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佐遊李葉  -さゆりば-

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2013年10月02日
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カテゴリ:遠き波音
 関屋の軒先を、一羽の燕がつるりと過ぎって消えた。

 春の暖かな陽光の下、木々はようやく芽吹き始め、樺桜の白い花群も山のあちこちに煙っている。

 ここは逢坂関。緑深い峠に佇む、山科国と近江国の国境である。

 この関を越えれば東国。京を離れて遠国へ赴く人々と、懐かしい都へ戻ってくる人々が、逢う、ところだ。そして、去りゆく人々にとっては未知の土地への不安と華やかな都への惜別の情、帰る人々にとっては長旅を終える安堵と故郷への懐かしさが、心の中で深く交錯する場所でもある。

 今も、東国帰りらしい騎馬の若い男が、関屋の役人を捉まえてなにやら自慢話のようなものをまくし立てていた。その傍らの粗末な網代車の簾の陰からは、思いがけず華やかな山吹襲の袿の袖が、遠くの梢の向こうにある京の都へ別れを惜しむようにそっと覗いている。

 燕の行き交う関屋の軒端に腰を下ろしていた近江守は、その袖口を痛ましげに眺めていた。かつての優雅な生活と今の落魄した身の行く末を思わせる萎(な)え古びた袖は、近江守の心に激しい痛みを呼び覚ます。

 それと同時に、今まで一度も心を離れたことのない、ある面影も。

 あのお方も、あんな風に別れを告げながら、京を去っていったのだろうか。

 手渡された白湯を飲もうともせず、ぼんやりと虚空を眺めていた近江守に、近習の一人が笑いながら問うた。

「守殿(こうのとの…国守様の意)にも、この逢坂関のように、逢いたい御方がおわしまするか」

 山吹の袖口と同じく、京の方角を向いていたからだろうか。京に残してきた愛しい女がいるのかと、近習は尋ねたようだ。

 近江守は曖昧に笑みを返しながら、胸の中の面影を手繰り始めていた。


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↓こちらが、網代車。(この写真の車は粗末じゃなくて立派なものですが…笑)こんな風に簾を半ばおろして、そこから綺麗な襲(かさね)の裾や袖先をちょこっとのぞかせているのが素敵!って、当時は思われていました。また、その衣装の状態や雰囲気で、乗っている人の人柄・センス・教養・経済状態!まで、判断されてしまうんです。(宮中の宴会なんかでも、建物の御簾の下から同じようなことをしますが…いつも見られているって、結構大変ですよね。いや、むしろ見られたいのか?)ちなみに、この写真の襲は山吹ではありません。山吹襲は黄色系+青(現代的に言うと、実際には緑)です。山吹の花と葉をイメージしてくださいね。


  • CIMG0794.JPG






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最終更新日  2013年10月02日 16時47分06秒
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