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カテゴリ:営業マン必読小説:どん底塾の3人
■小説「どん底塾の3人」037:楽しさなどまったくありません
「大河内は弁当売りを通じて、何か学んだことはあるか?」 「弁当は昼に売るもの、との固定観念がありました。だから昼が終わった時点で、仕事を止めてしまいました。あらゆる可能性を考え、粘り強く仕事をすべきだった、と反省しています」 「おまえは、元仕出弁当の営業をしていた。企業に頼みこんで、1か月分の弁当メニューを、社員用の掲示板に張り出してもらう。あとは、運まかせだ。これは攻めの営業ではない。 生保に移ったおまえは、なかなか業績が上がらない。おまえは、自分が納得した保険を売っているんだぞ。なぜ、親戚やともだちに紹介できないんだ。自分の商品が優れていると信じているのなら、身近な人から満足のおすそわけをする。当たり前のことが、おまえにはできていない。 コマーシャルに依存している保険は、おまえのところの商品より優れているのか? コマーシャルや企業の看板なんか、クソ食らえだ。おまえだから、売れるんだ。客が満足したら、おまえの商品はクチコミで伝わる。マスコミじゃない。クチコミには投資がいらない。クチコミの伝わる速度は鈍いけど、確実なんだよ」 「よし、では加納の番だ。加納は、弁当売りをどう思った?」 「実際にやってみて、想像以上にたいへんなことだと感じました」 「では聞くけど、楽しかったか?」 「つらいだけで、楽しさなどまったくありませんでした」 「うん、正直でよろしい。ウソつきの海老原は、加納の爪の垢を煎じて飲むように」 大河内雄太は、亀さんが「楽しくなかった」に言及しないことを不思議に思う。加納はプライドの高い女性だ。早く仕事の楽しさを教えなければ、彼女は逃避してしまう。 「いやいやする仕事くらい、つらいものはないよな。おれは商店街がやっている、毎月のゴミ拾いの日がいやでたまらない。住民としての義務だと思ってあきらめているが、なんで非常識な連中の尻拭いをしなければならないんだ。 ところがだ。ある日小さな女の子が、こういったんだ。『お母さん、きれいになったね。もうだれもゴミを捨てられないよね』。それを聞いて、いやだったボランティアが、いっぺんに楽しくなったよ」 結果が出ると、確かに仕事は楽しくなる。加納百合子にも、そのことは理解できる。でも今回は、結果が出なかった。 「加納に、営業活動の基本を伝授しよう。商品を持って、客のところへ行く。次のシチュエーションは何だ? 自分が何を売りにきて、どんなに優れた商品を持っているかに、言及するだろう。最後は、買ってくださいと結ぶ。 これって、どこか間違っていないか。コミュニケーションのカケラもないんだ。一方通行の会話なんだよ。客ニーズ不在の、こんな展開では売れるものも売れなくなる。 いいか、1000円弁当は、たまには豪華な昼飯を食ってみたい、という人にしか響かないんだ。そのニーズを、話のなかで引き出すんだ。それが営業の基本だ。誘導尋問みたいに、客の意識をそこに引きこむことなんだよ」 海老原浩二は自動食器洗い乾燥機の販売が、自分の天職だろうかと考えてみた。自分は何がやりたいのだろう。わからなかった。海老原は亀さんノートに、次のように書いた。 ――自分は何がやりたいのか。今日から自分探しの旅に出る。 ※加納百合子の日記 どん底塾での営業実践は、散々な結果だった。売れないのだ。それ以前に声に出して「買ってください」といえなかった。亀さんにののしられ続ける毎日に、嫌気がさした。落ちこぼれ、負け犬といわれようが、成果が上がらないのだから辞めるしかない。 おれが一流にしてやると豪語したのに、亀さんの指導では効果が上がらない。何も教えてくれないのだ。 ※ダントツ営業の知恵 顧客との対話のなかから、誘導尋問のようにニーズを引き出さなければならない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年03月07日 02時02分40秒
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