カテゴリ:🔴 【ニュース・時事・政治・経済・社会】
「老後は日本で暮らしたい」
中国の友人に聞いた意外な本音 ジャーナリスト・中島恵 2015年9月18日 今夏中国を訪れたときも、ニュースではないが、偶然にも「おやっ」と思う同じような話を複数の友人から聞いた。それは「老後は日本で暮らしたい」という切実な言葉だった。一瞬、「えっ?」と思ったが、話を聞いていくと、なるほど……と考えさせられた。取るに足らない日常生活の話題ではあるが、彼らの声には少なからぬ教訓が込められているようにも思える。それを紹介してみたい。 蘇州市内で中国人の夫と2人で暮らす周さん(58歳)は、昨年思い切って埼玉県の郊外に中古マンションを購入した。価格は約3000万円、広さは約70平方メートル弱。2LDKだが、2人暮らしなので申し分ない。最寄駅から徒歩10分。まだあまり建物が建っていない新興住宅地ということだったが、周さんは購入した喜びを筆者にメールで伝えてきた。 「中島さん、いよいよ私たちも老後の準備に入りました!みんなマイホームを持っているのにうちは借家住まい、子どもができなかったので2人暮らし。中国人の伝統から言えば“規格外”の私たちのことをとやかくいう人もいましたが、この日のために我慢してきました。夫はあと数年、日系企業にご奉公しますが、その後は夫婦でのんびり。日本の我が家で安心して、年金生活を送りたいと思います」 文面からワクワクしている気持ちが伝わってくる。周さんは筆者の著書にも出てくる旧知の友人だ。北京出身で1980年代は国営企業に勤めていたエリートだったが、夫の留学に伴って来日。日本に10年以上住んでいたが、夫の転勤により中国に引っ越してもう15年以上になる。筆者は中国に出張するたびに、できるだけ時間をつくって周さんに会ってきたが、教養があり、おっとりしている周さん夫婦は、「なかなか中国のスピードに馴染めない」といつもこぼしていた。 「中国人なのに中国に馴染めないって、どうして?」と思われるかもしれないが、筆者の知る限り、こうした中国人は案外多い。若くて頭が柔軟な時代に海外留学して見聞を広めた人に多く、中国に帰国後、中国人的な仕事の進め方や周囲との濃い人間関係、秩序のない生活環境に溶け込めずに、苦しんでいる。生き馬の目を抜く中国で、肩で風を切って生活するのはとてもしんどいことなのだ。 周さんは東北地方の旧満州で生まれた。母親が日本人家庭とつき合いがあり、「幼い頃によく日本人がつくってくれた味噌汁を飲んで育った。だから私は日本人っぽいんだわ」と笑いながら話していたこともあった。夫の仕事の都合で中国に戻ったが、「いつか日本に帰りたい」と切に願ってきただけあって、数年後の夫の定年は待ち遠しいものだった。夫婦で話し合った結果、老後は日本に住もうという話になったのだという。 「夫と私の兄弟はともに北京にいますが、その子どもたちは独立してそれぞれ生活しており、一部はアメリカに移住しています。相当な財産でも残せれば話は違うのでしょうけど、私たちの老後の世話まではしてくれません。それならば、長年払い続けてきた日本の年金で夫婦2人、日本に骨を埋めようと腹をくくったのです。日本の食品は安全だし、気を張って生活する必要もない。病院も中国では心配なので、できることなら日本の医療を受けて、死にたいと思います」 人生の最期を異国で暮らすことに不安はないのか? 少し切なくなる話だが、周さんの夫は日本で長年年金を払ってきたので、当たり前といえば当たり前の結論とも言える。ただ、いくら日本語ができるといっても、人生の最期を異国で暮らすことに不安はないのだろうか。筆者がそう尋ねると「全然。中国にいたって、知り合いは限られた範囲だけ。母国だからといって、助けてくれる人が多いわけじゃない。私は日本の医療は世界一だと信じていますから、何かあったら日本の病院で診てもらって、納得した治療をしてもらいたいです」と話していた。 最近「爆買い」現象の影で密かに増えているのが中国人の訪日医療ツアーであることは、知る人ぞ知る事実。どんな富裕層であっても、中国国内では満足のいく医療はほとんど受けられない。「健康診断や治療はどんなにお金がかかっても日本で受けたい」という人が増えている。むろん、日本にいたからといってハイレベルな治療が受けられるとは限らないし、日本の医療現場にも問題が山積しているはずだが、中国に比べればはるかにいい、ということは明白だ。周さんとメールのやりとりをしていて、「日本行き」を指折り数えている姿が目に浮かぶようだった。 一方、30代前半の男性、林さんも「老後は日本へ」と筆者に話してくれた。林さんは1年間、日本の大学に留学したことがあるが、長期で住んだ経験はない。日本のアニメやアイドルが大好きで、筆者は彼からAKB48の魅力を何度も聞かされたことがある。童顔で、まだ学生っぽさが残っているような爽やかな青年だ。 林さんは北京の有名大学でメディア学を専攻し、卒業後は出版社に勤務していた。現在は独立してある企業を立ち上げ、新規ビジネスに取り組んでいる。スポンサーを集め、従来は中国に存在しなかったビジネスに取り組んでいるのでストレスも大きいが、「充実しています。日本に留学していたときから温めていた事業。中国はリスクも大きいけれど、チャンスを掴めば、大成功できる可能性がたくさんある。今、この仕事に燃えています。ワクワクしますよ」と意気込んでいる。 30代の若者までもが……。 日本で飽きるほど読書をしたい 仕事は早朝から夜遅くまで、打ち合わせや出張、営業など様々な業務が続く。中国のビジネスは日本以上のスピードで行われるので、まさに目が回るような毎日だが、林さんには1つの夢がある。