はざくらの気ままな暮らし

[ハノイ旅行] カテゴリの記事

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  トーベ・ヤンソン著　『ムーミン谷の十一月』

  ☆ものさびしい気配がおしよせるムーミン谷の十一月。ムーミン一家に会いたくて、ムーミン谷へ行きたくて、集まってくる六人。ムーミンママになぐさめてもらいたいホムサ、ひとりでいるのがこわくなったフィリフヨンカ、自分でないなにかになりたいヘムレンさん、養女にいった妹のミイに会いたくなったミムラねえさん、ずっと昔にいったムーミン谷の小川で気ままにすごしたくなったスクルッタおじさん、五つの音色をさがしにムーミン谷へもどったスナフキン。ところが、ムーミン屋敷はもぬけのから。待てど暮らせどムーミン一家はもどってきません。六人の奇妙な共同生活がはじまります。「ムーミン」シリーズ最終巻! ☆昨夜放送された「ビーバップ・ハイヒール」という関西の番組でムーミンを取り上げていたので、最終巻であるこの８巻を読み直しました。ムーミンに出会ったのは小学生の時図書館で借りたのが最初。面白かったので続きを母に買ってもらった。それで、うちにある本は３・４・６・７巻だけでした。でも全巻揃えたくなって、大人になってから欠けている巻を自分で買い足したのですが、今見たらひどいですよ～。最初に買った４冊（昭和４３年版）はまだ今でも割合きれいなのに、あとで買ったもの（昭和５５年版）はすっかり黄ばんでしまっています。紙の質が悪くなったのですね。わたしも、テレビで放送が始まったとき、あまりに原作の雰囲気と違ってがっかりした方です。原作はあんなに妙に健全で明るい雰囲気ではないし、なによりもその幻想的なところが好きだったから。でも、子供のころに好きだった前半の巻が強く思い出に残っていて、大人になって読んだ最終巻はほとんど忘れていました。最終巻には、ムーミン一家はでてきません。一家の留守に訪れた人たち（いずれもなにか悩みをもつ）が、ムーミン谷で暮らすことによって再生していく話です。深いです。

  2014.08.29

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  森　絵都著　『クラスメイツ　後期』

  今は、中学校って前期後期の二期制だったんでしたっけ？　子供が大きくなると、そういうことにはすっかり縁遠くなってしまって。相変わらず元気な１年A組のみんなの話、つづき。前に出てきた子に起きた出来事が、後の子の話のなかでうまく解決していて気持ちよく進みます。どの子もいろいろ悩んだり考えたりしてる。派手なミステリとは違い大きな事件もないのですが、あたたかくて良かったです。

  2014.08.03

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  森　絵都著　『クラスメイツ　前期』

  ☆日本のYA文学をきりひらいてきた森絵都が、直木賞受賞後はじめて描く中学生群像。中学1年生24人のクラスメイトたち、その1人1人を主人公にした24のストーリーで思春期の1年間を描いた連作短編集。前期・後期の全2巻。 うれしい出会いや、ささいなきっかけの仲違い、初めての恋のときめき、仲間はずれの不安、自意識過剰の恥ずかしさや、通じあった気持ちのあたたかさ。子どもじゃないけど大人でもない、そんな特別な時間の中にいる中学生たちの1年間。だれもが身にしみるリアル。シリアスなのに笑えて、コミカルなのにしみじみとしたユーモアでくるんだ作品集。 ☆まだかわいらしい中学一年生たち、でもそれぞれ悩みや不安を抱えています。どこの中学でもありそうな話で、同世代の子が読んだら共感するだろうな。はるか遠い中学時代を思い出しつつ読んでいます。後期に続きます。

  2014.08.02

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  宮木あや子著　『校閲ガール』

  ☆ファッション誌の編集者になるはずだったのに、どうして私が校閲に!?出版社が舞台のお仕事エンタメ。☆ 出版社のなかの、校閲という仕事がどういうことをするのかが良くわかる小説です。わたしもちょっと前に、演奏会のプログラムの校正を手伝ったのですが、若いころ出版関係の仕事をしていた人が実に細かく朱を入れていたので、すごいなあ！と感心したのです。校閲って大変な仕事ですよね。目が悪くなりそう。ご苦労様。

  2014.08.01

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  村田喜代子著　『屋根屋』

  ☆雨漏りのする屋根の修理にやってきた屋根屋。自在に夢を見られると語る彼の誘いに乗って、「私」は、夢のなかの旅へ一緒に出かける。九州訛りの木訥な屋根屋と、中年主婦の夢の邂逅は、不思議な官能をたたえながら、ファンタジーの世界へと飛翔する。 ☆夢の中で旅をする美しい小説でした。表紙のシャガールの絵があまりにもピッタリです。夢の世界で、ノートルダム寺院やシャルトル大聖堂を空から見てみたり、誰も登れない五重塔のてっぺんまでも飛び上ったり。恋愛に陥る一歩手前のような危うい気持ちもすてきでした。

  2014.07.22

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  田中兆子著　『甘いお菓子は食べません』

  ☆欲望に蓋をして生きていくつもりだった。けれど――。第10回R-18文学賞大賞受賞作。アルコール依存から脱することのみを目的に生きる女。「きみとはもうセックスしたくない」と夫から宣言された女。母になるか否かを考え続ける女。もっと愛したい、もっともっと愛されたい、なのに――40代を漂う彼女たちが見つけた、すべて剥がれ落ちた果ての欲望の正体とは。女の危うさと哀しみを迫力の筆致であぶり出した、連作短編集。 ☆４０代後半の女性たちが心の底に隠しているなまなましい欲望を、あえてむき出しにした小説でした。すこしずつ登場人物が重なって、連作になっているのが面白い。

