有吉佐和子著 『一の糸』
☆造り酒屋の箱入娘として育った茜は、十七歳の頃、文楽の三味線弾き、露沢清太郎が弾く一の糸の響に心を奪われた。その感動は恋情へと昂っていくが、彼には所帯があった。二十年が過ぎた。清太郎は徳兵衛を襲名し、妻を亡くしていた。独身を通して茜は、偶然再会した男の求婚を受入れ、後添えとなるのだった。大正から戦後にかけて、芸道一筋に生きる男と愛に生きる女を描く波瀾万丈の一代記。 ☆文楽入門書を読んでいたら出てきた本です。文楽の三味線弾きの芸道一筋な物語です。はっきりいって小説としてはそれほど素晴らしい作品とは思わないのですが、実在のモデルがいるので興味深かったです。特に戦後文楽が二派に分かれてしまい、混迷した時代が詳しく出てくるのでよかった。いまより人気があったとはいえ、どの時代も、文楽の芸人さんたちって低賃金で大変だったのですねえ~。人形浄瑠璃という性質上お客を大勢いれられないし、それでいて人手はたくさん(人形一体に3人がかりですから)。どうしたって黒字にならないらしいです。歌舞伎のように親から子へという流れがないし、伝統を受け継ぐのもたいへん。