『月のさなぎ』石野晶、第22回ファンタジーノベル大賞優秀賞、新潮社、初版2010年11月20日
人類は、数千人に一人の確率で、性別が決まっていない赤ちゃんが生まれた。抵抗力が弱く病気にかかりやすいため、生後すぐに外界から隔離された専用の病院に入れられ、6歳になると専用の学園に移された。そこにいる生徒を月童子と呼んだ。18歳で卒業するころに男か女かの身体的特徴が現れた。
学園は、深い森の中に建てられてあった。食料や手紙などはヘリコプターで運ばれた。
学園には、最初の月童子・サラが祀られていた。月童子は18歳で卒業し、学園を出て行くまで両親とも会うことができず、サラを親以上のものと考え、崇拝していた。
学園では年に一度、降誕祭が9月に行われる。卒業するまで、学園から外に出ることができない生徒たちは、何よりの楽しみにしていた。
薄荷(はっか)が部長を務める演劇部は、他の部と同様、降誕祭で出し物をする。
ある日、演劇部の小麦は学園の制服を着ているが、生徒ではない者がいることに気がつき、みんなに知らせた。
数日後、薄荷が森の中で読書をしていると、その者に遭遇した。彼はある製薬会社の社員で、雪矢と名のった。
今、外界では人に感染したら確実に死をもたらすウィルスが猛威をふるい、その特効薬の開発にとりくんでいるがうまくいっていない。月童子はそのウィルスに感染しないことが分かったので、学園に忍び込んだと雪矢は言った。
薄荷は、外の世界の話を聞かせてくれることを条件に、雪矢のことを誰にも言わないことにした。そして、毎日、二人は会った。そのたびにお互いは惹かれあうようになった。
しかし、雪矢は次にヘリコプターが荷物を持って学園に来た時、密かにヘリコプターに乗り込んで帰ることになっていた。
薄荷は雪矢に付いて、外の世界に行くことを決意する。降誕祭の前日にヘリコプターは来ることになっていた。ヘリコプターが着くと、荷物を消毒して倉庫に入れることになっているので、その日、薄荷は倉庫に行った。
倉庫に入ると、用務員の三浦という中年男が、ナイフを胸に刺され死んでいた。
本書はファンタジーの部類に入る作品で、私はファンタジーとして読んでいた。ところが、ここに至って殺人事件が発生する。
物語は、殺人事件が起きたにもかかわらず、それを無視してすすむ。そして、最後に殺人事件のなぞ解きが始まってゆく。それが、月童子の秘密とかかわっていて、ファンタジーとしても、推理小説としても読者を頼ませてくれる。
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