君が清けき瞳の色
家人が休みの日、マンションの駐車場の隅でキジ猫が居るのを見た。全身キズまみれで弱って居たらしい。家からテッシュに刳るんで餌を上げると逃げる事無く食べて居たらしいが、車で用事を済ますと僅かな時間に彼は姿を隠していたらしい。食べ残したテッシュに、大量の粘液を残して。「あの子やと思う。」家人が言った。私にも心当たりは有る。去年のポン太と出合う少し前、マンションの下の草むらの中で猫の鳴く声がした。声から子猫と解ったが姿は見えず、偶に母親猫らしき子が姿を見せた。隣がコンビニと言う事もあり、きっと餌でも探しに来てたのだろう。やがて子猫の声は聞こえなくなって、暫く経ったある日我が家の車の下に、彼を発見した。家人と捕まえようとしたが、未だ幼い彼は人間との距離感が解らなかったんだろう。当然だが、草むらに隠れて行った。厳しい冬を彼がどうして過ごしたか解らない。しかし、母親とは離れてひとりで居る事は冬の間だ、2,3回車の下で確認した。我が家は深夜に帰る事が多い。コンビニで買い物をして、車の下を確認すると彼が切ったばかりのエンジンの下で暖を取って要るのを見た。既にポン太が居て、どうしたモノかと考えたが、彼は痩せて無く、又瞳は、真っ直ぐ私を見ているが野良独特の警戒感は無く、きっと誰かに餌でも貰ってるのだろうと判断して、私は何もせずその場を離れた。それから春に成り先月、マンションから離れた私の駐車場からの帰り、新幹線の脇道で偶然彼を見かけた。多分、ポン太より少しお兄ちゃんだと思う。しかしその身体は引き締まって、けっして痩せてないが、厳しい環境で育ったのだろう、我が家の住人に比べて身体全体に上手く言えないが疲れ見たいなモノを感じた。「お前、元気か?済まなんだなぁ、あの時無理からでも捕まえて家に呼んだるべきべきやったなぁ。」正直そう思えた。彼は精悍だが、未だ可愛い瞳でじっと私を見ている。きっと人間には関わって生きているのだろう。もし、君が先に我が家に来てたらポン太を私は引き取っただろうか?そんな事を考えた私の心を見透かした様に彼はゆっくりと歩いて行った。振り向いた彼の清かな瞳の色はきっと彼は人間は嫌いで無いと勝手に確信した。家に帰り、ポン太を見たとき、情けないが涙が出た。なんとか出来なかったんだろうか?どうしてポン太は捕獲して彼は捕まえようとしなかったんだろうか。縁と言えばそれまでだが、我が家の住人比べ、彼の身体から感じる厳しさを、今見比べた時、少し悔悟の念に襲われる。此処が幸せとは言わない。野良が不幸とも考えては居ない。只、生きる事にかなりのリスクを彼が負って居る事は間違いが無い。家人が見てから1週間、彼の姿は見て居ない。「生きろよ。」そう願う事が良いのかどうか、今も私には解らない。