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テーマ:司法試験(138)
カテゴリ:刑事訴訟法
【第 2 問】
一 厳格な証明 本件メモを犯罪事実を立証する実質証拠として用いる場合には、証拠能力が必要である(317条、厳格な証明)。 本件メモは、犯行計画が記載されている。そこで、Aを被害者とする殺人および死体遺棄被告事件の犯罪事実である「罪を犯す意思」(刑38条1項、故意)を推認させる間接事実となる、被告人甲が犯罪計画を有していたことを立証趣旨(規則198条1項)とするものと考えられる。そうすると、本件メモには、証拠能力が必要である。 二 伝聞法則 1 本件メモは、公判期日における供述に代わる書面であるから、伝聞証拠(公判供述代用書面)として、証拠能力が否定されないか。伝聞法則(320条1項)の適用が問題となる。 2 ここで、伝聞証拠とは、公判廷での反対尋問(憲法37条2項)を経ない供述証拠をいう。 伝聞証拠の証拠能力が原則として否定される「伝聞法則」の趣旨は、供述証拠は、知覚・記憶・叙述の過程をたどり法廷に顕現するところ、この各過程には誤りが混入しやすいので、反対尋問による真実性の吟味が必要であるとし、もって反対尋問権(憲法37条2項)の保障を図ることにある。 3 本件メモは、作成時点において犯行の計画というかたちで甲が有していたA殺害と死体遺棄の意図を具体化したものであり、精神状態の供述といえる。そこで、精神状態の供述が伝聞証拠に当たるか。 (1)精神状態の供述についても、その供述内容の真実性が問題となる。しかしながら、それは、供述されたとおりの事実が客観的に存在したかという意味においてではなく、主観的事実として存在したかという意味においてである。本件で問題となる「故意」が主観的構成要件要素であると同様、被告人の内心的事実として存在したかの真実性が吟味されるのである。 (2)もっとも、精神状態の供述は、内心のあり様が直接的に叙述されるものであり、知覚・記憶の伝聞過程をたどるものではない。その結果、これらの過程をたどることによって誤りの混入するおそれは存在しない。そうすると、内心のあり様が正確・忠実に表現されたかという供述の真摯性のみチェックすれば足り、精神状態の供述は伝聞証拠にはあたらない。 4 本件メモは、A殺害と死体遺棄の犯行計画を記載したものとして精神状態の供述にあたるから、伝聞法則(320条1項)の適用はない。 三 供述の真摯性 そこで、次に供述内容の真摯性を吟味する。これを欠く場合、証拠の関連性がなく、証拠能力が認められないことになる。 本件では、捜査の結果、Aの絞殺死体(まる3)がX橋の下の土中から発見され(まる4)、その死体から睡眠薬の成分が検出されており(まる2)、また行方不明になる直前にAがレンタカーを借りたこと(まる1)も判明した。そして、現にA絞殺・死体遺棄の犯罪事実が生じている(まる5「決行」)。これらの事実と犯行計画の符合から、甲が本件メモに記載されたとおりの犯行計画を内心に有しており、それを忠実に記載したものと見ることができる。すなわち、本件メモの供述の真摯性を優に認めることができる。 四 結論 このように、本件メモは、証拠の関連性が認められるほか、適法な捜索差押さえ(218条)によって得られたものであるから、証拠禁止にも当たらない。 よって、本件メモを証拠として用いることができる。 以 上 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.07.21 02:27:30
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