  2014.06.25

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  柚木麻子著　『その手をにぎりたい』

  ☆80年代。都内のOL・青子は、偶然入った鮨店で衝撃を受けた。そのお店「すし静」では、職人が握った鮨を掌から貰い受けて食べる。青子は、その味に次第にのめり込み、決して安くはないお店に自分が稼いだお金で通い続けたい、と一念発起する。お店の職人・一ノ瀬への秘めた思いも抱きながら、転職先を不動産会社に決めた青子だったが、到来したバブルの時代の波に翻弄されていく。一ノ瀬との恋は成就するのか?☆銀座にある高級江戸前寿司、座っただけで３万円！というお店が舞台。著者の参考文献をみたら「すきやばし次郎」の名が挙がっていたので、オバマさんが食べてたお寿司ってこんな感じなのか～と思いました。そんな高級なお寿司なんて食べたことがないので、ひたすら美味しそうでした。お寿司屋さんからこんな小説ができるなんて、発想がおもしろい。また、主人公はわたしと同じくらいの年なので、その当時の世相なども思い出しつつ読めたのが良かったです。

  2014.06.18

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  宮下奈都著　『田舎の紳士服店のモデルの妻』

  ☆ゆるやかに変わってゆく。私も家族も。田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、子育てに迷い、恋に胸を騒がせる。じんわりと胸にしみてゆく、愛おしい「普通の私」の物語。☆夫がうつ病になり、退職して実家のある地方都市に引っ越す。それからの１０年を描いています。専業主婦である主人公の悩みや迷いはずっと続き、クリアに解決するものではなく、またそういう方向に向かわなかったのが予想と違いました。なんともうだうだしてみえるけれど、実際人生ってこういうものなのだから仕方ないなあと思ってしまいました。なんかスッキリしない読後感だけれど、だからこそ良くできた小説だなと感じました。

  2014.06.12

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  三浦しをん著　『政と源』

  ☆簪職人の源二郎と元銀行員の国政は、ふたり合わせて146歳の幼なじみ。弟子の徹平と賑やかな生活をおくる源二郎と、男やもめの国政を中心にまき起こる、人情味豊かで心温まる事件の数々。下町を舞台に繰り広げられる人情物語。三浦しをん、新境地! ☆「つまみかんざし」という名前を初めて知りました。舞妓さんや文楽の人形が使っているとのこと。ネットで調べてみたら美しいものがいろいろあるのですね。伝統の技ってすばらしい。ストーリーは独特のテンポ(マンガ読んでいるみたい！）で軽快に進むのですが、ちゃんと見せ場もあるし面白かったです。

  2014.06.05

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  松井今朝子著　『師父の遺言』

  ☆変わりすぎるほど変わった人を、私は一生の師と仰いだ…祇園の料亭に育ち、歌舞伎の世界に飛び込んだ著者は、稀代の演出家にして昭和の怪人、武智鉄二に出会った。この反骨の師が全身全霊で教えてくれた、人生の闘い方とは――。直木賞作家が波乱万丈の半生を綴る、自伝文学の傑作! ☆武智鉄二、おもかげがかすかに記憶にあります。武智の晩年に愛弟子として見込まれ、厳しく育てられた松井さんは、さすがタフな人だと思いました。松井さんは演出の道には結局進まず作家になったわけですが、門外漢には垣間見える演劇の世界が興味深い。

  2014.05.23

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  高田　郁著　『残月』

  ☆吉原の大火、「つる家」の助っ人料理人・又次の死。辛く悲しかった時は過ぎ、澪と「つる家」の面々は新たな日々を迎えていた。そんなある日、吉原の大火の折、又次に命を助けられた摂津屋が「つる家」を訪れた。あさひ太夫と澪の関係、そして又次が今際の際に遺した言葉の真意を知りたいという。澪の幼馴染み、あさひ太夫こと野江のその後とは―(第一話「残月」)。その他、若旦那・佐兵衛との再会は叶うのか?料理屋「登龍楼」に呼び出された澪の新たなる試練とは…。雲外蒼天を胸に、料理に生きる澪と「つる家」の新たなる決意。希望溢れるシリーズ第八弾。☆いろいろ不幸な出来事が続いた後で、少しずつ平穏を取り戻していくつる家。今回は明るい未来への展開が見えてきました。江戸っ子は高野豆腐を食べる習慣がなかったのですね～

  2014.05.20

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  小川洋子・クラフト・エヴィング商會著　『注文の多い注文書』

  ☆「ないものを探してください」。小川洋子の描く人物たちの依頼に、クラフト・エヴィング商會が応える。ふたつの才能が真剣勝負で挑む、新しい小説のかたち。☆小川洋子の注文書は、「人体欠視症治療薬」「バナナフィッシュの耳石」「貧乏な叔母さん」「肺に咲く睡蓮」「冥途の落丁」。クラフト・エヴィング商會が注文にこたえる納品書。それに対する小川の受領書。５つの小説をもとにした、なんとも不思議に美しい本です。

  2014.05.12

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  山本文緒著　『なぎさ』

  ☆家事だけが取り柄の主婦、冬乃と、会社員の佐々井。同窓生夫婦二人は故郷長野を飛び出し、久里浜で静かに暮らしていた。佐々井は毎日妻の作る弁当を食べながら、出社せず釣り三昧。佐々井と行動を共にする会社の後輩の川崎は、自分たちの勤め先がブラック企業だと気づいていた。元芸人志望、何をやっても中途半端な川崎は、恋人以外の女性とも関係を持ち、自堕落に日々を過ごしている。夫と川崎に黙々と弁当を作っていた冬乃だったが、転がり込んできた元漫画家の妹、菫に誘われ、「なぎさカフェ」を始めることになる。姉妹が開店準備に忙殺されるうち、佐々井と川崎の身にはそれぞれ大変なことが起こっていた―。苦難を乗り越え生きることの希望を描く、著者15年ぶりの長編小説! ☆平凡な夫婦や妹・夫の部下、といったごく普通の人々の日常を書いているのに惹きつけられてしまう。どんな仕事をやってもダメなやつ、すれ違う夫婦、姉妹の葛藤、親との問題・・・どれをとっても重い。ブラック企業に勤める夫が過労から壊れそうになってしまう場面は辛かった。どれにもはっきりした解決はないし、最後まで好転したとも思えないのだけど、やや明るい希望を感じられるのが救い。

