うははは。怒濤のブログ更新なのである!(って、私にしては……だけど(^^;))。
■桜庭一樹・著『赤朽葉家の伝説』を読む。
(東京創元社、2006年12月刊)
作者が女性であることさえ知らなかった。
いわゆる「ライトノベル」というジャンルの出身らしい。
直訳すると「軽小説」?って言われてもワタクシ引いてしまいます。どっちかというと「重小説」のほうが好みだし……。私にはとんと縁のない分野なので、知らなかったのも無理はないのですね(この歳になってまだまだ知らない世界があることが嬉しい)。
しかし、なぜか私はこの本を書店の新刊棚で見たとき、すぐに購入してしまった。出版直後のパリパリの初版本である(読んだのはずっと後だけどさ)。
なんの知識もない作家の本を買うのは、私としては異例のこと。その理由はたぶん腰巻き(※注1)の惹句(※注2)のせいである。
いわく「鳥取の旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く製鉄一族の姿を描き上げた渾身の雄編。」
う~む。なかなかいいんじゃないの。「赤朽葉家」というタイトルも、なにやらおどろおどろしくてよろしいですねぇ。なんとなくガルシア=マルケス(※注3)を彷彿とさせるし。
作者は1971年7月26日生まれ、血液型O型。特技は極真空手初段だそうである。
写真(※注4)を見ると、とてもそうは思えない。おかっぱで、暗そうなオタクっぽい少女にしか見えない(数えてみれば、もう36歳だけど(^^;))。
桜庭一樹というペンネームは、当然、PRIDEの桜庭和志選手を連想する。この人、格闘技が好きなんですね。よし、よし、きっと良い子だろう(^^)
※注1:腰巻き=出版業界用語で表紙に巻き付ける帯のこと。
※注2:惹句(じゃっく)=客を惹き付ける文句、つまり宣伝コピー。主に映画の宣伝ポスターのコピーを昔はこう呼んだ。
※注3:ガルシア=マルケス=世界的ベストセラー『百年の孤独』のコロンビアで生まれたノーベル賞作家。最近翻訳出版された作品が2点ある。
『コレラの時代の愛』(木村榮一・訳 新潮社 2006年10月刊)
その内容は、「夫を不慮の事故で亡くしたばかりの女は72歳、彼女への思いを胸に独身を通してきた76歳の男から、突如、愛を告げられた。」……なのである(^^;)
『わが悲しき娼婦たちの思い出』(木村榮一・訳 新潮社 2006年9月刊)
マルケスが放つ今世紀最初の小説のその衝撃の内容は、
「満90歳を迎える記念すべき一夜を、処女と淫らに過ごしたい!」なのである(^^;)タラタラ。
当年80歳のまだまだ現役作家である(なにを喰ってるんだろ、この人……)。
※注4:写真=2007年・第60回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞し、記者会見で撮影された写真。『ミステリマガジン』2007年8月号に掲載された。おそらくこれが桜庭一樹の最新の写真であろう。(まだ書店に並んでいますので56ページを立ち読みしてください)
評論その他の部門で同時受賞した小鷹信光『私のハードボイルド 固茹で玉子の戦後史』も私の保存版蔵書になっている。小鷹氏の翻訳にはほんとに大昔からお世話になっていたので、我が事のように嬉しい。小鷹氏は記者会見で桜庭氏を「孫娘のような方」と発言したが、年齢を見誤ったことに気付き、同誌では「まるで親娘のような」カップルの写真と訂正している(笑)。
さて、『赤朽葉家』内容だが、高度経済成長を経てバブル崩壊、平成の世にいたる現代史(1953年から2010年代まで)を背景に、鳥取の片田舎のお大尽・赤朽葉家という不思議な一族の女3代の人生と、彼女たちを取り巻く、これまたユニークな人々を描いた大河小説である。とはいえ、1冊本なのだ。全体が3部構成になっていて、祖母・母・娘、それぞれの青春小説ともいえるだろう。
まあ、結論から言えば、とても面白かったのである。
私が空想した「映画化するなら誰に任せよう」で、雰囲気をお伝えできるかもしれない。
■映画化するなら誰に任せよう
●第一部「赤朽葉万葉」編
(異形の集団「山の民」に置き去られた赤ん坊「万葉」。村の若夫婦に引き取られ、のちに製鉄業で財を成した旧家・赤朽葉家に望まれて輿入れし、赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。)
やはりここは宮崎駿監督のアニメだろう。宮崎ファンタジーにぴったりの舞台設定であるし、いかにもの人物たちがたくさん登場する。「もののけ姫」に出てきた「たたら」を使う鉄の人々、アシタカに代表される山の民も登場する。
●第二部「赤朽葉毛毬」編
(毛むくじゃらの赤子として生まれた「毛毬」は、長じて色浅黒きエキゾチックな美貌ながら、粗暴な娘に育つ。喧嘩上等、負け知らず。暴走族(レディース)のヘッドとなり、地元・鳥取ではもの足らず、中国全県統一を目指す。のちに超売れっ子少女漫画家に転身、赤朽葉家の経営を助ける。男の好みは悪食。)
笑いあり、涙あり、友情とその崩壊ありと、まるで本宮ひろ志の漫画みたいな痛快アクション編。しかし、女性ならではの感性のきらめきがあふれるシーンもあり、読者の胸を衝く。
毛鞠が描いたとする漫画を使って、一部アニメ化も面白いだろう。
となれば、もうぴったりなのはやはり『下妻物語』『嫌われ松子の一生』の中島哲也監督であろう。主演は土屋アンナではちょっとイメージが白人過ぎるので、黒木メイサがいいかもしれない。ただし、彼女にアンナ並みの豪快演技ができればの話だが(まあそれは中谷美紀をいぢめ抜いた監督の手腕に任せよう)。
●第三部「赤朽葉瞳子」編
(現代。この物語の語り手である「瞳子」は祖母・母の人生と比べて、何の波乱もなく、ニートな自分の生を情けなく思っている。しかし、祖母が臨終の床で漏らした「人を殺した」という謎の言葉を追及することに生き甲斐を感じ始める。まあこのあたりがミステリらしいといえるだろう。)
この部分、監督は誰でも良いといえば良いのだが、全体のほんわかなトーン、幻想的かつ哀感のこもったシーンがあるから、大林宣彦がいいかもしれない。
と、3代の女主人公たちだけではなく、周辺の登場人物たちのエピソードもまた面白いのである。
例えば、万葉が産み、あるいは育てた子供たちの名前(万葉を嫁に指名した大奥様・赤朽葉タツ・通称「恵比寿様」の命名)を挙げるだけで、この物語に登場するキャラクターのユニークさがわかる。
・泪(なみだ):長男。眉目秀麗なれど女性に興味なし。成績優秀で次世代の家督継承を期待されるも夭折。
・毛毬(けまり):長女。上述の通り。
・百夜(ももよ):妾腹の子。義姉の毛毬にあこがれるも、存在自体を無視(文字通り見えない(^^;))され、毛毬のすべての彼氏を「寝取る」ことが生涯の目的となる。
・鞄(かばん):次女。アイドルになることに強い願望を持つ軽薄少女。
・孤独(こどく):次男。いぢめられっ子。いわゆる引き籠もり、ゲームオタクだが……。
う~む。桜庭一樹、あなどれない。
次回は「山の民」について考えてみる。
人気ブログランキングへ