驚くことに、それが年をとったら日本で暮らすという夢だ。 「具体的なことはまだ何も決めていません。でも、年を取ったときのことは以前から漠然と考えていたんですよね。故郷に住んでいた母が3年前に定年退職したんですが、なんと故郷を離れて引っ越しちゃったんです。故郷はあまりにも大気汚染がひどいからといって……。友人が1人もいない町にですよ!でも、驚くことに、母はそこにマンションを買って生活し始め、今では友だちをつくって、ヨガやダンス、習い事などを楽しんでいます。そんな勇気のある母の影響も、あるのかもしれません」 林さんは中国の大学を卒業するとき、一時日本の大学院への進学を考えたことがあった。就職があまりよくない時代だったので、当時国内の大学院に進学する友人が多く、自分は日本に行くことを考えたのだが、結局断念した。大学院で勉強するだけの生活は性に合わないと思ったからで、日本で仕事をすることはあまり想像できなかった。離婚した母親に経済的な負担をかけたくなかったということもある。それよりも、日に日に発達する中国でメディアの仕事をするほうが面白いと思ったのだが、もともと静かに読書をしたり、何かをつきつめて学んだりすることは大好きだった。 「今はね、とにかくビジネスで成功し、ある程度お金を貯めたいんです。大金持ちになりたいとは思わない。でも、ゆとりのある生活をするには、多少のお金は必要。あらゆるビジネスの可能性が広がっている中国で50歳くらいまで頑張ったら、日本でのんびりと暮らしたい。毎日飽きるほど読書をしたいですね」 周さんも林さんも「日本の暮らしはとてものんびりしている」と口を揃える。日本に住んでいると特段そうは思わないし、「日本人も色々大変だ」と思うのだが、スリに遭わないか、タクシー運転手に遠回りされないか、この食品は本当に安全か、空気が悪すぎるから外出を控えるか、といったことを24時間気にして生活しなければならない中国と、全てのものが一定以上の水準にある安心・安全な日本とでは、精神的な疲労度が大きく異なる。 筆者も中国に行くたびに、日本国内の出張とは比べ物にならないほど疲れ切ってしまうが、些細なストレスが重なって大きくなり、それが心労につながる。たとえば、道路の水はけがあまりにも悪く、ちょっと雨が降るだけで靴がドロドロになる。そんな小さな出来事でさえ、毎回続けばストレスになる。テレビで報道される中国の華やかな一面とは裏腹に、両国の生活環境はあまりにも違いすぎる。 温泉に浸かっているような安らぎ 日本は中国人シニアの「心の拠り所」? 一度日本の「かゆいところに手が届く、温泉に浸かっているような安らぎ」を覚えてしまったら、またそれを味わいたいと思うのは、人間として自然なことなのかもしれない。価値観が似ている東洋人同士ならば、なおさらだ。おそらく、訪日中国人旅行客の一部も無意識のうちにそれを感じているはずで、それが日本の魅力にもつながっていると思うのだが、もう少し深く日本を理解している人々は、より明確にそうした感情を抱いている。 これは昨今日本で話題になっている、中国人の「マンションの爆買い」などとは全く違う次元の現象だ。日本が投資の対象になっているわけでも、余った財産の使い道になっているわけでもなく、彼らの切実な願いであり、憧れなのである。 むろん、これは筆者の友人間におけるエピソードであり、全ての中国人がそんなことを思っているわけではない。こうした考え方の人はむしろ少数派だろう。だが、その背後には中国での厳しい日常生活とストレスが隠れている。「隣の芝生は青い」という面もあるのだろうが、少なくとも、過去に日本と接点を持ったことのある中国人の一部は、そのような感情を抱いている。またそれが、彼らが中国で生活する上で「心の拠り所」となっていることは確かなのである。 ― ― ― ― 『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか? 「ニッポン大好き」の秘密を解く』(中島恵著)好評発売中 春節に「爆買い」を繰り広げた中国人。彼らはなぜ、それほどまでに日本製品を欲しがるのか。商品やサービスなど物質面の豊かさだけではない。来日した中国人が驚くのは、日本の日常生活の質の高さである。日本人にとっての「当たり前」がまだ存在しない中国からやってきた人々は、来日して初めて、日本のよさに驚き、それぞれの「日本観」を書き替えて帰っていく。 中国人の日本への思いは「安心で、安全な暮らし」にある。大国になった半面、自国への不満や不信感が渦巻く中国人の心情は複雑だが、彼らの目に日本は「成熟した落ち着いた国」と映っており、この先、どれだけ経済成長しても、「日本の暮らしには決して追いつけない」というのが彼らの本音だ。 本書は、ニュースとして報道されない中国人の日常や生活実態を丹念な取材で解き明かす一方、中国人の目から見た日本を紹介することによって、日本人が日本を見つめ直す材料をも提供する。 ―――― 感想 ―――― 中国人もいろいろいて 爆買い旅行に血道を上げる人達だけでもないと言うことだ 一般庶民には、いろいろな感慨があるだろうし 今の共産党一党独裁政権を良し、としている人間は、少ないだろう 昔から、図体だけは巨大だが 民主的な選挙を通じての民主的政権を いまだに、歴史的に、一度も持ったことがない という気の毒な国民でもある お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[🔴 【ニュース・時事・政治・経済・社会】] カテゴリの最新記事
|
|