  2014.04.11

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• 瀬戸内晴美著　『ここ過ぎて　白秋と三人の妻』

  ☆俊子、章子、菊子―天才詩人として一世を風靡した北原白秋は、生涯に3人の妻を持った。美貌の人妻俊子との恋は一大スキャンダルとなり、二人は姦通罪に問われて入獄する。出獄後、二人は正式に結ばれるが、結婚生活は1年余りしか続かなかった。2番目の妻章子は、どん底時代の白秋と5年の歳月を共有し、白秋に「雀の卵」などの名作を生ませたが、破局は突然に訪れる。ようやく生活が安定するかに見えた矢先、章子が若い記者とともに姿を消すという悪夢のような事件がおこり、二人の仲は断たれる。白秋は間もなく三番目の妻菊子と結婚し幸福な家庭を築くが、離別した章子は落ちつく家もなく各地を転々としたあげく、生家にもどって狂死する…。烈しく燃えた女流詩人章子の生涯を中心に、白秋と3人の女たちの波瀾に満ちた愛の軌跡をたどる。☆北原白秋の曲を歌っているので、昨年以来白秋についていろいろ調べていました。白秋については一段落しましたが、白秋の別れた妻がその後どうなったのか気になっていたところ、見つけたのがこの本。「新潮」に昭和５６年から連載していたもの。綿密な調査をもとにしていますが著者の創作（想像）のような部分もある。恋愛小説家ですからね。わたしは最初の妻俊子のことをもっと知りたかったのですけど、一般人だったのであまり記録がないみたいです。二番目の妻章子がとりわけ変わった人だったうえに詩人だったので、この人の話が主。他にも章子を取り上げた本はたくさんでていますが、病気のせいか性格のせいか穏やかな暮らしができず不幸な方へばかり行く人で、こちらまで気持ちが暗くなってしまいました。晩年が幸せでない人の話はつらいです。

  2014.03.28

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  ヘレーン・ハンフ著　『チャリング・クロス街84番地』

  ☆ニューヨークに住む本好きの女性がロンドンのチャリング・クロス街84番地にある古書店マーク社にあてた一通の手紙からはじまった二十年にわたる心暖まる交流。ここで紹介される”本好き”の書物を愛する心、書物を読む愉しみ、待望の書物を手にする喜び、書物への限りない愛情は、「手紙」の世界をこえて、読む者を魅惑の物語のなかに誘いこむ。☆これは実話で、往復書簡だけでできています。ロンドンの古書店というとそれだけで私などはロマンを感じてしまいますが、このハンフという女性作家（脚本家？）の読書歴は超一流で及びもつかない。こういう貧しくとも心豊かな女性からの探し物は、古書店の従業員にとって非常な楽しみだったことでしょうね。趣味の合う人と本について語り合うようなものです。この本は映画にもなっていたそうです。翻訳は今は亡き文芸評論家江藤淳さん。あとがきを読んだら、この本の翻訳をとても楽しまれていたように思います。

  2014.03.16

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  梨木香歩著　『冬虫夏草』

  ☆ここは天に近い場所なのだ――。『家守綺譚』以後を描く、心の冒険の物語。亡き友の生家の守を託されている駆け出し文士、綿貫征四郎。行方知れずになって半年余りが経つ愛犬ゴローの目撃情報に基づき、家も原稿もほっぽり出して鈴鹿山中に分け入った綿貫を瞠目させたもの。それは、自然の猛威には抗わぬが背筋を伸ばし、冬には冬を、夏には夏を生きる姿だった。人びとも、人にあらざる者たちも……。 ☆河童に天狗、龍神、イワナのお宿。京都の疏水べりの家から鈴鹿までの旅。時代設定は明治くらいか、その頃の暮らしぶりと民話の世界はとても近かったのだと思うのだけど、いつもながら何が出てきてもまったく違和感ないのに驚かされる。地図を見ながら読んだのですが、彦根のちかくの能登川駅から歩き始めて、八風街道を東へ進み、永源寺、萱尾、政所、蛭谷、君ヶ畑、茨川という三重県境近くまで。梨木さんは滋賀県在住だそうですが、この山深い道を踏破されたことがあるのでしょうね。行く先々の村に残る伝説や由緒などとても詳しいし、山の植物の描写がすばらしい。こんなところをゆっくり歩いてみたいものです。

  2014.03.06

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  壺井　栄著　『母のない子と子のない母と』

  ☆戦争で家族を失ったおとらおばさんは、故郷の小豆島へ帰ってきた。母親を失った一郎少年も焼けだされて島へ帰ってきた。戦争の痛手をうけた人びとの美しい人間愛を郷土色豊かにうたいあげた『二十四の瞳』の作家、壷井栄の長編小説。第二回文部大臣賞受賞。光文社創業60周年記念出版。 ☆大昔読んだのですが、覚えていたのは近所のおばさんがオッパイで目に入ったゴミを洗い流してあげるというシーン(衝撃的でした！）のみ。戦争でつらい思いをした子どもが、温かい島の人の気遣いで元気になる。意地悪な人が全然出てこないので、あまりリアルでないかもしれないけど、それがずいぶん慰めになります。この時代の子どもたちは、わたしの親の世代。日本の子どもたちの生活はうんと変わってしまったなあ。

