会社は商人ですよ。
以前も「会社は商人か」ということを問題としましたが(こちら)、これに関連して、最近最高裁判例がでました(最判平成20年2月22日)。 「会社の行為は商行為と推定され,これを争う者において当該行為が当該会社の事業のためにするものでないこと,すなわち当該会社の事業と無関係であることの主張立証責任を負うと解するのが相当である。なぜなら,会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は,商行為とされているので(会社法5条),会社は,自己の名をもって商行為をすることを業とする者として,商法上の商人に該当し(商法4条1項),その行為は,その事業のためにするものと推定されるからである(商法503条2項。同項にいう「営業」は,会社については「事業」と同義と解される。)。 前記事実関係によれば,本件貸付けは会社である被上告人がしたものであるから,本件貸付けは被上告人の商行為と推定されるところ,原審の説示するとおり,本件貸付けがAの上告人に対する情宜に基づいてされたものとみる余地があるとしても,それだけでは,1億円の本件貸付けが被上告人の事業と無関係であることの立証がされたということはできず,他にこれをうかがわせるような事情が存しないことは明らかである。 そうすると,本件貸付けに係る債権は,商行為によって生じた債権に当たり,同債権には商法522条の適用があるというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」 会社の行為が事業とは無関係だと争う側に、その主張立証責任があるという結論自体はいいと思うのですが、「なぜなら」の段落の理由付けが私にはいまいち理解できませんでした。 判例では、 会社法5条 → 商法4条1項 → 商法503条2項と条文を繋ぎあわせることで結論を導き出しています。 後の商法4条1項から商法503条2項への繋がりは条文上明らかですが、前の会社法5条から商法4条1項への繋がりは、どうしてそういえるのかがよく分かりませんでした。 会社法5条は、会社が事業行為(と略します)をすればそれは商行為になるといっているだけで、会社が商行為を事業としているとまでは言っていません(矛盾はしないけどなんか逆なんですよね)。これを繋げるためには「会社がする行為は原則として事業行為だ」という前提を条文外からもってこないといけないような気がします。 会社法5条の中にこの前提が組み込まれているなら、同条は「会社の行為は商行為。但し事業行為でない場合は違う。」と書いてなければおかしいでしょう(会社法は立証責任の分配を意識して作ったというのが条文作成者の自慢のひとつでしょうし)。「会社の事業行為は商行為」と書いてしまったせいで、商法4条1項に直結しなくなっているわけです(商法総則を嫌ってあえてそうしたのかも)。 けどこの前提をもってくると、 1 会社の事業行為は商行為だ(会社法5条)。 2 会社の行為は原則として事業行為だ 3 会社の行為は原則として商行為だ。と会社法5条の文言及び解釈で片づいてしまい、商法4条1項や503条2項をもってくる必要がなくなってしまいます。つまり、503条2項に到達しようとして、会社法5条から商法4条1項を踏み台にして前に進もうとしてもそのままではつながらない、他方で、商法4条1項につなげようとして実質的な理由づけをほかからもってくると、商法4条1項や503条2項がいらなくなってしまうということです。 より厳密にいえば、「会社の行為が事業行為でないことを争う側に立証責任がある」という判例の結論を導くだけなら、上記2の実質的な理由付けだけで十分で、会社法・商法の引用は全くいらない、というか理由付けとしてはただの後付けです。判例の理由付けは、あたかも条文解釈から結論を導き出したようでいて、実は条文自体は何の理由付けにもなっていないのではないでしょうか。 と、ここまでわざと批判的な物言いをしてみましたが、会社法5条と商法4条1項の繋がりについてはおそらく、「会社のやる事業がことごとく商行為になるってことは、翻って会社が商行為を事業にしてるってことになる」ということなんでしょう。なんか循環風だし、もう少し素直に表現したいところですし、最高裁にも、会社法5条と商法4条1項の間にひとつ説明を入れて欲しいところですよね。 ちなみに、以前のブログで問題にしたことは、商法512条のように「商人」であることを前提とする商法の規定を会社の行為に適用するためには、商法4条1項を介在させなければいけないんじゃないかということでした。で、『論点解説新・会社法』では商人性を問題とするまでもなく適用されると書かれているけど、それはおかしいんじゃないかと思ったわけです。 本件判例からすれば、この場合、商法4条1項を介在させることになるんでしょうね。○会社法第5条(商行為) 会社(外国会社を含む。次条第1項、第8条及び第9条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする。 ○商法第4条(定義) 1 この法律において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。第503条(附属的商行為) 1 商人がその営業のためにする行為は、商行為とする。 2 商人の行為は、その営業のためにするものと推定する。 第512条(報酬請求権) 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。第522条(商事消滅時効) 商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、5年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に5年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。