テーマ:Jazz(1962)
カテゴリ:ジャズ
安らぎでも緊張でもなく、その中間の微妙なバランス ジョン・コルトレーンのアルバムでよく聴かれているものの一つは『バラード』だと言われる。これに対し、"第二の『バラード』"と称されるのが、『クレッセント』である。『バラード』が録音されたのは、概ね1962年(ただし、前年の録音曲も含む)。本作『クレッセント』の方は1964年だ。つまり2年ほどしか間は空いていないのだが、本盤のすぐ後、コルトレーンは『至上の愛』を吹き込み、フリー・ジャズへと突入していく。言い換えれば、コルトレーンがさらなる変容を遂げていく時期のアルバムであり、数年前の『バラード』を再現するようなアルバムではなかった。 確かに『クレッセント』は、『バラード』と同様、ミディアム・スロー系の曲を中心に構成され、同じメンバー(「クラシック・カルテット」と呼ばれる、下記のパーソネルを参照)で演奏されている。だが、本質的にこれら2枚は大きく違う。『バラード』はコルトレーンのアルバムのうち最初に聴かれる可能性が高く、確かに親しみやすい。これに対し、『クレッセント』は、"最初に聴いてはいけない"盤の代表格と言っていいように思う。 1.の表題曲「クレッセント」は、出だしだけ聴くと、"コルトレーンの落ち着いてリリカルな演奏もいいなあ"とか、"なかなか聴きやすい盤かな"などと思ってしまう。しかし時が流れ曲が進んでいくにつれて、その雰囲気が怪しくなってくる。だんだんとコルトレーン節が随所で姿を見せ始める。しかし、そのコルトレーンらしい部分というのは、少なくとも本盤においては"緊張感たっぷりにひた走る"というものではない。どこかに緊張感と全面的安らぎの中間とでも言えばいいような雰囲気が漂っている。そして、曲の最後になると、"やっぱりバラードだったんだ"と我に返らされる。2.「ワイズ・ワン」も静かなバラードで上記のリリカルさがよく現れていながらも、途中から盛り上がり始める。4.「ロニーズ・ラメント」はもう少しまったりとした感じでかつ幻想的に幕を開け、途中、ピアノ(マッコイ・タイナー)がいい味を出しながら盛り上げていく。 ちなみに、3.「ベッシーズ・ブルース」と5.「ドラム・シング」は、バラード集というイメージからは少し離れた曲と言っていいかもしれない。前者は典型的ブルース、後者はタイトルそのままにドラム(エルヴィン・ジョーンズ)が大きくフィーチャーされた演奏である。 ともあれ、いずれの曲の演奏も、実際に聴いてみると、リラックス感や安らぎといったキーワードだけでは説明できないものだいうのがわかるだとう。それゆえ、"安らぎ"(それはある意味で"聴きやすさ"にもつながると思う)を求めて本盤を手にするとしたら、おそらくその期待は聴き始めて数分で裏切られることだろう。逆に、疾走する、前進あるのみのコルトレーンを本作に期待してもいけないわけだが、それを求める人は、そもそも本盤を聴こうとしないはずなので、こちらの心配はなさそうだろう。 ということは、安らぎを求める人がうっかりこれを最初に聴いてしまわない方がいい、という点を強調しておかねばならない。その意味で、上に述べたように、『クレッセント』は"最初に聴いてはいけない盤"なのだと思う。コルトレーンの演奏に耳がいくらか慣れたあたりで聴いてみると、好き嫌いがはっきりするタイプのアルバムであり、最初に聴くと、上記のようにがっかりさせられる公算が強い。 そんなことを言いながらも、『クレッセント』が駄作と言っているわけではない。いや、それどころか筆者はこれが実に気に入っている。『バラード』と『クレッセント』を比べるならば、『クレッセント』の方が好きだ。ただ単に"美しい"とか"リリカル"なだけではない演奏、バラードを"歌い"ながらも、コルトレーン節が出たり入ったりするこの中間的な感覚。そこに本盤の魅力があると思う。カルテットの息の合い方が見事な上、安らぎでも緊張でもない"中間的感覚"がやみつきになる。筆者にとっては、そんな1枚である。 [収録曲] 1. Crescent 2. Wise One 3. Bessie's Blues 4. Lonnie's Lament 5.The Drum Thing John Coltrane (ts, ss) McCoy Tyner (p) Jimmy Garrison (b) Elvin Jones (ds) 録音: 1964年4月27日(3.~5.)、6月1日(1., 2.) クレッセント/ジョン・コルトレーン[SHM-CD]【返品種別A】 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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