  2014.03.04

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  原田マハ著　『ユニコーン』

  ☆タピスリーの貴婦人は、ジョルジュ・サンドに助けを求めた。中世美術の最高傑作「貴婦人と一角獣」に秘められた物語が、幕を開ける。ジョルジュ・サンドの短編も収載。 ☆「貴婦人と一角獣」のタピスリーを見て、原田さんが作った物語で、とてもきれいな本です。中世の時祷書みたい。このサイズ、良いですね！でも、少し短すぎて物足りなかったです。わたしは物語よりも、原田さんのタピスリー解説というか解読？が読んでみたかったな。

  2014.02.23

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  メアリー・アン・シェイファー著　『ガーンジー島の読書会(下）』

  ☆ガーンジー島へ渡り、島の人々と交流を深めていくジュリエット。大戦中から続く“読書会”を次回作の題材に決めた彼女は、ナチスに捕えられ消息のわからないエリザベスに思いを馳せる。ニューヨーク・タイムズのブックランキングで5週連続第1位。☆美しい島の風景や、思いやり深い人々が目に浮かぶようなステキな小説でした。日本では出たばかりの新刊ですが、発表されたのは2008年で、その年すでに著者は亡くなっていて、これが唯一の著作だったということが惜しまれます。戦争の悲惨さ、哀しみを癒す温かいこころ。こういう物語が映画化されたら見てみたいものですが、そういう話はないのかな？

  2014.02.13

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  メアリー・アン・シェイファー著　『ガーンジー島の読書会(上）』

  ☆一冊の本をきっかけに、ガーンジー島の人々と手紙を交わしはじめた作家のジュリエット。そこで彼女が知ったのは、大戦中ナチスに占領され不自由な世界を強いられた島民の心を支えた“読者会”の存在だった。☆ガーンジー島とは、イギリスとフランスの間にあるチャンネル諸島のひとつの島です。ここでドイツ占領下にどんな暮らしがあったのか、初めて知ることが多くてとても興味深いし面白い。魅力的な島の人々との交流がすべて手紙による、という形式も新鮮です。本もいろいろ登場するのですが、「本を愛する」ってこういうことなのだなと実感します。下巻が楽しみ。

  2014.02.12

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  湊かなえ著　『境遇』

  ☆デビュー作の絵本『あおぞらリボン』がベストセラーとなった陽子と、新聞記者の晴美は親友同士。共に幼いころ親に捨てられた過去を持つ。ある日、「真実を公表しなければ、息子の命はない」という脅迫状とともに、陽子の息子が誘拐された。「真実」とは何か……。☆一気に最後まで読ませるのはさすが。途中でなんとなく先が見えてきたし、結末は「これでいいの？？」と思いました。もうとっくにテレビドラマ化されたそうなので、知っている人は知っているのでしょうね。きれいに終わらせたけれど、登場人物はみんなこの事件のあとの暮らしのほうがよほど大変だろうと思う。現実ならきっとドロドロになるはず。そういうなまなましさに欠ける作品。

  2014.02.05

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  松井今朝子著　『星と輝き花と咲き』

  ☆馬車鉄道に錦絵がはためき、書生たちは人力車を追いかける。元祖アイドル+元祖追っかけ。人気に惑わされず一途に芸の道を生きる竹本綾之助とステージママとしてその活躍を支え続けた母の二人三脚の日々は、しかし、唐突な終わりを迎え―。日本最初のアイドルとファンのどこまでも熱い物語。直木賞作家・松井今朝子が描く傑作長編小説。 ☆明治時代には、文楽や義太夫というものが庶民の娯楽で、特に大阪では習い事として盛んだったようすが良くわかります。文楽座や寄席などで公演が行われていて、気軽に聞きに行けたし、だれでも内容が理解できた。それがいつのまにか、むずかしい伝統芸能になってしまったのだなあ。彗星のごとく現れたアイドル歌手、とでもいう感じの娘義太夫竹本綾之助。たたえられる一方でさげすまされてもいた当時の女芸人の生き方は興味深かったです。

  2014.01.30

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  アリソン・フーヴァー・バートレット著　『本を愛しすぎた男』

  ☆稀少古書のみ数百冊を巧妙な手口で盗み続けた「本を愛しすぎた男」と、彼を追う古書店主にして熱血素人探偵のデッドヒート! 古今東西の本泥棒たちの驚きのエピソードも交えて描く、古書をめぐる手に汗握るノンフィクション!☆「泥棒にも三分の理」ということわざを思い出しました。この本に出てくるのは、稀覯本や高価な初版本を狙う本泥棒、それも転売が目的ではなく、自分のコレクションを増やしたいばかりに盗みを働く男です。筆者はその本人に直接取材しているのですが、この泥棒は自分勝手な屁理屈ばかり言うのです。そのあっけらかんとした考え方には驚かされます。

  2014.01.28

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  小川洋子著　『いつも彼らはどこかに』

  ☆たてがみはたっぷりとして瑞々しく、温かい―ディープインパクトの凱旋門賞への旅に帯同することになる一頭の馬、森の彼方此方に不思議な気配を残すビーバー、村のシンボルの兎、美しいティアーズラインを持つチーター、万華鏡のように発色する蝸牛…。人の孤独を包み込むかのような気高い動物たちの美しさ、優しさを、新鮮な物語に描く小説集。 ☆登場するのはみな静かに暮らしている孤独なひとばかりです。そこに現れる動物が今回の短編集のアクセント。簡単には言えないけど、どの短編も静寂・哀しみ・孤独・優しさなどを感じます。あとあとまで、清らかで美しいものに触れたような気持が残る本です。

