すみだ北斎美術館「北斎ブックワールド展」
すみだ北斎美術館に「北斎ブックワールド 知られざる板本の世界」を観に行きました。11月19日(土)14:00からスライドトークが開催されることを知り、それに合わせて行きました。実際に企画した学芸員の方から企画展の見どころを聞いてから作品を鑑賞すると理解度が増すので、スライドトークや講演をいつも利用しています。北斎の作品は「富嶽三十六景」などの一枚の紙に摺られた木版画のイメージが強いのですが、「北斎漫画」などの本に仕立てた板本も多く残しています。版画とは絵を描く絵師、板に彫る彫り師、墨で摺る摺師により作られるもので、それが板本ともなるとページ数も多く文字もあり細かいので相当大変な作業だと思います。スライドトークで聞いた面白い話では、最初の版木では3版あるところ、後には間の1版を省略しているものがあるということです。「薄墨」の版を省略して薄墨で描かれていた幽霊の姿が無かったり、夢の部分が「濃い墨」の背景になり、夢と現実を区切っているのに「濃い墨」の版を省略して夢と現実の区切りがないものがあります。初版の作品と並べて展示されているので、一目瞭然です。版木が人手に渡り、次の版元では費用などの事情で版を省略して摺ることもあるそうです。なので、作者の意図に一番近い初版本は価値があるとされています。現代でも書籍の初版本に価値があるとされるのは、こんな事情が由来なのでしょうか。また、展示していた本には、読んだ人の書き込みや、貸本屋が借りる人に向けて書いた書き込みが残っています。悪人の顔を黒く塗りつぶしているものもありました。また、それらの板本を読む庶民の姿が描かれた作品もあり、板本は庶民に親しまれたものだと分かります。江戸時代の出版事情や読者の姿が見てとれて面白い企画だと思いました。休憩スペースでは、北斎作品が高精細の複製画で展示されています。今回は、「鍋冠祭図」屏風と「遊女図」掛け軸です。美術館のすぐ前にある公園は多くの親子連れで賑わい、その後ろにはスカイツリーがくっきり姿をみせていました。すみだ北斎美術館は、企画展だけでなく常設展も楽しめる美術館です。葛飾北斎に興味のある方は、ぜひ訪れてみてください。●すみだ北斎美術館 https://hokusai-museum.jp/