドでしたが、同じく「やめておけ」とまたも転職を引き留めました。しかしその翌年、今度はイタリアの某人気ブランドから声がかかったとまた相談、「いいじゃないか。ただし、本国のVMD指針に従うだけの仕事ではつまらんよ。本国に提案してもいい体制であれば賛成」、私は背中を押しました。

Hくんだけでなく、当時いろんな部下が転職の相談のため社長室に来ました。私自身が何度も転職していろんな仕事を経験してきたからでしょう、社員が社長に直接転職の相談に来るなんてちょっとおかしな会社だったかもしれません。あっさり賛成した例もあれば、じっくり考えろと助言したことも、引き留めたこともありました。転職を考えている社員を無理やり慰留しようと思ったことはありませんが、転職先の問題点をあげて再考を促したことは何度もあります。

Hくんは誘われたイタリアブランドに転身、数年後にはフランスのラグジュアリーブランドに引き抜かれてVMDの経験を積んで独立、自分の会社を設立しました。現在の主な仕事はVMDやVPの指導、いろんな会社をサポートしたり各種セミナーで具体的手法を教えているようです。今月下旬、繊研新聞のセミナーで講演する予定、とHくんからメールがありました。

  
  (ニーマンマーカス サンフランシスコ店VP)

私自身ファッションマーチャンダイジングを指導する中でVMDの基本や意味を長年教えてきました。売場が乱れていると感じたら関係者を集め、もう一度VMDと定数定量管理の重要性を講義、教えた直後は一瞬売場は整理整頓されます。が、しばらくするとまたグチャグチャに。その度にもっと指導しなきゃとは思うのですが、最近はこちらが根負けして改善を諦めてしまうくらい目茶苦茶な売場が多くなりましたね。売場が少しでも魅力的になるよう指導してください、Hくんにはそう返信しました。

多くの国内ファッションブランドのショップ、そして百貨店のVPスペース、最近は本当に乱れています。きつい言い方すれば、マネキンに服をかけて見せる意味すら理解していない人が増えたのでしょう。飾る意味を感じることができないVP、どういう神経でやっているんだと腹が立つ場面が増えました。これではVPの前でお客様の足は止まりません。かえって逆効果、服が売れない大きな原因でもあります。

まず、左右2体のマネキンになんの脈絡もない、ブランドの世界観が伝わらないケースがほとんど。左右に関係がないだけでなく、1体ごとにどうしてこの服を選んだのか、どうしてこんな組み合わせで飾っているのかさっぱり意味がわからない。マネキンとショップ内メインラックの関係性もないです。その点、世界的な外資ブランドは本国にVMDの専門家が存在するのか、それとも専門の外部コンサルから指導を受けているのか、左右2体あるいは3体のマネキンをうまく使ってわかりやすく表現しています。

「1+1=2以上の効果を」、研修で何度も言い続けてきたことです。常連のお客様はショップの軒先きのディスプレイには目もくれず、真っ直ぐショップに入って来てくださいます。なので常連のお客様を対象に飾るものではありません。狙いは売場の目の前を通るフリーのお客様、その足をどう止めるかです。基本中の基本としてクロスコーディネートを奨励してきましたが、上下のアイテムと左右のマネキンにたがい違いの服を着せるのはフリーのお客様に「おやっ」と感じて足を止めていただくためなのです。

1+1=2以上とは、こんな着方もできる、あんな着方もできる、とお客様に考えていただくこと。上下アイテムと左右マネキンをたがい違いにしたらカッコよくならないのであれば、無理してクロスに飾る必要はありません。何より一番カッコ悪いのは左右の「クロス崩れ」、これをやるくらいなら同素材の色違いを左右それぞれにかけるか、同素材同色のデザイン違い(ニーマンマーカスの写真)をかけてくれ、と研修ではよく言ったものです。

かつて米国ブリッジブランドを駆逐して急成長していた頃のTHEORYはVMDのお手本でした。優秀なプロのVMDを採用していたのでしょう、3体のマネキンの外側2体を上下クロスに、中央のマネキンには同素材同色チュニックやワンピースを1点着せていろんな着まわしをお客様に連想させていました。これこそがブランドの世界観をフリーのお客様に伝える最善の方法。しかし、最近そのTHEORYですらVMDが以前ほど整然としていないのはどうしてなのでしょう。

  
  (バイエンコルフ本店の靴を吊したウインドーディスプレイ)

百貨店やセレクトショップのウインドーも同じ。魅力的なディスプレイで道を歩く一般のお客様の足をどう止めて一人でも多くの方に入店していただくか、これが本来ウインドーディスプレイの役割。だから多くの海外の百貨店はウインドー装飾のプロを抱え、それなりに経費をかけてクリエイティブなウインドーをデザインさせます。特にクリスマスシーズンともなるとどこもかなりのお金をかけて飾っていますよね。

しかし、日本では年々ディスプレイ経費そのものが削減され、有名ブランド側にウインドーを丸投げするケースが増え、思わず写真を撮りたくなるようなクリエイティブなウインドーに出会うことは滅多にありません。中には経費削減策が素人にも見え見えのどうしようもないちゃっちい飾りのウインドーに出会うことも少なくない。これでは通行する方々の入店増は見込めません。

「服が売れない」と言われてもう何年も経ちます。服を売るためには、小売店はウインドーやVPスペースにもっと創意工夫が必要でしょう。ブランド側は本社からVMD指針をショップに発する担当者がもっとマーチャンダイジングの基本を勉強すべき。定数定量の概念もない、センスのかけらもない総合職(本来専門職であるはず)が意味不明のVMD指針を出している会社は滑稽としか言いようがない。本社指針よりも店頭のスタッフの方がよっぽどセンスがいいなんてケース、これまでいっぱい見て来ましたから。

VMD研修によって目覚めてくれる企業やブランド関係者が一人でも増えることを期待しています。外資ブランドでたっぷり経験を積んだHくんには受講者に基本をしっかり説いて欲しいですね。






Last updated  2019.06.12 13:27:54

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