  2014.01.21

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  ヒラリー・マンテル著　『ウルフ・ホール（下）』

  ☆国王ヘンリー八世とキャサリン王妃との離婚は成立した。王の愛人アン・ブーリンは正式に王妃となることが決まり、戴冠式が近づいてくる。そのころ、確固とした信念を持つ非情な大法官トマス・モアは、異教徒の逮捕と処刑を進めていた。宮廷で着々と地位を築くトマス・クロムウェルは、市民の流血を最低限に抑えられるよう奔走するが…政治、信仰、個人。なにがいちばん大切なのだろうか?30を超える有力メディアで年度ベストに選出。激動の16世紀イギリスで生きる一人の男の明暗を、大胆かつ柔らかな筆致で描きだした歴史文芸大作。 ☆ルターの教えが広がりを見せ、イギリスにも信じる者が増えてきた時代。異教徒と言えど同じキリスト教徒、それを拷問の上火あぶりなど残酷な公開処刑という怖い時代です。そういうことを率先してきたトマス・モアが、やがて処刑されるまで。高潔なモア・腹黒いクロムウェルという従来のイメージを本書が一変させています。

  2014.01.11

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  ヒラリー・マンテル著　『ウルフ・ホール（上）』

  ☆16世紀のイギリス、ロンドン。息子が生まれないと悩む国王ヘンリー八世は、王妃との離婚を願う。しかし、教皇の反対により、一向に離婚協議は進まない。トマス・クロムウェルは、卑しい生まれから自らの才覚だけで生きてきた男。数カ国語を流暢に話し、記憶力に優れ、駆け引きに長けた戦略家だった。仕える枢機卿の権勢が衰えていくなか、クロムウェルはヘンリー八世に目をかけられるようになるが―16世紀のイギリス宮廷を、希代の天才政治家クロムウェルの目から描いた興奮の歴史大作。ブッカー賞、全米批評家協会賞、ウォルター・スコット賞受賞。 ☆「罪人を召し出せ」の前作となる小説です。ウルジー枢機卿に仕えていたクロムウェルが、枢機卿失脚後にヘンリー８世によって取り立てられ立身出世していくさまが描かれています。無茶な理屈でキャサリン王妃と離婚しようとするヘンリー８世は、誰が描いても興味深い人物です。クロムウェルの業績もよく知らないでこのシリーズを読み始めたのですが、自分の才覚だけで下層階級からのし上がってきた人にしてはずいぶん上品に描いていて、悪くない。ワガママ王との駆け引きなどなかなかおもしろい。ただ（前の本もそうだったけれど）、原文が凝っているのか、訳の問題なのか？話が前後したりして文章がとてもわかりずらくなかなか先に進めないのがつらい。

  2014.01.02

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  梶よう子著　『お伊勢ものがたり　親子三代道中記』

  ☆わけありの武家の女三人と頼りない案内人(御師)の珍道中若い女巾着切り、いわくありげな浪人者、犬を相棒にした抜け参りの子ども…いくつもの出会いが祖母の、母の、孫の人生を変えていく。心がほっとあたたまる長編時代小説。☆ 御師というのは外宮御師：今なら伊勢の旅行会社とホテルを一緒にしたような存在らしく、御師の手代（ツアーコンダクター？）が案内して江戸から伊勢まで旅をするのです。母・娘・孫娘の三代が伊勢へ旅するものがたりで、これは人情話としても面白いし、こういうものこそ現代歌舞伎の新しい演目にどうかなあ～と思ったのでした。江戸から伊勢まではおよそ２０日の旅だそうで、四国８８か所とかサンチャゴ・デ・コンポステッラ巡礼の旅が人気でもあることだし、こういう徒歩の旅を今企画したらウケるかもと思いました。片道２０日は長いけど往復一週間くらいだったらやってみたい。たとえば京都から伊勢ってどのくらいなのかな？ついでに・・・母娘三代の旅というのはわたしの母が生前よく言っていて、うちの娘にはフランス語を習わせて一緒に行こう、と話していた。生きていたら娘が２０歳のとき母は７０才だったから、実現していただろうと思う。

  2013.12.22

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  松井今朝子著　『歌舞伎の中の日本』

  ☆歌舞伎はどんな芸能で、どのように鑑賞すればよいのか?『忠臣蔵』『四谷怪談』など主要な十演目を年代順に取り上げ、成立した時代背景や見どころ、作劇法などを論じるほか、歌舞伎の重要な要素である「舞踊」についても詳しく解説し、総合芸術である歌舞伎の実体を立体的に浮かび上がらせる。江戸の世相や民意を反映して歌舞伎が発展した様を追いつつ、作品の底に流れる日本人のメンタリティーにまで鋭く迫る。歌舞伎の研究・台本作りにも携わった経験をもつ著者が、歌舞伎の真髄を綴った、格好の入門書。 ☆顔見世で「義経千本桜（四の切）」を見るので予習のために読みましたが、さすが松井さんの書くものは深いのに読みやすい。そして、これまで読んだ入門書や手引きとは少し違った見方をしている。幼いころから歌舞伎にかかわってきた人だけある！と思いました。他に「暫」「廓文章」「菅原伝授手習鑑」「仮名手本忠臣蔵」「夏祭浪花鑑」「楼門五三桐」「積恋雪関扉」「東海道四谷怪談」「三人吉三廓初買」について書かれているので、また芝居を観る前に読み返したい。

  2013.12.22

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  瀧羽麻子著　『左京区恋月橋渡ル』

  ☆京都の理系男子が初めて恋した相手は姫!?たいせつに育まれる初恋のときめきをいとおしく描いたとびきりキュートな純情恋愛長編。 ☆大学院生の初恋、というにはあまりにもかわいい物語。憧れの女性が葵祭りの斎王代だなんて・・・まるで京都案内みたいで、京都に憧れている人には喜ばれるかもしれないが、これは少し幼稚だなあ～。京都の大学生を描いた青春小説はいろいろあるけど、それらに比べても物足りなかったです。

