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先月、アメリカをはじめとする少なからぬ国で「キル・ザ・メッセンジャー」というタイトルの映画が公開されている。ハンガリー、マレーシア、カナダ、フィリピン、ポルトガル、ロシア、ウクライナ、エストニア、インド、ルーマニア、クウェート、オーストラリア・・・・といった具合だが、日本は予定されていないようだ。
この映画の主人公、ゲーリー・ウェッブは実在したサンノゼ・マーキュリー紙の元記者で、1990年に起こったサンフランシスコ地震に関する報道でピューリッツァー賞を受賞したことがある。筆者は個人的にも情報交換した経験があり、その誠実な態度は今でも忘れられない。 しかし、ウェッブは2004年12月、ピストルで頭を撃ち抜いて自殺してしまう。頭へ2発の銃弾を撃ち込んでいるということで「他殺説」も流れているようだが、状況からすると自殺の可能性が高いと見られる。ただ、その背景にアメリカの有力紙、つまりワシントン・ポスト紙、ニューヨーク・タイムズ紙、ロサンゼルス・タイムズ紙などとの闘いがあったことは間違いない。 闘いの原因は1996年8月、サンノゼ・マーキュリー紙に連載された「闇の同盟」というレポート。ロサンゼルスへ大量に流れ込んでくるコカインとニカラグアの反革命ゲリラとの関係にメスをいてた内容だった。この反革命ゲリラは「コントラ」と呼ばれ、その背後にはCIAが存在していた。 CIAが資金調達に麻薬取引を利用していることは公然の秘密で、ベトナム戦争の際に東南アジアで行っていた工作に関しては研究者のアルフレッド・マッコイ(現在はウィスコンシン大学マディソン校教授)が『ヘロインの政治学』という本を出している。ベトナム戦争で使われた麻薬はヘロインで、その原料はケシ。ケシの生産地は「黄金の三角地帯」と呼ばれている。そこにはクン・サという人物が君臨していた ベトナム戦争が終わった後、1986年に米陸軍の「情報支援活動(ISA)」の任務で行方不明米兵を捜索していた情報将校のジェームズ・グリッツ(通称、ボ・グリッツ)中佐はそのクン・サに会うことに成功した。 その際、クン・サはグリッツに対してCIAの麻薬取引について語っている。この取り引きを行っていたのはフェニックス・プログラム(本ブログで何度か取り上げたので、今回は詳細を割愛)の人脈。セオドレ・シャックレーやトーマス・クラインなどはマッコイの著作にも出てくる人物で、イラン・コントラ事件にも登場する。クン・サの口から出てきた人物の中で犯罪組織とアメリカ政府をつなぐキーマンだとされたのがリチャード・アーミテージ。日本を戦争へと導いているグループのひとりだ。 コントラを使ってニカラグアの革命政権を倒そうとしていた頃、アフガニスタンでCIAはイスラム(スンニ派)の武装集団を組織、ソ連軍と戦わせているのだが、ここではヘロインが利用された。ケシの生産地はパキスタンとアフガニスタンをまたがる山岳地帯。アフガン戦争の勃発でケシの最大生産地は東南アジアからこの地域へ替わった。ここで生産されたヘロインをヨーロッパへ運ぶ主要ルートのひとつがコソボを通過、アメリカの支援を受けたコソボ解放軍(KLA、またはUCK)の資金源になっている。 コントラのコカイン密輸に関する情報をアメリカの有力メディアは触れたがらないが、1985年にAPの記者だったロバート・パリーはこの取り引きに関する記事を書き、検閲の網をくぐり抜けて表に出ている。彼らの情報源はコントラの教官を務めていたアメリカ人だった。その後、パリーは有力メディアの世界から追放され、現在はインターネット上で活動している。 パリーの記事から11年後、ウェッブはロサンゼルスを舞台としてコントラとコカインとの関係を記事にしたわけだが、そこでアフリカ系の人びとが怒りの声を上げ、公民権運動の指導者やカリフォルニア州選出の上院議員、そして下院議員も半数が麻薬問題の徹底的な調査をジョン・ドッチCIA長官やジャネット・レノ司法長官らに要求し始めたのだ。 こうした動きもあり、有力メディアはウェッブを攻撃し始めた。ロサンゼルス・タイムズ紙の場合、ウェッブを攻撃するため、1994年に自分たちが書いた記事を否定しているのだが、それほどの圧力がかかっていたということだろう。 ジャーナリストだけでなく、ロサンゼルス市警も1980年代に麻薬取引の捜査班を編成、捜査を進めるのだが、その中心にいた捜査官は1990年頃、スキャンダル攻勢で警察から追い出されてしまう。 1970年代にもこの問題を調べていた捜査官がいたのだが、この人物、マイク・ルパートは1977年に警察から追い出されている。後に彼はジョン・ドッチCIA長官へ直接この問題を質問、CIAは内部調査することになる。そして1998年にIGレポートが公表され、ウェッブの記事が正しいことを再確認することになった。が、有力メディアは謝罪も訂正もしないだけでなく、今でもウェッブを攻撃している。なお、ルパートは今年、自殺している。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.11.02 12:33:06
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