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カテゴリ:事件
キッチンで、突然、息が止まりそうになった。 誰かさんが滅茶苦茶に散らかした家の中を掃除しようと、重い腰を上げた矢先のことだった。掃除機を引きずりながら移動する私の足に、突如として差し込んだ鋭い痛み。一瞬、頭の中が真っ白になってから、私はヨガのポーズを取って冷静に足の裏を見た。 血だ――。じわじわと滲み出る鮮血が、まあるく盛り上がって山を描いている。その山の中腹に見えるのは、小さな何か。私は、足の裏の肉にのめりこんだその小さな何かを、用心深く引っこ抜いた。 それは、ガラスだった。小さいが、厚さ1センチもあろうかというガラスの欠片――。逆上することも狼狽することも忘れた私は、しかし、ピンと来るものがあって、血の湧き出る患部をティッシュペーパーで踏みつけながら、頭上の食器棚を開けた。 あった。強化ガラスでできた、大きなマグカップ。定位置に、きちんと置かれている。5年ほど前に買い求めた際、 「分厚いガラスですから頑丈ですよ」 と店員に説明された、お気に入りのマグカップである。あの分厚い破片は、こいつのに違いない。 が――。まてよ。カップは、ちゃんと2客ある。割れたのだとしたら、なぜ、ここにまだあるのだ??? 私はマグカップを両手に取って、おかしなところがないかどうか観察してみようとした。だが、その必要はなかった。手にするとすぐに、上部のえぐれた無残な姿が目に入ったからだった。 奴にグラス類を破壊されるのはこれで4度目になる。初回は薄手のワイングラスだった。それが、今では、分厚い強化ガラスを壊すようになるなんて。よりによって、私が買った物ばかり壊してくれるなんて。せめて、せめて謝ってくれれば収まりも付くだろうものを、何故に謝らないのだ……。 私の頭の中を、さまざまな想いが駆け巡る今日この頃なのであった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Mar 7, 2005 10:51:12 AM
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