鈍い音がして、俺は額を手でおおった。
「イッテェ～」
また、やっちまった。
起き上がった時に、押し入れの上下のしきりに頭を撃ってしまったのだ。
自分の愚かさが額にしみる。
俺は、昼夜関係なしにバク睡したいときは、押し入れで寝ることにしている。
日差しが気になるだけなら、厚手のカーテンを敷けば良いのだが。
俺は子供の頃から狭いところのほうが落ち着く性分なのだ。

　俺は一・二度手を滑らせ、押し入れの戸を開けた。
薄いカーテンから、西に傾きかけた日差しが漏れている。
昨日は会社の連中と朝方まで飲んでいた。
よほど、随分と深い眠りに入っていたみえる。
いつもより、身体が軽るく感じられた。
アルコールも、ほとんど残っていないようだ。

　身体が軽いのは、昨日のコンペの結果のおかげかもしれない。
俺はこのところ、有名菓子メーカーのCM企画を寝食を忘れて練り上げた。
企画に自信はあったが、いかんせん相手は大手の広告代理店で、こちら弱小の制作会社と来ている。
社内でも企画で勝てても、大手の政治力にうっちゃられるのではと思われていたのだ。
毎度のことだから、今度もそうかと思っていたのだ。
ところが、意外や意外である。
大手の営業さんの、悔しそうな顔ったらなかったなと祝杯を上げたのだった。
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