496440 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

車田のつぶやき

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2013.06.07
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類
菊作り 菊見るときは 陰の人

前回の「車田のつぶやき」では、2回にわたって仕事について書くこととして、「一人でする仕事」について書きました。2回目の今回は、「陰(かげ)の人」です。正確にご紹介しますと「菊作り 菊見るときは 陰の人」という俳句です。
これは、作家の吉川英治氏が新・平家物語の連載をしている間に詠んだ句とのことです。ちなみに、新・平家物語の連載が行われたのは、1950年~1957年です。吉川英治氏が大阪の枚方(ひらかた)パークで菊人形展を見学した際、素晴らしい出来ばえの平清盛の菊人形が出品されていました。そのそばに男の人がたたずんでおり、吉川英治氏がそのひとは誰かと聞いたところ、まさに平清盛の菊人形を作った菊職人だったとのことです。その状況を詠んだ句が「菊作り 菊見るときは 陰の人」でした。


高島章さんの教え

1984年、通産省(現在の経済産業省です)に入省して2年目の私は、基礎産業局の基礎化学品課勤務になりました。現在ですと、製造産業局の化学課です。そのときの課長が高島章さんでした。私より20年上の、1963年に入省された先輩です。とても残念なことですが、2010年に71歳でお亡くなりになられました。1年との短い間でしたが、課長と係長との関係でお仕えしました。21年間の通産省時代を振り返りますと、様々な思い出や出来事が思い浮かびます。1番よかったことは、商品取引行政を2回、計5年間担当させていただき、これがネット専業の商品取引会社ドットコモディティ創業につながったことです。2番目によかったことが、高島さんの部下として薫陶を受けたことです。


官僚の美学

高島さんから教えていただいたのが、この「菊作り 菊見るときは 陰の人」の句です。菊人形展で自分が作った菊人形が絶賛されているときに、その作り手は陰でひそかに自分が作った菊人形が褒めあげられているのを見ているとの図です。この句の言わんとするところを官僚の仕事に照らして解説しますと、次のようになります。
重要な政策を自分で構想し、その実現のために関係省庁、政治家、メディア、関係する業界などに説明し、ときには賛同を得るために政策の修正・調整をして汗を流します。そして、最後に、その政策が法案成立や予算獲得といった形で実現して、その成果を大臣が自らの成果であるがごとくに高らかに記者会見の場で発表しているときには、これを陰から見ているといった具合です。


商務室長としての体験

1997年、商務室長として2回目に商品取引を担当させていただいたときです。商品取引会社がお客様である投資家からいただく手数料についてこれを固定制から自由化する、商品取引所で原油、ガソリンといった新たな商品を上場することについて、上場の期間がお試しとして限定されている試験上場について原則として自動認可にする、との制度改革に臨んでいました。
その折に、商務室が属する商務流通グループ、役所で言いますと「局」です、の筆頭課長のFさんが熱意を込めて話してくれました。
「車田君、日本の商品市場を世界に通用するものにするために、手数料を自由化してより多くの投資家の参入を実現する、試験上場を自動認可にしてより魅力的な商品の上場を実現する。これを君が色々な人に話して、聞いた人が自分のアイデアのように思ってほかの人に語る。最初に言ったのが車田君だなんてことは忘れられて、みんなが、そうだそうだと言う。そうなったら改革は実現するんだよ」
このFさんに語られたことも、基本は「菊作り 菊見るときは 陰の人」と同じです。


ビジネスの場でも

この「陰の人」は、政策の立案と実行を実質的に担ってきた官僚のあるべき姿を物語っていますが、実は、ほかの様々な場面にも当てはまります。
爆発的にヒットした新商品を開発した、難攻不落だった大口顧客から契約をいただいたなど、霞が関とは異なる会社のビジネスにも当てはまります。若い時ですと、担当者として汗を流した結果として成果を上げながら、その功績を上司が高らかに発表・報告する。歳を取って上の立場になれば、担当者へのアドバイスや、関係部署、お客様への水面下での説明、説得によって、その案件を担当している若手が成果を上げるのを陰ながら支える、ということです。
自分の上司であったり、自分の部下であったり、場合によっては同僚であったり、ほかの人が晴れやかに成果を語っている。それを「陰の人」として見ている。それでいいのです。素晴らしい菊人形が誕生した過程を知っているごく一部の人が、「ああ、あれは、あの陰にいる菊職人が丹精込めて作った作品だよな」と思うだけでいいのです。


「陰の人」でいい

せっかく頑張って成果を上げたのに、それがほかの人の手柄のように見られてそれでどうしていいのか、と疑問に思われる方もいるかもしれません。正面切ってそう問われますと、私も、やや答えに詰まるところがありますが、私の心の中に浮かんでくるのは、1983年に通産省に入省したときに自らに誓った言葉です。「通産官僚になって、何(たとえば局長)になるかよりも、何(たとえば日本の商品市場を世界に通用するものに)をするかにこだわりたい」です。
会社に、世の中に、役立つことが実現できれば、それが自分が成し遂げた成果だと一般に知られなくてもいい。構想したことが実現できたことが、喜びのすべてだ。実現することが最も重要なことであり、それが自分の成果であると思われなくてもいい、と心底思います。

若き社会人へ

高島さんのような、人間としての器も力量も私にはありません。それでも、ささやかながらこの30年近くの間、高島さんに教わった「陰の人」を心がけています。今年社会人になられた方も、この「陰の人」の話を心の片隅に置かれて、素晴らしい菊人形を作っていただければと思います。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2013.06.08 04:39:23


PR

プロフィール

.COMO

.COMO

カレンダー

キーワードサーチ

▼キーワード検索

お気に入りブログ

まだ登録されていません

コメント新着

一庶民@ Re:物価目標の導入(01/04) ということは、ドットさんの手数料も2パー…
まつこデラックス@ Re:女性の就労促進(01/18) 夫の協力はさておきってくだりを書く位だ…
車田のたいやき@ Re:菊作り 菊見るときは 陰の人(06/07) おっと。丸めこまれるところだった!
まつこデラックス@ Re:一人でする仕事(05/17) なんで、若い人限定なの?
ピーコ@ Re:夏のネクタイ(07/19) オシャレよりも身だしなみが大切よ。 殿…

© Rakuten Group, Inc.