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早いもので、9月が三分の一終わりかけている。秋になってくると、ずいぶん昔の話になるが、20歳代の後半に幾度か表参道を歩いていたことのある経験から、そのうちいつか雰囲気のいい女性とこの辺りを手つないで歩いてみようと、勝手に決め込んでいた。亡き妻に東京へ旅行しようというと、都会の雑踏が嫌だというので、これは実現しなかったが、妻と外出するときは、いつも手をつないでいた。この歳になっても、私と手をつないで歩いてくれる人は出てくるだろうか。珍しくリビングから見上げる空が青いので、そんなことをひとり思っている。 さて、タイトルにあるように、NHKが日曜日の午後11時から放送している「アストリッドとラファエル 文書係の事件簿」の第3シーズンが明日で最終回のようだ。この作品は第1シリーズが放送されていた時は、まだ仕事していたから最初から見ていなくて、部分的に見て面白いと思っていたが、第2シーズンが今年の5月から放送され出したので、録画して全部見ている。アストリッド・ニールセンを演じるサラ・モーテンセンという女優さんの演技が素晴らしいし、私好みの雰囲気を持っておられる。吹替えをされている女優の貫地谷しほりさんもうまく声をアテておられる。NHKはときどきこうしたいい作品を放送してくれるのでありがたい。 私の子どもの頃は、テレビが普及しだしたところで、まだ国内のドラマもそれほど多くなく、アメリカやイギリスのテレビドラマを吹替えで放送していた。物心ついた頃にみていたのは、「スーパーマン」の再放送で、主人公のスーパーマンの声はあのハクション大魔王や喪黒福造の声を吹き替えていた大平透さんだったと思う。それから西部劇では「ララミー牧場」で、これは母親が見ていたから一緒に見ていたのだと思う。後年になって、このシリーズの主演だったロバート・フラー(映画「続荒野の七人」では、「荒野の七人」でスティーヴ・マックイーンが演じていたヴィン役になっていた)の声が、久松保夫さんで俳優の顔とあっていないような気がした。久松さんといえば、映画ではバート・ランカスターだし、テレビでは「宇宙大作戦」(スタートレック)のスポック(レーナード・ニモイ)だったから、そのイメージが私の頭の中では定着している。 いま、私の手元には勝田久著『昭和声優列伝 テレビ草創期を声でささえた名優たち』(2017年2月、駒草出版)という本がある。この勝田氏はあのアニメ「鉄腕アトム」のお茶の水博士の声をしていたというから、この本の重要性がわかるというものだ。わざわざ私が拙い文章を並べるより、この一冊で戦後の外国テレビ映画やアニメが放送されていた時代を理解できる。それでも、書いておきたいのは、自分がみた外国テレビ映画のよさを伝えたいからだ。 子どもの頃に見たSF作品で思い出すのは「宇宙家族ロビンソン」だが、この作品ではドクター・スミスというオジサンが、いつも主人公一家の邪魔をしていた記憶しかなく、あとで調べると、これがあのアーウィン・アレンの制作だったことに気づいてびっくりした。やはり外国テレビ映画で一番記憶に残っているのは「逃亡者」で、放送の時間帯が土曜日の午後8時からだったので、子どもの私でも見せてもらえた(わが家では午後9時には寝ることになっていた)。とくにリチャード・キンブル役のデビッド・ジャンセンが渋く、それを追跡するバリー・モース演じるジェラード警部の執拗さが憎らしかった。この作品は第4シーズンまで120回続いたというからすごい。私はたぶん飛び飛びにしか見ていなかったが、最終回は多くのファンが見ていたことだろう。この頃から声優さんのことを気にしだしたのだと思うが、デビッド・ジャンセンを吹き替えていたのは、睦五郎さんであった。それでどんな人なんだろうと思いながら、たまたま見た時代劇に悪役で出演されていたので、「え~」と思ってしまった。 