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2018.09.23
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オーギュスト・コントの唱導した「実証主義」は、もとのフランス語ではpositivisme(英positivism)とある。日常使われるpositiveはnegativeの反意語で、陰に対する陽、負に対する正、あるいはポジティブ思考などと使われる時の肯定的、積極的という意味が普通だ。それがどうして実証的という訳になったのか、この点を知りたくてネットをあれこれ探したが、どうにも決定打が見つからない。

まず、シェリングの後期思想に触れてpositiveの意味を考察した木田元「私の哲学入門」(講談社学術文庫、もとの単行本は1998年)があったので、以下要約する。

木田氏は、独positivの語源がラテン語動詞pono、その形容詞化されたpositivusである点、そしてその意味には二系列があることを指摘している。一つは、積極的、肯定的、陽性という意味で、ラテン語ponoとnego(否定する)の対関係に由来する。この意味の時の動作の主体は人間である。もう一つの意味、実証的および実定的、の時の主体は神である。キリスト教神学によると、世界に蔓延る受け入れがたい悪や非合理なことも、神がpono(定めた)ものなので、受け入れしかない。ここから、positivusに理性では理解できない非合理な事実という意味が生じた。当時(18世紀中頃の)は、その神学的な由来が忘れられ、事実的という意味でだけ使われていた、と木田氏は推測している。ラテン語も神学の歴史も知らない僕たちにとっては、なかなか納得するのが難しい理屈だ。

コント自身の説明を、オンラインのGoogle booksなどで調べてみた。それまでの講義を元に1830年から1842年に出版された「実証哲学講義」の英語版からの抜粋・意訳を載せる。
人間の知性の発展を過去に遡って調べてみると、ある法則があることに気付く。法則とは、それぞれの分野での我々の知識の発展は三つの段階を経ること。第一に神学的あるいは物語的な段階、第二は形而上学的または抽象的な段階、そして第三が科学的あるいは実証的(positive)である。別の言い方をすると、人間の心というのはその進歩の過程で三つの方法で理論を組み立てる(philosophize)、それは神学的、形而上学的、そして実証的である。こうして現象の全体が三つの異なった概念体系にまとめられる。第一段階は人間の理解力がそこから始まるスタート地点、第三段階が到達点、第二段階は単に過渡的なものである。・・・最後の実証的な段階での人間の心は、存在の本質だとか因果関係の始まりと終わりのような絶対的な知識(Absolute knowledge)を追い求めることを放棄して、因果関係の普遍的な連鎖そして相同性を調べて法則性を発見することに向かう。この段階での知識の獲得は観察と推論を通じて行われる。・・・神学的段階の最終局面では、数多くの神々の様々な活動が、ただ一つの<存在>に集約することになる。同じように、形而上学的段階の最終局面では、すべての現象の原因が<自然>という偉大な存在物に収斂する。
positiveという言葉は、説明がなくとも当然意味がわかるという風に使われていて、明確には定義されていない。文脈から言葉の意味を推測すると、現象を観察して推論で法則を発見すること、科学的と同じような概念であること、絶対的なものを追い求めないこと、つまり究極の原因として神や自然を持ち込まないこと、などのニュアンスが読み取れる。

1848年のコント後期の著作、Discours sur l'ensemble du Positivismeでは、positivismの意味がもう少し具体的に説明されている。英語版の62-63ページに、positiveという言葉に含まれる6つの意味、reality(現実性)、usefulness(有益さ)、certainty(確かさ)、precision(正確さ)、organic(有機的)、relativity(相対性)が挙げられている。この6つの要素に特徴的なことは、それが神学や形而上学では満たされない科学的なものであること、そして時間とともに変化していく日常生活の場面で有効であること、の二つが考えられる。

更に、この頃のコントは、知性だけでなくむしろ感情の重要性を強調し、感情・知性・行動の三位一体のpositive philosophyを唱えていた。ブラジルの国旗に書かれてある「秩序と進歩」という言葉は、コントが唱えたpositivismのモットー「愛を原理とし、秩序を礎とし、進歩を目標とする」に啓発された、という(英語版Wikipedia)。コントが晩年に感情の重視に傾き、新興宗教を創設したのは、年下の恋人、親友を相次いで失くし孤独な生活を送っていたことが影響していたのだろう。

晩年に至ってその意味が広げられた点を無視したとしても、コントのpositivismを「実証主義」と訳すのは、やはりおかしい。経験と観察をもとにして一般法則を発見していく態度、という意味が含まれていることは確かだが、それ以上の有機性だとか相対性なども含まれていて、より幅の広い世界観のようなものがある。思想史の解説書などでは、経験と観察に基づく方法論を広義の意味とし、コントの思想を狭義の意味としている。僕の考えでは、コントのpositivismこそ広義のもので、その後広まった用法が狭義のものだ。





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最終更新日  2019.09.14 15:43:44
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