  2013.12.19

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  北原亞以子著　『たからもの』

  ☆江戸・深川。木戸番の笑兵衛とその妻、お捨は、人にいえない苦労の末に深川に流れてきたと噂されている。無口だが頼りがいのある笑兵衛と、ふっくらとした優しさで人々を包み込むお捨のもとには、困難な人生に苦しむ人々が日々、訪れる。悲しみや愁いを抱えた人たちの背中をそっと押す二人。生きてゆくことにささやかだが確かな希望の灯をともす、八篇を収録。今年3月に逝去した著者による、このシリーズ最後の1冊。☆ 「深川澪通り木戸番小屋」という人情時代小説のシリーズ最終巻です。新聞の書評を見て読んだのですが、とても人情が心にしみる短編集でした。江戸時代の人たちは朝から晩まで良く働く。それで食べるのが精いっぱい。週一回の休日さえない時代、こんなにも日本は貧しかったのだなと思う。

  2013.12.11

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  ヒラリー・マンテル著　『罪人を召し出せ』

  ☆1535年秋、ロンドン。ヘンリー八世の王妃になったアン・ブーリン。しかし、その地位はおそろしく脆いものだった。卑しい生まれのトマス・クロムウェルは、いまや王の重臣となっている。だが、平穏な日々はいまだ遠い。国家はキリスト教国のあいだで孤立し、貴族たちはそれぞれの思惑を抱え、熱望する世継ぎがなかなか得られない王は女官ジェーン・シーモアに心を移す。クロムウェルは王と国家にとって最善の道を探るが―16世紀イギリスの宮廷に生きる冷静沈着な政治家クロムウェルを描く、『ウルフ・ホール』に続く歴史文芸大作。ブッカー賞、コスタ賞受賞! ☆前に「ブーリン家の姉妹」という小説を読んで以来ずっと興味のあるヘンリー八世と６人の妻たち。クロムウェルの視点でアン・ブーリンを描いているのは面白いが、なかなかの大作で読のがたいへんでした。前読んだものも含めて、アン・ブーリンは賢い女性だったけれど、どうも知略に走り過ぎたのかなという印象です。しかしヘンリー８世は恐ろしい王様ですね。アン・ブーリンと結婚するためにローマ教皇と仲たがいし、イギリス国教会をつくったというのに、ほんの３年ほどで妻を斬首刑にしてしまう。こういう話を聞くと高校時代ニガテだった世界史がすごく面白くなる。そんな話をしてくれる先生がいたら全然違っただろうなあと残念に思います。

  2013.12.10

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• 林芙美子著　『一人の生涯』

  今練習している合唱曲の歌詞が林芙美子の作った詩です。その出典がわからず、団員の人があちこち探して見つけてくれたのが、この「一人の生涯」です。本はみつからず、ネットで読みました。「放浪記」のように、この作品も貧しい生活のなかで必死に生きていく主人公が書かれています。これは私小説なので、すべて林芙美子と同一視してはいけないのかもしれないけど、女ひとりで生きていくことの孤独や厳しさ、その一方で鳥のように自由な感じ。行くと決めたらたったひとりで中国へ、パリへと旅してしまう行動力（これは実際に１９３０年に行っています）もすごいです。貧しくてあまり学校にも行ってなかったのに、幅広い知識と読書量にも圧倒されました～。 

  2013.12.05

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  石田千著　『きつねの遠足』

  ☆からりと晴れたら町に出て、風邪をひいたら本を読む。銭湯、寄席、銀座のバアでも商店街でも、いつもなにかに手をひかれ、かならずだれかとめぐりあう…。ありきたりな日々の、ゆたかな時間を綴るエッセイ。☆石田さんの文章は主語がなくて、独特のリズムがある。それが好きなのだけれど、この本の「書評」の部分は、なぜかわたしにはすごくわかりずらくて読みにくかった。日常のエッセイはおもしろく、朝日俳壇の選評会のようすは珍しいものを見た気持ち。また、昨年の文楽「仮名手本忠臣蔵」を観た感想は、同感！と嬉しかったです。

  2013.11.22

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  柚木麻子著　『ランチのアッコちゃん』

  ☆屈託を抱えるOLの三智子。彼女のランチタイムは一週間、有能な上司「アッコ女史」の指令のもとに置かれた。大手町までジョギングで行き、移動販売車の弁当を買ったり、美味しいカレー屋を急遽手伝うことになったり。そのうち、なんだか元気が湧いている自分に気付いて……。表題作ほか、前向きで軽妙洒脱、料理の描写でヨダレが出そうになる、読んでおいしい短編集。☆ 元気を出すには、美味しいものを食べるのが一番！ここに登場する「ポトフ」のような、ほっこり身も心も温まる本でした。読むと何か食べたくなるので、ダイエット中には向きませんが。

  2013.11.13

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  辻村深月著　『島はぼくらと』

  ☆母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里。美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花。父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた源樹。熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない新。島に高校がないため、4人はフェリーで本土に通う。「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。故郷を巣立つ前に知った大切なこと――すべてが詰まった傑作書き下ろし長編。☆ちょっと甘い感じのする青春もの。舞台は瀬戸内の島ということだけど、わたしには島らしさがあまり感じられませんでした。だいたい瀬戸内に火山島なんてないし、島民は妙に洗練された物言いをするし。だからか、もうひとつ現実感がなくてきれいごとに感じました。「幻の脚本」については、もっと広げてもらいたかったな。

