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《櫻井ジャーナル》

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2016.04.12
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 2月4日にTPP(環太平洋連携協定)へ署名した安倍晋三政権は批准に向かって驀進中である。TPPはTTIP(環大西洋貿易投資協定)やTiSA(新サービス貿易協定)とセットになった協定で、アメリカを拠点とする巨大資本が協定参加国の政府、議会、裁判所を支配するための仕組みだ。

 早い段階から指摘されていたことだが、最大の問題はISDS(投資家-国家紛争調停)条項。巨大企業のカネ儲けを阻むような法律や規制を政府や議会が作ったなら企業は賠償を請求でき、健康、労働、環境など人びとの健康や生活を守ることは困難になる。すべて巨大資本の「御慈悲」にすがるしかない。

 支配者は憲法に拘束されないという考え方が表面化したのはロナルド・レーガンが大統領に就任した直後だ。そうした動きの中心的な存在が1982年に創設された「フェデラリスト・ソサエティー」。エール大学、シカゴ大学、ハーバード大学の法学部に所属する「保守的な」学生や法律家によって創設された団体で、富豪や巨大資本をスポンサーとして持ち、大きな影響力を持つようになった。創設当初からプライバシー権などを制限、拡大してきた市民権を元に戻し、企業に対する政府の規制を緩和させるべきだと主張、フランクリン・ルーズベルト時代にニューディール派が導入した規制を廃止していく。

 ところで、法律家の説明によると、TPPには法律体系の問題もあるという。TPPを推進しているアメリカ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドは判例法を基本とする英米法の国だが、日本は国会で制定された法律が基本の大陸法を採用している。この両体系を統一することは不可能だが、調停はアメリカの巨大資本と結びついた法律家になるとみられ、日本の法律は意味をなさなくなりそうだ。

 しかし、イギリスの保守党に所属する有力議員からもこうした協定に反対する意見が出ている。同国の国会議員でマーガレット・サッチャー、ジョン・メージャー両政権で貿易産業大臣を務めたピーター・リリーがその人だ。彼も「TTIPは関税や割り当てを廃止することが主眼ではない」としたうえで、ISDS条項の危険性を指摘している。

 TPPの「交渉」がどのように行われたかをアメリカのシェロード・ブラウン上院議員とエリザベス・ウォーレン上院議員が明らかにしている。両議員によると、アメリカ政府が設置しているTPPに関する28の諮問委員会には566名の委員がいて、そのうち480名、つまり85%が大手企業の重役か業界のロビイスト。交渉をしているのは大手企業の「元重役」だ。

 アメリカから交渉に参加していた人物には、バンク・オブ・アメリカのステファン・セリグ商務省次官補やシティ・グループのマイケル・フロマン通商代表も含まれていた。セリグはバラク・オバマ政権へ入ることが決まった際、銀行から900万ドル以上をボーナスとして受け取り、フロマンは銀行からホワイトハウスへ移動するときに400万ドル以上を貰っていると報道されている。金融資本の利益のために頑張れということであり、成功報酬も約束されているだろう。

 何度も書いてきたことだが、ニューディール派を率いていたフランクリン・ルーズベルトは大統領時代の1938年4月29日、ファシズムについて次のように定義している。

「もし、私的権力が自分たちの民主的国家より強くなるまで強大化することを人びとが許すなら、民主主義の権利は危うくなる。本質的に、個人、あるいは私的権力をコントロールするグループ、あるいはそれに類する何らかの存在による政府の所有こそがファシズムだ。」

 巨大資本という私的権力が各国の政府、議会、司法を支配する仕組みがTPP/TTIP/TiSAであり、参加国をファシズム化することになる。新自由主義はファシズムの一形態だとも言えるだろう。

 1920年代までのアメリカは新自由主義的な政策が採用され、投機が盛んになり、富は一部に集中、貧富の差が拡大した。そうした状況に対する庶民の反発もあり、1932年の大統領選挙ではウォール街が支援していたハーバート・フーバー大統領は再選されず、巨大企業の活動を規制、労働者の権利を認めようというルーズベルトが当選したわけだ。

 ちなみに、フーバーはスタンフォード大学を卒業した後、鉱山技師としてアリゾナにあるロスチャイルドの鉱山で働いていた。利益のためなら安全を軽視するタイプだったことから経営者に好かれ、ウォール街と結びついた。(Gerry Docherty & Jim Macgregor, “Hidden History,” Mainstream Publishing, 2013)

 この選挙結果に驚いたウォール街の巨大資本が反ルーズベルト/親ファシズムのクーデターを計画したと議会で証言したのは海兵隊の伝説的な軍人、スメドリー・バトラー少将だった。ここでも巨大資本とファシズムの関係が示されている。

 証言直後、クーデター計画の調査は曖昧なまま幕引きになったが、1944年12月にドイツが略奪した金塊、いわゆる「ナチ・ゴールド」の調査を目的とした「セイフヘイブン作戦」を利用し、ルーズベルト大統領はナチス時代のドイツと違法な取り引きをしていたアメリカの有力企業やナチスに同調していた有力者を調査しようとした。そのターゲットにはトーマス・ラモント、ジョン・D・ロックフェラー・ジュニア、ヘンリー・フォードなどが含まれていた。(ジョン・ピアポント・モルガン・ジュニアは1943年3月に死亡)この追及が不発に終わったのは、1945年4月にルーズベルト大統領が執務室で急死したからである。この時、ファシストは逆転勝利を収めたと言えるだろう。大戦後、アメリカの支配層がナチスの高官や科学者を逃がし、保護し、雇用したのは必然だ。日本では天皇制が維持され、戦前の治安機関はタグを付け替えながら生き残った。今では軍も復活しつつある。

 第2次世界大戦後、巨大資本とファシズムとの関係から人びとの目をそらすために使われた呪文のひとつが「全体主義」だった。大戦前は社会主義やコミュニズムの立場からファシストを批判するために使われていたが、途中から「左翼」がソ連を批判するために使われるようになり、戦後はコミュニズムとファシズムを同一視させるため、巨大資本とファシズムとの関係を隠すための呪文として唱えられている。この呪文に縛られている限り、TPP/TTIP/TiSAがファシズムなのだということを理解できないかもしれない。





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最終更新日  2016.04.13 04:52:48



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