孤独のグルメ
知り合いの舞踊を観に吉祥寺駅へ。吉祥寺は殆ど訪れた事がない。1度、ないしは2度くらいだ。当然土地勘も無いわけだが、劇場まではチラシがあるので問題ない。時間は13時25分。あと5分で始まってしまう。一回迷ったらアウトだ。チラシを見ながら、小走りで劇場に向かう。無事に着いた劇場の入り口は係員しかいなくてガランとしていた。しまった、遅れたか…。とにかく名前を告げ、チケットを貰う。受付「あと少しで開場しますので、しばらくお待ち下さい」…そうか。1時半、1時半と念仏のように唱えていたから、てっきり1時半開演だと思い込んでしまった。実際は、予定よりもずっと早かったのだ。人がいないのも当然だ。…まいったな。30分も劇場内で待つのか。本でも読んでいるか。しかし、今読んでいるのは『最悪』という本だ。すでに半分以上読み勧めているのだが、登場人物がどんどん最悪な状況に追い込まれていく、まさに題名に相応しい小説である。いまだ光明は見えず、更にどん底に落ちていきそうな予感さえ漂っている。先ほど電車内で読んだばかりで、少し読み疲れてしまっているのだ。本を読むのはよそう。そういえばお腹が減っていた。30分はあることだし、ここはいっちょう、お昼ごはんとしようか。そう思い立ち、ぶらぶらと辺りを歩く事にした。休日という事もあり、吉祥寺の周辺は人の群れでごった返している。しかし、ゆっくり食事を取っている時間は無さそうだ。手軽なのでいい。吉野家…松屋…。牛丼か。しかし、牛丼はナァ。最近食べたばかりだ。できれば、天丼が良いな。あるいは海鮮丼でもあれば。アーケード辺りを歩いては見たが、あまり店が無い。時間も無くなっていく。マズイな。ん、日高屋か。ウン、ラーメンにギョーザでも頼んで、ささっと済ませるのはアリだな。という事で、地下1階にある日高屋に入るため、私は階段を下りていった。今しがた食べ終えたであろう青年が、階段を上ってくる。そこで、彼に声を掛けられた。青年「これ、使えるので良かったらどうぞ」そういうと、彼は私にサービス券を手渡してくれた。野間「あ……どうも、ありがとうございます」サービス券にはラーメン大盛りか半熟卵が50円になる、と書かれている。こんな事ってあるんだなぁ。青年のちょっとした気遣いに感動した私は、ラーメンに半熟卵を乗せてもらう事にした。しばらく待っていると、ラーメンとギョーザがやってくる。味は、予想は越えないが、予想以下には絶対にならない、安定した味。これこそが、日高屋の醍醐味だと私は思う。といっても、醤油ラーメン以外注文したことは無いのだが。しかし、半熟卵が美味しい…。これは正解だった。あの青年に感謝しないと。全てを平らげ時計を見ると、13時55分。マズイ、結局あと5分じゃないか。会計を終えると、再びサービス券を貰った。なるほど。誰かに渡せという事だろうか。そう思い、ふと入り口を見ると、そこにいたのは外国人男性。私は、その券を渡すことなく、階段を上りきり、早足で劇場に向かった。サービス券の輪廻は、私で途切れてしまった。ごめん、青年。…イカンなぁ。結局劇場に着いたときにはギリギリで、やはり受付には他の客がいなかった。しかし、渡せなかった事よりも、サービス券を貰った事の方が上回っているのか、とても心地の良い気持ちで観劇をすることが出来た。彼が吉祥寺界隈に住んでいる青年かどうかは分からないけれど、なかなか、良い街じゃぁないか。ウン。記:野間(井之頭ゴロー)大資