<012>よりつづく
「ウェブ進化論」私的検証013---序章 ウェブ社会 その5
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ネットの「善」の部分を直視せよ p020
古い世代には「ITといえばなんでも米国が圧倒的に進んでいて日本はそれをどう追いかけるか」という発想が染み付いているが、日本の若い世代は全く違う。p020
このような表現形態が連続するとき、私はウンザリし、ああ、またかよ、と憂鬱な気分になる。どうして、著者は「古い世代」VS「「若い世代」、あるい日本VS米国という構図を、何度も何度も持ち出すのだろう。著者は科学者なのか詩人なのか、分からなくなる。少なくとも、研究者、ジャーナリストとしては、私の心底信頼おけるタイプではない。
好き好んで、なんで意味もないジェネレーション・バトルや、国家間の格差を、挑発的に繰り返し取り上げるのだろうか。この場合、著者は、「アメリカ」と「若い世代」の側にいるのであり、彼は、この本を「日本」の「若い世代」に向けて書いているといいながら、実は「日本」の「古い世代」に当てこすりをしているように思えてくる。すくなくとも、もう少し、取っ掛かりのある言葉を使ってもらいたいものだ。
彼は、ライブドアのHモンが逮捕告訴される前にこの本を上梓している。たしかにここにある構図は、Hモンが好んで使った、対立構造の類似のパターンがある。必ずしもHモン有罪とは言い切れないが、いつまでも、このノウハウを使って挑発し続けることだけは、そろそろやめてもらいたい。若いも古いもない、米国も日本もない、そういう時代こそWeb2.0であろう。著者は、われこそは未来からの使者、という仮面をかぶりながら、その表現形態は、あいかわらずWeb1.0どころか、幼稚な勧善懲悪的な、古いドラマツルギーで、現代社会を評論しようとしているのではないか。
百歩ゆずって、長いことシリコンバレーに住んで、米国の実体をレポートしてくれようとしている、ということは、多いに評価しよう。しかし、別に著者がどうこう言おうというまいと、インターネットは存在するのであるし、Web2.0は別に著者の専売特許でもあるまい。あるいは、専売特許だとしたら、後段で著者が言及するオープンソースとの兼ね合いを、しっかり論述してもらいたいものだ。
日本の場合、インフラは世界一になったが、インターネットは善悪でいえば「悪」、清濁では「濁」、可能性よりは危険のほうばかり目を向ける。良くも悪くもネットをネットたらしめている「開放性」を著しく限定する形で、リアル社会に重きを置いた秩序を維持しようとする。
この傾向は、特に日本のエスタブリッシュメント層に顕著である。「インターネットは自らの存在を脅かすもの」という深層心理が働いているからなのかもしれない。 p021
つまりは、なんだかんだいいながら、著者は「日本」の「古い」エスタブリッシュメント層に対しソウトウな不満を持っており、<すばらしい>「米国」に早く追いついてほしい、と願っているかのようだ。
米国が圧倒的に進んでいるのは、インターネットが持つ「不特定多数無限大に向けての開放性」を大前提に、その「善」の部分や「清」の部分を自動抽出するにはどうすればいいのかという視点で、理論研究や技術開発や新事業創造が実に活発に行われているところなのだ。p022
やっぱりね。日本には日本の素晴らしい技術があるはずだし、必ずしも、この自動抽出という視点ばかりがインターネットでもあるまい。ただ、著者には、そこがとても凄くみえているようだ。とかなんとかいいながら、本来の焦点は、インターネット社会の未来なのだが、どうも、著者の視点についてのお小言だけに収支するのは、自分の本旨ではないのだ。とにかく、ここは、自分の日記がわりのブログでもあるし、本音丸出しで、感想を記録し続けることにしよう。
玉石混交のネット上から「石」をふるいよけて「玉」を見出す技術にグーグルは磨きをかけているが、そういう流れを加速するのはグーグルばかりではない。 p022
「wisdom of crowds」(群集の叡智)、「マス・コラボレーション」、「バーチャル経済圏」などなど、目新しい事象についての紹介が続く。
日本もそろそろインターネットの「解放性」を否定するのではなく前提とし、「巨大な混沌」における「善」の部分、「清」の部分、可能性を直視する時期に来ているのではないか。「日本が米国より進んでいる」という前提で物事を発想できる若者たちが大挙して生まれたことは、日本の将来にとっての明るい希望なのだから。 p022
ここまでいうのだから、まぁ、とにかく著者の言説に耳を傾けようではないか。本著は、若い層に向けて書かれた本であって、もし若者向けにこの文章を書いているのであれば、単に若者達にたいするリップサービスであり、提灯もちにすぎなくなる。本当に、このような「粗い」言説で、「日本」の「エスタブリッシュメント」を突き崩すことができるだろうか。
私には、ことはそんなに簡単ではないと思う。著者がなんと挑発しようと、彼が歯向かわんとしている部分も、そんな生易しい連中ではない。Hモンの一例を見ても分かるとおり、民主党の最近のていたらくを見ていてもわかるとおり、「若者」達の目論見以上に、まだまだ、目の黒いうちは頑張ろうとする「古い」層は固い。
翻って、中国、イスラム、などにおけるインターネットにまつわる情報も整理しておく必要があるであろう。日本、日本、とこだわっているが、インターネットであるかぎり、グローバルな動きを常に意識しておく必要があるように感じるのだが。
<014>へつづく