旅日記「京都・嵐山の夜編」
(承前)午後6時過ぎにホテルのロビーで友人と落ち合う。挨拶もそこそこに、嵐山にある桜宿膳料理「錦」へ向かう。四条大宮から嵐山へは京福電鉄か、あるいは阪急電鉄の選択肢があるが、今回は阪急電鉄を選ぶ。車中で二人の共通の友人たちの噂話に花を咲かせた。嵐山の夜は暗い。街灯がほとんどないからだ。幸いに雨は小降りになってきた。玉砂利をサクサクと踏みしめ、橋を渡り、桂川の中洲・中之島公園に入ると、ぽぉと黄色い灯が温かくわれわれを迎えてくれた。数寄屋造りの情緒ある店構えである。友人は常連らしい迎え方をされ、われわれは丁重に座敷へと通される。茶室を少し広くしたような風情のある小部屋である。生貯蔵酒「嵐山錦」(フルーティな味)の小瓶を傾けながら、料理を待つ。この店のメニューは毎月変わり、品数によってグレードが違い、価格は4,400円~14,000円と幅広い。友人は毎月ここの料理を楽しむために京都に来ると言う。「京錦」(12品)10,500円(税・サ込)をいただく。十月の献立を紹介する。一、先付 揚げからし豆腐、洗い葱、土佐醤油※揚げた丸い豆腐の中にからしが入っていて、豆腐を割ってからしを付け汁に溶かしてから食す。このお店の膳には必ず付いてくるらしい。 追加[1]珍味二、お造り 鯛へぎ作り すすきけん(大根・胡瓜・人参)、もみじ人参 もろみ漬けにんにく 菊花一片、防風、わさび、造り醤油※もろみ漬けにんにくは大蒜の醤油漬け。絶品の味である。 追加[2]お造り(海魚の作り、あしらい)三、お椀替り 土瓶蒸し(鱧、かに丸、地鶏、松茸、紅葉麩、三ツ葉、柚子、すだち、吸汁)※いやぁ、秋は土瓶蒸しにかぎりますねぇ(^^)。四、桜宿膳 上段・酒肴 山路篭(焼甘露栗、芋かえで揚げ、銀杏松葉打ち) 枯葉小皿(鮭明太子和え、伏見甘長唐がらし) 菊花小付け(木耳・くこの実白和え(三ツ葉)、子持ち鮎甘露煮、秋刀魚小袖寿し(はじかみ)、松の実)※秋刀魚の寿司は脂がのっていて、とても美味しゅうございました。五、桜宿膳 下段・炊合せ 鰊旨煮、長茄子含ませ煮、菊菜、針生姜※京ならではのにしんの煮付けは絶妙の柔らかさである。六、揚げ物 海老芋真引き粉揚げ 舞茸、しし唐がらし、紅葉麩、染めおろし、割り出し※海老芋というのは里芋の長いような芋。これが揚げ物にとても合う。 追加[3]強肴(焼き松茸、柚子、加減酢)七、焼物 銀鱈杉板焼き、えりんぎ茸、あしらい※味噌漬け鱈を焼き、さらに小さな薄い杉板であぶったもの。ほんのりと杉の香が匂い立つ。八、酢の物 焼き霜平貝(とり貝胡瓜巻き、つの字海老、穂じそ) 椎茸胡麻酢和え(青み、吉野酢)九、ご飯 もずく雑炊(生姜、青み) 香の物、錦なめ茸茶漬け、その他十、水物 抹茶アイスクリーム/柚子のシャーベット/その他次々と出てくる料理をすべて撮るわけにはいかないので、写真撮影はあきらめる。仲居さんは相当に年配(還暦超)ではあるが、歳より若く見え、お喋りも軽妙である。途中で若女将・田中輝世さんが挨拶に来た。なかなか品のある年増である。京美人かと思えば、「いいえ、出身は大阪どす」と意外な言葉が返ってきた。「月に1度は荻窪にある東京支店に出張しますので、ぜひおいでください」となかなか如才ない。久しぶりに京料理を満喫した。美味しい料理で腹を満たすくらい幸せなことはない。生酒4本が空になっていた。タクシーを呼んでもらい、二人は祇園の友人の行きつけのバー(創業は40年以上前)へ向かった。店には客はわれわれしかいない。カウンターでウィスキーを呑みながら、マスターと政治情勢や歴史について軽く(笑)ディスカッションする。友人は牛カツサンドを注文し、「これはこの店のナンバーワンだよ」と、私にも勧める。断ると、彼が大盛りサラダと共にもりもりと食べ始めたのには、呆れる。こいつの腹はどうなっているんだ。腹が一杯になり過ぎたのか、友人が「疲れた、眠い」と言い始めたので、まだ早い時間であったが退散することにする。私は明日は浜松で一泊、昔からの知り合いのバーで呑む予定である。友人は明日いったん東京に帰り、また夕方に浜松で私と合流するという。まったく忙しい男である。ホテルに帰り、シャワーを浴び、ベッドに横になったとたんに寝入ってしまった。平和な夜であった。(浜松編に続く)人気ブログランキングへ