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カテゴリ:小説:奈良白日夢奇譚‐耳視師・月櫻
言葉なきもの、世に存在せぬとされるものを “耳で視、目で聴く耳視師”月櫻。
どうも頭が重い…。 そう思って、頭上を探ると石の矢じりの様なものが頭に数本ささっている。 ? どこから来たんだ? いぶかしく思い、その出先を探ってみる。 こんな仕事をしていると、 けっこう呪を受けたり、式神を飛ばされたり、念が来たりと実はなかなか忙しい。 仕返しをするような子供じみた事もあまり趣味ではないが、 相手を知るのも防御の手のうちである。 相手が何か判らないうちに、 相手の出方が判らないうちに手を出さない方がいい。 それが出来るのは、よっぽど強大なパワーをぶち返せる者だけだ。 そう、仕返しで生殺しくらいのダメージをくらわせても、それによってさらに闘志を仰がせるくらいしか出来ない半端な処理が一番始末にわるいのだ。 今度仕掛けたら、命がけし飛ぶ。 そんなくらいの恐怖心を相手の生存本能に湧きあがらせる強烈な一発が一番なのだろうが…。 あいにく今の私のパワーではまだ無理だな。 ふう…、とため息をつき、 矢じりの出先を探る。 出先は人ではなく…。 魔性でもなく…。 宇宙(そら)から? 星が見えた。 その星から鋭い巨大な矢じりの様なものが次々とふってくる。 これは何だ? 今までにない光景に目を奪われていると、もう一つ星が現れた。 その星は、氷の様なモノを吹き出している。 『星には、その星にすむ者達によって作り出される波長というモノがあるのだよ』 と声がする。 そして二つの星の話を語った。 二つの星に住む者たちは、元々は他の星から来た同じ起源の者たちだったのか互いに交流があった。 しかし時が進むにつれ、大きな文化的・思想的な差異が生じて行った。 強い思考と固執する文化・思想は文字通り、 それに反するものに対して刃となる事がある。 最初の始まりは、ほんの小さな一つの傷であったであろう。 それは、我々でいうなら「カルチャーショック」というものであろうか。 「お前らの星が悪い!」 「なにを!お前らのせいで我々が被害を被っているのだ」 理解と協調へと歩み寄らない二つの流れは、 それ以後、互いを傷つけあうつぶてとなった。 方や、矢じりとなり、 方や、氷弾となり、 長い長い間、 互いの波動で互いを傷つけあった。 そして、相手の思想を憎む心・受け入れない心は己の真の心の柔らかさをもそこなっていったのであった。 互いの星、いや、人々の心が崩壊するのではないかと言う時…。 外にばかり原因を求め、 糾弾し続ける事に疑問を持つ者が出始めた。 そして 「自分の心を冷静に見つめる為に」 「外ではなく、内に目を向ける為に」 壊れかけ、 固くなった心に目を向けよう…。 そういう思考が生まれた。 それは地球で言う100匹の猿現象の様に、 互いの星で、それぞれ連絡もとらないもの同士が一定数その考えを持った時に星全体を包み込み始めた。 矢じりの他に、その星から水の様な波紋が流れだし始めた。 氷弾の他に、その星からも水の様な波紋が流れ出し始めた。 それはやがて、二つの星を繋げる河となった。 ******************************* ・・・・ ・・・・ なんだ?この七夕もどきは??。 おい?と尋ねると、 こんな言葉だけを残して、声の主は去って行った。 『星が星に住む者によって波動を出すと言うのは本当なのだよ。 貴方の星は宇宙に迷惑になる波動を形成しようとしているか。 宇宙を温かくなるような波動を形成しようとしているか。 星の子らよ。 そろそろ、宇宙の一人としての責任も自覚されよ』 なるほど…。 みなの意識が星に向かうこの時期に伝えたもうとの事か。 7月某日、宇宙(そら)より賜いし言葉、 耳視師・月櫻、それを宇宙(そら)の願いとし短冊と共にしたためし候。 追伸> 「今日も雨だな」 朝、窓を見上げて月櫻はつぶやいた。 「そうね。けどこの数年、ずっと七夕って雨じゃない?」 マネージャー兼友人の奈桜(なお)が言う。 「ねえねえ。節句って1月1日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日。 奇数月の奇数日にあるって前に行ってたわよね。」 「ああ、奇数は陽の数とされて、陽が重なる日は陰が強くなるから、 厄払いや無病息災を祈る行事がされるというな」 「あのね、私思うんだけど、最近の世の中ってつねに忙しくて、つねに陽の気があふれてるじゃない。テンション高くないと流されちゃうって云うかな。だから逆に雨が降って陰の気で押さえるとかあるんじゃないかしら、どう?」 奈桜は目をくりくりさせ、笑いながら月櫻に問いかけた。 「おいおい、それじゃ、他の節句の日はどうなるんだ?雨だったか?」 「え?え~~~~と。…調べれば判るかもwww」 「それは面白いかもしれないが…。私はやらんぞ」 ええ~~???という奈桜をしり目に、 月櫻は一人こう思っていた。 浮世の空は曇れども、高天の原は晴れどおし…ってか、 雲の上のおそらは、年中無休で晴れてるよ。 年に一度しか逢えねぇんだしよ。 せっかくの日に、「わ~~頑張れ~~」って毎度毎度ギャラリーがうるさかったら、そら、うっとおしくもなるだろうよ。 七夕の雨は逢引を楽しむ為に、人目をはばかる傘のごとしってか。 ふと、口元に笑みを浮かべ、雨空を眺めるのであった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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