ちなみに、声優で主人公を演じる方(俳優である場合が多いが)は、外国テレビドラマでいうと「タイトロープ」や「マニックス」(別タイトル「鬼探偵マニックス」)に主演したマイク・コナーズの声はあの田口計さん(映画では若い頃のマーロン・ブランドも吹き替えていた)で、時代劇にでれば悪代官役とか悪徳商人役だし、「刑事コロンボ」の小池朝雄さんだって、映画やテレビドラマに出てくれば悪役が多かった。そのことを逆手に取ったような、のどあめのCMがあったのを覚えている方も多いだろう。川合伸旺さん(ポール・ニューマンの声優としては右に出るものはいない)の悪代官と田口計さんの悪徳商人のやりとりで、田口さんを相手に、川合さんが「お主も悪よのう」といった掛け合いのセリフは時代劇ファンのみならず、この二人を声優さんとしてみた場合、さらに面白かく感じた。 とくに小学生から中学生の頃で思い出すのは、「ラットパトロール」(砂漠鬼部隊)という30分の戦争もので、再放送だったかもしれないが、主人公のトロイ軍曹(クリストファー・ジョージ、この人の奥さんがリンダ・デイ・ジョージで「スパイ大作戦」の第6・7シーズンに出ている)の声が小林昭二さんと、納谷悟郎さんの吹替えがあったのだ。ちなみに調べてみると、どうも私がみていた「ラットパトロール」の第2シーズンのようだが、このお二人の声優(俳優)さんは、ジョン・ウェインの声も同じ映画でも放送するテレビ局によって、それぞれが担当されていた。 私が中学3年生の頃、『テレビジョンエイジ』という外国テレビ映画の雑誌があった。いつからいつまで発行されていたのか、よく覚えていないが3冊ほど持っていた。蔵書整理で売ってしまったので、詳しいことが書けないのが残念だが、その記事のなかに声優さんにインタビューしたものがあり、私の持っていたものは、睦五郎さん、矢島正明さん、城達也さんだった。こうしてみると矢島正明さんは、「ナポレオン・ソロ」のロバート・ヴォーンや「宇宙大作戦」のウィリアム・シャトナーの吹替えほかに、「逃亡者」のナレーションもされていた。城達也さんは「スパイのライセンス」のロバート・ワグナーや映画ではグレゴリー・ペックの吹替えが当たり役だ。 ちょうどそんな頃に、NHKのUHF試験放送で見たのが「刑事コロンボ」で、これが私のコロンボ初体験だったが、どちらかというと犯人役のジーン・バリーの方に興味があった。実はこの人が主演していた「バークにまかせろ」(再放送の時は「ロールスロイスの男」)で、部下にロールロイスを運転させて活躍する警視役だったので、この人が犯人役をしていることに興味を覚えたのだ。どちらかというと、コロンボ役のピーター・フォークについては、映画「グレート・レース」で、ジャック・レモン演じる悪役の子分で、いつも失敗して怒られてばかりいるチョイ悪のイメージで、吹替えも穂積隆信さんが演じており、そんなに関心がなかった。しかし、この作品がシリーズとして登場した時、やはり小池朝雄さんを配した演出家の左近允洋氏や日本語版台本を作成された額田やえ子氏の功績が大きかったといえるのではないかと思う。とぼけたような、ほんとにこの警部で大丈夫なのかと思わせておきながら、犯人を追い詰めていく段階での、執拗なまでのコロンボの迫力ある凄さを演じることができたのは、小池朝雄さんが劇団の俳優としてご一緒された、あの福田恆存氏の演劇に対する姿勢の影響を多く受けていたことにもよるのではないか。 そういう意味で、私は外国テレビ映画を観るとき、だんだん吹替えをする声優(俳優)さんに注目するようになってきた。最近では外国映画にも及んできたが、これは私のこだわりに過ぎない。しかし、吹替えによって、より面白く観ることができるならば、それに越したことはない。外国テレビ映画の吹替えとはいえ、実際に自分が演技しているよりも、声を吹き替えている方はその俳優の演じている役にになりきらねば、表情や感情から読み取れる表現が単純に口先だけのものになってしまうというのが、私の辿り着いた結論である。これはもしかしたら、アニメにも通じるものと言えるかもしれない。今日はこれくらいで失礼しよう。外国テレビ映画と声優さんについてはまだまだ書きたいことがいっぱいある。
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