天候は夕方から崩れるということだった。
さっきまで青々としていた空はなるほどくぐもって海のほうからやや涼しげな風が流れてくるところであった。
宿から海までは一投足の距離だ。車道しばらくで泊海岸に出ると、青い海が一望に見渡せ同伴者が歓声をあげた。
「うわ~きれい!」
浜辺に下りて貝拾いをする彼女を横目に僕は地図を広げる。
「まだまだこれらからだよ。次行くぞ!」
泊海岸から車道を30分ほど歩き大浦海岸から遊歩道に入る。遊歩道っていったって道標さえない山道だ。
式根島は一周12キロの小さな島だ。島の東半分には車道はないが遊歩道がつけられていて、海を眺めつつ歩くには適当な散策コースを提供してくれている。
何の変哲もない山道を歩いていると時折「きゃあ~!」という悲鳴が響いてびっくりして振り向くと「虫が耳元を飛んだんです~」泣きそうな声で彼女は言った。
生まれてこのかた山道など歩いたことのないかもしれぬ女子高生をこのような山道に連れこむには抵抗なかったわけではないが仕方ないのである。
僕は時折遅れがちになる彼女を飽きさせないように適当に話など振りながら歩く。
仕事の話や経済の話などしてもしょうがないので学校の話とか部活の話とかしながら歩く。
おれににとっちゃ何十年前の話だよ?
そんなこんなで島の最高地点神引山(99m)に到着。
ここからは島が一望に見渡せすこぶる気分もよい。
彼女(M樹ちゃん)も子供のようにはしゃいで写真を取り巻くっている。
さてここからさらに島の東海岸に山道は続き海岸線をえんえんと歩いて南の露天風呂にたどりつく予定であるのであるが、さすがにM樹ちゃんがべててきたのと、朝から何も食べていないこともありおなかがすいたこともあって、とりあえず町に戻ることにした。
戻るっていったってここは遊歩道の真ん中辺りなので山道をさらに40分ほど歩いて島の中心部に戻ったのである。
さてこの後であるが話の流れで町の数少ないレストランで一緒に食事をとり、また本日のメインイベントである温泉にも一緒に行くことになった。
M樹ちゃんは露天風呂はおろか温泉すら初体験とのこと。
南の海岸線に鉈でわったような地形の奥に「地鉈温泉はある」
鋭くきりたった岩の隙間を降りてゆくと大海原を望む谷底に熱湯が湧き出している。
周囲は岩に囲まれ圧倒的な自然の中。
他に観光客の姿もなくびゅうびゅうとふきすさぶ風が荒涼気分を盛り上げてくれる。
ひとりならばすっぽんぽんになって風呂に飛び込むところだがここは女子高生と一緒なので紳士らしく海パンに着替える。
しかしこの温泉は脱衣所がないのである?
男はよいが女の子にはつらかろう
しかし女子高生は強い。
その辺で着替えてくると言って岩陰に消えていった。
そしてまもなく水着姿で現れた。
こんなところで女子高生と混浴♪と嫁さんにでも自慢したいところだが、湯船は熱くてとても入っていられずかといって湯船の外に出ると海からの風が冷たくてとても長居はできなかった。
服を着てその場をさり次は山を越えてとなりの足付温泉である。
ここは港近く家族連れもいてすこし垢抜けた雰囲気。
ここならのんびりつかれよう。と湯船に飛び込むとここも熱湯!
我慢してつかって混浴気分を楽しんで宿に戻ったのは午後3時であった。
帰宅途中で雨が降ってきてちょうどよい時間に歩けたねと話し合い、今日はもう満足!とお互いに部屋に戻る二人であった。(続)