テーマ:徒然日記(23454)
カテゴリ:読書
「敗者の条件」 会田雄次著 中公文庫 590円
最近はアマゾンで書籍を買う頻度が多くなっています。購入歴から読書傾向を分析してお奨め書籍の紹介をメールで送ってくるのですが、この本もその中の一冊です。初版は1983年とありますから30年も前に書かれたものです。 世に歴史通・歴史ファンは多く存在しますが、近年は歴女が存在感を増し、映画やアニメも戦国時代をモチーフにしたものが多く制作されている様でチョッとした歴史ブームの様です。私も含めた歴史ファンの多くは其処にロマンチシズムやセンチメンタリズムを求めるのですが、この本はそんな温く青臭い歴史観を鼻で笑って叩きのめします。西洋史家である会田氏はルネサンス期ヨーロッパの封建君主等を参照しながら日本の戦国大名の凄惨で打算的な「現実の姿」を穿り返す事で、現代社会の価値意識で封建時代の為政者の圧政や非人道性を揶揄する愚かさを語り、下克上の乱世にこそあった人間の魂を輝かせる「己の裁量のみで闘い続ける精神」に読者を着眼させます。 打算的であるからこそ真っ直ぐな生きる力と、善悪を超えた強者の価値が見えて来る。其処には百姓上がりの小男が天下人と成り得る自由が間違いなくありました。このあたりの言説は何となくニーチェ的な印象を受けます。 しかし、その後の徳川300年が創造した抑圧と従属の構造は下克上を許さぬ堅固にして不自由に考え抜かれたもので、それは現代日本まで延々と連なる「偽善と体裁主義」の蔓延による停滞社会を恒常化してしまった様です。 著者は太平の世が作った徳川武士道を否定していて此れを空念仏と一蹴しており、私も大いに溜飲を下げるところであったのですが、この異様で非合理な精神性は間違いなく現在も日本の難点を増幅し続けています。 本書文中ではマキャヴェリが頻繁に引用されます。残念ながら私はマキャヴェリを読んでいないのですが、マキャヴェリが引用された本や記事は相当数読んでいますので概要からだけのイメージでは、彼は日本では随分と誤解されて一般的に認知されている様です。元来が民主制を望んでいたマキャヴェリが「君主論」において冷徹な専制君主を希求するに至るのは、門閥や党派の抗争に現を抜かし、宗教的な偽善が現実を駆逐する衆愚政治への義憤によるとあります。現代社会も同様の理由で民主主義とその為の意思決定の限界性を感じざるおえない状況である事を思えば、500年以上前に生きた彼が参照される由縁も何となく解る気がします。 他力本願的に「民主的な専制君主」の登場を希求しているとしか思えない素っ頓狂な日本の民主主義意識の由縁は宗教的デカダンスに拠ると考えますが、おそらく著者の会田雄次氏もマキャヴェリと同様に、創作当時の日本の温い状況に苛立ち、相当怒っていたのではないのでしょうか。タイトルを「勝者の条件」では無く、「敗者の条件」としたのは著者の情念のようなものが込められているのかもしれません。 歴史から何を読み解くかは各個様々ですが、其処には必ず現代社会に連なり影を落としているものがあります。自分の意識に無かった視点を齎してくれるこうした本との出会いは本当に有り難いものであると思うのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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