コロギス〜森を見守る声無き木霊〜
樹液を舐める個体(千葉県 2017.6) むっちりと肉付きのよい鮮緑の身体に飴色の羽衣を纏い、琥珀色の瞳で闇夜を見つめる。透明感のある美しい色味の爽やかさとは裏腹に、その姿形はコオロギともキリギリスともつかない奇妙奇天烈なデザイン。剽軽な貌といい、どことなく妖怪じみています。 日本全国の森林に棲みますがどこでも見られるというわけではなく、さらには高い樹の頂に潜み、夜行性であるため、出会うのはやや難しい部類に入ると思われます。夜間には低所に降りて徘徊したり、灯火に飛来して御目通り叶うこともあります。 彼らはバッタの仲間としては珍しく、口から糸を吐くことのできる能力者。ますます妖怪らしさが増しますね。日中は、自前の糸で綴った青葉の寝袋で優雅にお昼寝をします。幼虫の姿で冬越しするときも、落ち葉で寝袋を綴って過ごします。葉が硬かったり細かったりするとベッドメイキングも難儀するでしょうし、ブナ科樹木の生える広葉樹林環境への依存度が高いと言われているのは、そうした生態を持つが故なのだと思われます。 コロギスは他の昆虫を襲って食べる肉食性の強い雑食性。自身が脅かされると敵に牙を剥き、扇のような翅を大きく拡げ、棘だらけの脚を振りかざして威嚇します。 コオロギともキリギリスとも異なり、コロギスは翅を擦り合わせて鳴くことができないので、後脚で樹の枝を叩いてコミュニケーションを取ります。声を失った木霊が枝を震わせて恋文のやりとりをするわけです。運良く巡り会えたつがいによって命は繋がれ、コロギスは琥珀色の瞳で森の未来を見守り続けます。