私の両親はすでに他界し、私達娘2人も結婚して婚家の姓を名乗っている。家屋は人に譲ってしまったので、お墓参りに行っても寄る所もないのだが、実家の近くに母のいとこに当たる小父さんが一人で住んでいた。
この小父さん、たいそう面倒見のよい人で、母と一歳違いながら両親の仲人をしている。親戚や近所に何かコトが起きるとすぐにバイクで駆けつけて、損得抜きで動いてくれる。
ところが、とにかく口が悪い。あまり親しくない相手にはさほどでもないが、新密度が増すにつれて遠慮がなくなる。だから、近しい人間から逃げていってしまう。10年前に連れ合いを亡くしてからは、ずっと一人で暮らしていた。
毎年春と夏のお墓参参りの帰りに立ち寄ると「おう、上がれや」と出迎えてくれる。断りきれなくて茶の間に年中あるコタツに一旦座ったら、最低2時間は話を聞かされることになる。正直、それがうっとおしかった。
そんな小父さんが胃癌だとわかったのは一昨年の秋だった。医者から「余命1年」と言われたと聞き、私はそれまでの逃げ腰だった態度を改め、出来るだけ小父さんの意向に沿うようにしていた。
田舎では、どこの家でも正月には離れて暮らしている子供達が帰るものだが、小父さんの所には誰も行かなかった。去年の正月、私達家族が主人の実家から戻った翌日に、小父さんを誘って焼肉に行ったとき、何年ぶりかでうれしそうな顔を見せた。
今年になって小父さんがバイクの免許の更新をしようとしたら視力で引っかかり、3月に白内障の手術で入院することになっていた。私はお見舞いが気になりながら、確定申告と仕事が重なり、1日延ばしにしていたある日、人伝に亡くなったと知らされた。
最期に呼び寄せたのは、小父さんがいつも酷評していた、亡くなったご長男の嫁さんだったそうだ。父も含めて昭和一桁世代の男は、自己表現がうまくない。