自宅が県の道路拡幅事業のために買い取られる予定です。…
Q.自宅が県の道路拡幅事業のために買い取られる予定です。買取りに伴い、土地の対価補償金1億円と建物の移転補償金5,000万円を受領しました。確定申告を行うつもりですが、この場合にはいかなる特例措置がありますか?ちなみに、自宅の建物は取り壊す予定です。A.自宅が収用事業等で買い取られた場合、確定申告をすることにより、収用等の5,000万円特別控除、又は収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(買換えの特例)のどちらかの適用を受けられます。これらのうち、買換えの特例については、課税が繰り延べられるだけで、課税が免除されるわけではないことに留意が必要です。1.概要 収用等によって補償金を受領した場合、収用等の5,000万円特別控除、又は収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例のどちらかの適用を受けられます。 これらの特例の適用を受けられる補償金は、対価補償金のみです。ただし、例外もいくつか存在し、このケースのように建物移転補償金を受領したときも例外に該当します。移転補償金は、一時所得に当たり、収用等の特例を受けられないのが原則です。しかしながら、建物移転補償金として受領したものであっても、その建物を取り壊したときには、対価補償金として、収用等の特例の適用を受けられます。2.収用等の5,000万円特別控除 (1)適用要件 5,000万円特別控除は、譲渡の収入から取得費と譲渡経費を差し引くことによって算出される譲渡所得について、5,000万円を控除することができるという分かりやすい特例です。この特例の適用要件は、次の通りです。 ・収用・買取り・換地処分等によって、譲渡がなされていること。 ・譲渡した資産が棚卸資産に該当しないこと。 ・その年に収用等によって譲渡した資産の全てについて、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例の適用を受けていないこと。 ・始めに買取りの申し出があった日より6ヶ月を経過した日までに譲渡したこと。 (買取りの申し出を受けても、すぐには買取りに応じることなく、買取価格を上げさせようとすることがあります。しかし、それでは公共事業がスムーズに進行しませんから、6ヶ月以内という早期に譲渡してくれたときにだけ、この特例の適用を認めることとされています。) ・収用等によって資産を譲渡した者は、事業施行者から、始めに買取り等の申し出を受けた者であること。 (仮に、買取りの申し出があった資産を、ご自身からBさんに対して贈与した又は売却したとします。その場合、Bさんが事業施行者に買い取られたときには、始めに買取りの申し出を受けたのはご自身であることから、Bさんに関してこの特例の適用はないということになります。)なお、同じ収用等に係る事業に関して、2以上の譲渡があって、その譲渡が年をまたいで2回以上に分けてなされたときには、最初の年の譲渡に限って、この特例の適用を受けられます。(2)計算例ご質問のケースで、仮に、収用された土地の取得費は7,000万円、建物の取得費は2,000万円、譲渡費用はないものとし、長期譲渡であるとします。通常の場合は、次のような計算の流れとなります。 収入金額:1億円+5,000万円=1億5,000万円 取得費:7,000万円+2,000万円=9,000万円 譲渡所得:6,000万円 税率:20% 譲渡所得税・住民税:6,000万円×20%=1,200万円 一方、収用等の5,000万円特別控除の適用を受けた場合は、次のようになります。収入金額:1億円+5,000万円=1億5,000万円 取得費:7,000万円+2,000万円=9,000万円 特別控除:5,000万円譲渡所得:1,000万円 税率:20% 譲渡所得税・住民税:1,000万円×20%=200万円3.収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例 (1)概要 収用等によって資産を譲渡した者が、その補償金を用いて一定期間内に代替資産を取得した場合は、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例の適用を受けられます。 (2)代替資産の範囲 この特例の適用を受けることができる代替資産に該当するか否かは、次のような方法により判定を行います。 個別法:収用等のなされた資産が土地であるなら土地、建物であるなら建物というように、収用等 のなされた資産と同種の資産に買い換えたか否かにより判定します。 一組法:土地と建物というように2以上の資産が一組となって効果を有するものの収用等がなされたときに、同じ効果(居住用や事業用等)を持つ他の資産を取得したか否かにより判定します。 事業継続法:事業の用に供する資産の収用等がなされたときに、事業用資産を取得したか否かにより判定します。 (3)代替資産の取得期限 原則として、収用等のなされた年中、又は収用等のなされた日より2年以内に、代替資産を取得する必要があります。ただし、先行取得や期限の延長が可能なこともあります。(4)計算例ご質問のケースで、上記2(2)と同様、仮に、収用された土地の取得費は7,000万円、建物の取得費は2,000万円、譲渡費用はないものとし、長期譲渡であるとします。そして、代替資産(土地と建物)の購入価額は1億円とします。通常の場合は、上記2(2)の通り、譲渡所得税・住民税は1,200万円となります。 一方、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例の適用を受けると、次のようになります。収入金額:1億円5,000万円(対価補償金)-1億円(代替資産)=5,000万円 取得費:9,000万円(譲渡資産の取得費)× 1億5,000万円-1億円/1億5,000万円=3,000万円 譲渡所得:2,000万円 税率:20% 譲渡所得税・住民税:2,000万円×20%=400万円 上記の通り、通常の場合は所得税と住民税が1,200万円となるのに対して、この特例の適用を受けた場合は400万円となります。差額の800万円は、課税が免除されたわけではなく、課税が繰り延べられたということになります。すなわち、この800万円に関しては、例えば代替資産を譲渡した際に課税の対象となりますので、留意しましょう。ちなみに、平成25年1月1日から平成49年12月31日までは、復興財源確保法によって、所得税のほか、復興特別所得税が課されます。したがって、本問については、税率が所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の計20.315%となります。