ニーハオ中国

ある大型スーパーで、
生後5か月になる長男が誘拐された。

スーパーのベビー用品コーナーで、
ベビーベッドに長男を寝かせてみたつばめ、
ふと前のカートにトイレの便座カバーが
カートに平積みにされているのが
目に入りました。

いい色だし、ひとつ買っとこうか、
と思ってカートのほうに歩いていくと、
隣のカートにはトイレのふたカバーが。
ああ、カバーも同じ色で揃えられるんだ、
と思って、今度はカバーを見に行きます。
そのまま買い物を続けて、
レジを済ませたその時、
うちのベビーシッターが走り寄り、
「赤ちゃんがいなくなりました！」
と言う。

そこで、「あっ！」と気づいたつばめ。
買い物に夢中になって、
赤ちゃんを連れていたことを忘れてた！

慌ててベビー用品コーナーに戻ると、
店員さんはにっこり笑って、
商品を並べてある棚の一番下の戸棚から、
カードに貼り付けられた5cmぐらいの
胎児のような赤ちゃんを出してきて、

「あなたの赤ちゃんはこれですか？」

という。

あー、赤ちゃん見つかってよかった！と
小さいながらも機嫌よく笑っている赤ちゃんを
見てほっとした一瞬、

「これはうちの子じゃない！」

と我に返ったつばめ、

「うちの子は、こんなに小さくないんです。
　このぐらい、もっとこのぐらい大きいんです！」

と赤ちゃんを抱き抱える仕草をしながら
店員に必死の形相で訴えると、
店員はまたにっこり笑って、

「じゃあ、これですか？」

と、また戸棚の中から、
カードに貼られたおかっぱの
かわいい女の子の写真を取り出します。

「いえ、違います！うちの子は男の子なんです」

と取り乱しながら必死で訴えるつばめに、
店員は困った、という風に
笑いながら首を振るのみ。

うちの子がいなくなってしまった！
「きっと誘拐されたんですよ」
と耳元で囁くベビーシッターの声に、
ギャーーッ、と断末魔のような叫び声を上げて
床に泣き崩れるつばめ。

そんなつばめを抱きかかえるようにして、

「あっちに、赤ちゃんを連れた夫婦が
　子供を返すと言っています」

とベビーシッター。

よかった。

子供はお金では買えないかけがえのないもの。
返すと言ってくれるなら、いくら払ってもいい、
いくらお礼を言っても言いきれない。
つばめには、その誘拐犯の夫婦を憎む気持ちは
さらさらなく、ただただ、返してくれるなんて
ありがたい、と感謝の念でいっぱいでした。

レジ近くの乳製品コーナーの前にいたその夫婦の
ところへ行くと、その夫婦は、レジを済ませた
買い物袋の中に手をつっこんで
ラップに包まれたハンバーガーを出し、
つばめの足元に投げつけました。

赤ちゃんを返してくれるというのは、
嘘だったのです。

誘拐された子供が帰ってくることは
めったにない。
誘拐されたらもうおしまいだ。

絶望感に包まれるつばめ。
いくら嘆いても、子供はもう戻ってこない。
あきらめるしかない。
あきらめて、もう一人子供を作るしかない。

･･･と思ったところで、
夢から覚めた。

夢でよかった！
でもあの、子供を忘れたことに気づいた時の自責感、
5cmの子供を見て、「あーよかった！」と
思ってしまうほど取り乱した気持ち、
子供が見つからない時の焦り、
誘拐されたと知った時の絶望感、
誘拐犯が赤ちゃんを返してくれると聞いた時の感激、
それが嘘だったと知った時の絶望を超えた諦念。

その場面場面に体験した感情の動きは、
あまりにリアルでとても夢とは思えません。

今日はふたり目ちゃんが朝5時半に起き、
おっぱいをやった後、ウトウトしているうちに
また浅い眠りに落ち、夢を見たのです。

夢で本当によかった。
買い物に夢中になって子供を忘れるなんて、
おっちょこちょいのつばめにありがちなこと。
これを天からの警笛だと思って、
現実に子供がさらわれないように、
本当によく気をつけようと思ったつばめなのでした。

P.S.ちなみに、生後5か月になるのは長女なのですが、
夢では長男ということになっていました。
またうちはベビーシッターは雇っていません。