  2013.11.12

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  松井今朝子著　『壺中の回廊』

  ☆昭和五年、東京。「忠臣蔵」の舞台で事件は起きる。容疑者は役者、裏方、観客すべて。だが、「嘘をつくのが商売」の役者たちを相手に捜査は難航。築地署は江戸狂言作者の末裔・桜木治郎に捜査協力を要請した。激動の時代を背景にした渾身の長編歌舞伎バックステージ・ミステリー。☆ 江戸時代のままみたいな歌舞伎役者の世界でも、さすがに労働争議・ストライキなども始まる気配のある昭和初期。歌舞伎に詳しい著者だけに、時代背景の細かいところまでよく練られた作品だと思いました。ただとても読み進みにくく、ミステリとしてはちょっと疲れた。

  2013.11.07

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  高村薫著　『冷血（下）』

  ☆「私たち一人一人にとって、世界を埋めるものは多かれ少なかれ異物なのだ」刻一刻と姿を変えていく殺戮の夜の相貌。容疑者はすでに犯行を認め、事件は容易に「解決」へ向かうと思われたが…。合田刑事の葛藤を描く圧巻の最終章。 ☆「なんとなく」「むかついたから」「覚えてない」・・・動機をたずねてもそればかり。金銭目的というほどでもなく、人を殺すつもりもなかったのに。しかも反省もなし。ついに犯人たちの心は解明できず。極刑に値する犯罪が、このような理解不能の場合いったいどうやって解決できるのでしょうね。本当に人間というのは難しいものだ。死刑制度、医療事故などの問題も含めて読み応えのある本でした。

  2013.11.04

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  高村　薫著　『冷血（上）』

  ☆2002年クリスマス前夜。東京郊外で発生した「医師一家殺人事件」。衝動のままATMを破壊し、通りすがりのコンビニを襲い、目についた住宅に侵入、一家殺害という凶行におよんだ犯人たち。彼らはいったいどういう人間か?何のために一家を殺害したのか?ひとつの事件をめぐり、幾層にも重なっていく事実。都市の外れに広がるを前に、合田刑事は立ちすくむ― 人間存在の根源を問う、高村文学の金字塔! ☆第１章「事件」で読むのを中止しようかと思ったほど、犯人たちの思いつき・行き当たりばったり行動の描写が長く続き、あまりの異常さに少なからずウンザリしました。でも、第２章「警察」に入ってからは展開が早くなり面白くなりました。まるで警察組織の中にいるような綿密さで警察の捜査を描いてます。下巻に続く。

  2013.10.31

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  湊かなえ著　『花の鎖』

  ☆元英語講師の梨花、結婚後、子供ができずに悩む美雪、絵画講師の紗月。３人の女性の人生に影を落とす謎の男「Ｋ」。感動のミステリ。☆ 三人の女性のはなしが同時進行していくのだけど、やがて三人のつながりがわかってくるという凝ったつくり。とても面白かった！知らなかったけど、つい最近ドラマ化されたらしいですね。これを読むと、きんつばが無性に食べたくなりますよ。

  2013.10.27

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  湊かなえ著　『往復書簡』

  ☆高校教師の敦史は、小学校時代の恩師の依頼で、彼女のかつての教え子6人に会いに行く。6人と先生は20年前の不幸な事故で繋がっていた。それぞれの空白を手紙で報告する敦史だったが、6人目となかなか会うことができない(「20年後の宿題」)。過去の「事件」の真相が、手紙のやりとりで明かされる。感動と驚きに満ちた、書簡形式の連作ミステリ。 ☆十年後の卒業文集二十年後の宿題十五年後の補習同時に体験していても、みんな同じことを見ているわけでも考えるわけでもない。手紙をやり取りするうちに、だんだんわかってくる真実が良かったです。しかし、手紙って書くことがほとんど無くなりましたね～。

  2013.10.24

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  大崎梢著　『ふたつめの庭』

  ☆そこは、かけがえのない場所。だから、あきらめない。裏鎌倉の保育園を舞台に新鋭が描く、家族と恋の物語。保育士になって五年の美南とシングルファーザー一年と二ヶ月目の志賀隆平。隆平は定時退社しやすい部署に異動し、子育てに奮闘するものの、保育園は予測不能のことばかり。園内の事件や行事を通して、美南と隆平は気づき、育んでゆく、本当に大切にしたいものを。湘南モノレールの走る街で紡がれる、愛しい時間を描く傑作長篇。 ☆若い保育士さんが主人公の、思いやりいっぱいで優しい気持ちになれる小説です。日常の謎系ミステリですが、絵本をからめてくるところが大崎さんらしい。もっとたくさん絵本が登場したらよかったなあ。でもわたしは、この手の小説には少々飽きてきたみたいです。

  2013.10.21

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  小野不由美著　『丕緒の鳥』

  ☆「絶望」から「希望」を信じた男がいた。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる「たいしや大射」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕緒(ひしょ)は、国の理想を表す任の重さに苦慮する。希望を託した「鳥」は、果たして大空に羽ばたくのだろうか──表題作「丕緒の鳥」ほか、己の役割を全うすべく、走り煩悶する、名も無き男たちの清廉なる生き様を描く短編4編を収録。 ☆十数年ぶりに読む「十二国記」シリーズ、新作短編集。もうすっかり忘れていましたが、この４つの短編を読んだらだいぶ思い出しました。アニメにもなったので世間的にはお子様向けファンタジーみたいに思われているかもしれないですが、これほどすごいリアリティのある作品は少ないです。王の不在で国が荒れ、困窮し疲れ果てている民の暮らし、しかしわずかな希望の光が見え始めた。次の作品が待ち遠しいです。

