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カテゴリ:杉山千佳(子育て環境研究所)
生協さんから出させてもらった「子どもと楽しく過ごす
ために気をつけておきたいこと」という事故予防の冊子 の冒頭に、有名な「マズローの欲求5段階説」を紹介 させてもらった。 人の欲求は、生理的欲求→安全の欲求→親和の欲求→ 自我の欲求→自己実現の欲求 というように段階を経て 高まっていくというものだ。 ここでは、みんなと何かしたいとか、子育てよくしたい とか、自分の人生よくしたいとかいうようなことも、 安全・安心があってこそ満たされるものだよね、だから、 安全・安心・愛されているという環境をまずは、子どもの ためにつくりましょうよということを伝えたいと思ったのだ。 ・・・・・・・・・ 自己実現の上に第6の欲求「社会のために貢献する」という 欲求が実はあるというのも知っていて、 「そうだよな」と、わたしも思っている。 「自己実現」で終わっちゃったら、人生つまんないもの。 いつごろから「自分探し」とか「自己実現」とか言われる ようになったんだろう?といろいろ探っているのだけど 女性学系のセミナーとか、そういうのでは、相当昔から やっているようで、団塊世代の専業主婦が、家事の合間に カルチャーセンターに行くようになった頃から、そういうの が始まったんじゃないかな?と思う。 神谷美恵子さんの『生きがいについて』という本は、わたし も好きで折に触れ繰り返し読んでいるのだけど、発売された 当時は、爆発的に売れて、「生きがい」ブームを巻き起こし たらしい。 当然、神谷さんは当惑し、真意がなかなか伝わっていないこ ともあり、メディアにもてはやされることを拒み、そもそも やりたかった、そして、やり続けておられる専門の学問とハ ンセン病の患者さんたちの治療と、日々の日常を大切に する生活を選ぶ。 「生きがい」だって、神谷さんの本を読めば彼女が何を さしてそう表現しているのかわかるはずなのに、「生きがい」 という言葉だけが一人歩きをしてしまって、いまにいたって いるのだろうと思う。 「生きがいとは、一生を通じて自分のよろこびの 泉になるものを掴むということ」と神谷さんは、 おっしゃっている。 (『神谷美恵子の世界』みすず書房) 外に向かって、 「わたしの生きがいはこうでああでー」 と言ったり、 「生きがいを見出しましょう!!セミナー」 みたいなのとは、なんか、全然違うたたずまいを そこから感じてしまう。 自分のなかのよろこびの泉。 神谷さんはピーターフランクルの言葉を引用して こんなことも述べられている。 「私たちは人生に対していろいろ不満を持ちやすい。 人生が自分にどれだけのものを与えてくれたかという ことをしょっちゅう教えたて、そして、あれも足りない、 これも足りないと言って、不満を言いたてている。 それはひとつの生き方だけれども、もっといい生き方は、 人生が自分に何を求めているかということを考えること ではないか。 自分は人生から何を求められているのか。 それを考えて、できるだけ人生から求められるものに 対して、自分が応じていくような、そういう生き方の ほうがもっと建設的ではないか」(前掲より) ・・・・・・・・・・・・・ そんな彼女の葛藤の様子は、亡くなったあと公表 された日記から伺い知ることができる。 神谷さん、33歳のときの日記から。 私の中には女のとしての生活と同時に自分の仕事を 創造したい意欲がうつぼつとしている。いつかこれが 爆発しそうで恐ろしい。風よ吹け吹け、そしてこれら のもの悲しい想念を吹き払ってくれ。 今思い悩んで見たとて何になろう。私の前には無限の 食事の用意やおむつの洗濯が横たわっている。 (しかし、しかし、この沼から私はどうしても くびを出して、何ものかを創り出さねばならない。 運命ととっくまなければならない。) 35歳の日記から。 女の生活というものがこういう生物学的な昨日の為に 如何に断片的にされるかをしみじみ思う。それだけに 弾力性を以って、いろいろな時期に適応した建設的な 生活を生み出して行かなくてはならないのだろう。 これらは、みんな独白だ。 神谷さんはまさか、後年、みんなが自分の日記を読む とは思わず書いたことだろう。 読み手を意識する文章と、意識しない文章。 公表する文章と、私信。 決して見せることのなかったうちにひめたる情熱と 炎と、常にひとをいつくしむこころと。 そして、すばらしい「しごと」の数々。 足元にもおよばない すてきな人から、いろいろなことを 学ばせていただく。 読書のヨロコビ。第2弾。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 3, 2006 11:16:43 AM
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