  2013.10.09

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  高田　郁著　『銀二貫』

  ☆大坂天満の寒天問屋、井川屋の主・和助は、仇討ちで父を亡くした鶴之輔を銀二貫で救う。大火で消失した天満宮再建のために、工面した大金だった。引きとられた少年は松吉と改め、商人としての厳しい躾と生活に耐えていく。番頭善次郎、丁稚梅吉、評判の料理人嘉平とその愛娘真帆ら人情厚い人々に支えられ、松吉は新たな寒天作りを志すが、その矢先またもや大火が大坂の町を焼き払い、真帆は顔半面に火傷を負い姿を消す…。 ☆今も残る地名は江戸時代はどんなところだったのか。商人の町大坂の様子がいきいきと描かれていて面白かったです。本来は天満宮に寄進するはずだった大金の銀二貫、質素倹約して貯めたお金ですが、肝心な時には惜しみなくだす大阪商人の心意気がよかった！当時の寒天の食べ方は、さすがそこは「みをつくし料理帖」の作家さん、食べ物の描写が美味しそう。そして高槻が寒天の産地だったなんて初耳でした。

  2013.10.03

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  桂　望実著　『手の中の天秤』

  ☆執行猶予付きの判決が出たとき、もし被害者や遺族が、加害者を刑務所に入れるかどうか決める権利を持ったら…。人を憎むこと、許すこととは何かを大胆な設定で描く、感動の長編小説。 ☆人間のすることだから、どんなことにも限界がある。加害者も被害者も、周りの人たちも、一生救われることはないのだろうか、と考えさせられる小説でした。

  2013.09.29

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  恩田　陸著　『夜の底は柔らかな幻（下）』

  ☆煌びやかな闇が、手招きする。目前に迫った暗黒の世界“フチ”。そこで待つ“ソク”の正体とは!?ここでは何が起きているのか。☆この小説は、何が善なのか悪なのかも判然としないうちに、やたらと大勢殺されるので、読み終えたあともなにがなにやら・・・・という感じです。結局ソクとは何なのか、水晶にいたものとは、よくわからないまま、ひたすらなけなしの想像力を働かして読んでいるうちに終わってしまった。なにも勧善懲悪でなくてもいいけど、なんだかもやもや。面白かった・・・のかな？　だけど、そのわからなさがクセになるみたいで、新作が出るとまた読んでみたくなるのです。

  2013.09.17

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  遠藤順子著　『７０歳からのひとり暮らし』

  ☆不満。退屈。心配。そんな暇はありません―心配無用!遠藤流「ひとり暮らし」はこんなに楽しい。 ☆遠藤周作の最晩年はどうだったのかと思って読みました。短編集「夫婦の一日」に登場した奥さんが、少し興味深かったし。周作氏はなかなかワガママな亭主関白オヤジだったみたい。この本は、一人暮らしのことよりも、主に周作氏との思い出と亡くなった後の生き方です。私には合わないなと思うこともいくらかあったけれども、この人はこの人だから。もう８５歳は越えているはずですが、今もお元気なのかしら。

  2013.09.13

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  恩田　陸著　『夜の底は柔らかな幻（上）』

  ☆恩田陸が贈る、日本版・地獄の黙示録犯罪者や暗殺者たちが住み、国家権力さえ及ばぬ無法地帯である〈途鎖国〉。特殊能力を持つ〈在色者〉たちがこの地の山深く集うとき、創造と破壊、歓喜と惨劇の幕が切って落とされる――極悪人たちの狂乱の宴、壮大なダーク・ファンタジー ☆恩田さんのこの手の小説はいつも最初謎だらけで始まります。小さな出来事からだんだんと謎があらわになってきて、それがわくわくするのです。「在色者」の持つ特殊能力とは何？　どれが敵か、味方か？戦闘シーンはまるでドラゴンボール！　これは下巻が楽しみです。

  2013.09.08

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  山口恵以子著　『月下上海』

  ☆スキャンダルを逆手にとり人気画家にのしあがった財閥令嬢・八島多江子は、戦時統制下の日本を離れ、上海に渡った。謀略渦巻く魔都・上海で、多江子が出会う四人の男たち。憲兵大尉・槇庸平、民族資本家・夏方震、医学生ながら抗日運動に身を投じる黄士海、そして多江子の前夫・奥宮瑠偉。いま、運命の歯車が回り始める―。第20回松本清張賞受賞! ☆松本清張賞を受賞した時のこの方の女流作家らしい風貌と、「社員食堂のオバサン」姿にすごいギャップがあったので、とても興味を持って読んでみました。まあ「昼下がりのドラマ」みたいなストーリーで、どこかで読んだような感じもするし、期待したほどではなかった。主人公をはじめ登場人物がたいして魅力的だと思えない。山口さんご本人のほうがよほど面白いな。

  2013.09.07

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  乃南アサ著　『ニサッタ、ニサッタ』

  ☆ネットカフェ難民なんて他人事だと思ってた会社の倒産をきっかけに、何をやっても裏目裏目に。気がつけば負け組のワーキングプアになっていた青年を主人公に、現代の幸福を探す、直木賞作家の長編小説! ☆世間を甘く見て、せっかく入社した会社をちょっとイヤなことがあったからとあっさり辞めてしまう主人公は、偶然だけど昨日読んだ角田光代の小説と同じようだ。ただ、こちらの主人公は、実家が東京にないために、もう少しでホームレスという状態まで落ちてしまう。出だしは同じでも展開が全然ちがっていたので、すごく面白く夢中で読みました。何をやってもうまくいかないのは本人の責任もあるけれど、ご時世もあるかなあ。ラストは希望があったので、読後感はさわやか。

  2013.09.05

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  角田光代著　『ツリーハウス』

  ☆謎多き祖父の戸籍──祖母の予期せぬ“帰郷”から隠された過去への旅が始まった。満州、そして新宿。熱く胸に迫る翡翠飯店三代記。第２２回伊藤整文学賞。 ☆新宿で小さな中華料理屋を開いている家族の物語。若いころ満州に渡った祖父母のはなしが中心ですが、年代をたどるうちにバラバラだった家族が結びついてきます。逃げていたり投げやりなようでも根は善良な人たちばかりなので、最後は気持ちが良かった。

  2013.09.04

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